takumi@ さんの感想・評価
3.7
新海監督の素粒子的作品
新海監督による1999年の完全自主制作アニメ。
第12回CGアニメコンテストグランプリ受賞作。
デビュー作でもあり、彼の原点、素粒子を感じることができる作品なので、
新海監督ファンの方には必ず観ておくことをオススメ。
物語を追っていけば、それはとても単純な日常の、
よくあるシーンだったりするわけだけれど、
この作品の主人公はあくまでも、飼い猫。
監督の飼い猫でもあり、「猫の集会」や「秒速5センチメートル」
「空のむこう 約束の場所」などでもおなじみの、あのチョビの物語なのだ。
なのでチョビと住む「彼女」の詳しい背景はほとんど描かれず、
チョビから見る、彼女の日常の、さびしさや痛み、
そんな彼女への想いが、ナレーションとして入る。
目で見えるものや聞こえるものだけでなく、春の雨や香水の匂いや体温など、
五感で想像させるシナリオは秀逸。
そしてモノクロ映像のため、かえって観ている者にイメージを抱かせる。
精密な作画はやはり、さすが!といった感じで
そのくせチョビだけは四コマ漫画みたいに、すごくイラストチック。
よく見るとその顔は、新海監督自身にそっくりだったりして笑える。
その対比も面白いし、おそらく猫までリアルに描いてしまったら
それはそれで美しいだろうけれど、何かがぼやけてしまうんじゃないかと思った。
ほんの5分という短い作品だが、モノクロであっても伝わる作画の美しさだけでなく、
雨や雪の描写、セミの鳴き声や部屋の中での足音、電車の中で聞く音、
それから男女交互に、または同時に同じセリフを重ねる手法など、
新海監督の作品に必ずと言っていいほど登場する、欠かせないモチーフが
凝縮されていたことに、思わずニヤッとしてしまう作品だ。