2006年度のカニバリズムおすすめアニメランキング 1

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63.8 1 2006年度のカニバリズムアニメランキング1位
ケモノヅメ(TVアニメ動画)

2006年夏アニメ
★★★★☆ 3.7 (188)
948人が棚に入れました
食人鬼を狩るため古より続く戦闘集団「愧封剣」。その師範代である桃田俊彦は、事もあろうに愧封剣館長殺害の疑いをかけられた食人鬼の上月由香と恋に落ち逃亡してしまう。俊彦の弟の桃田一馬は、逃げた二人の追跡と愧封剣の館長職を継いで愧封剣の運営に乗り出す。元愧封剣メンバーの大葉久太郎の助力を得て組織の近代化を進める一馬だが、最近の食人鬼の激増による連戦で疲労の頂点にある隊員達と、 これを機に影の存在であった愧封剣を社会にアピールしたい一馬の間で亀裂が生じはじめる。

声優・キャラクター
木内秀信、椎名へきる、吉野裕行、柿沼紫乃、筈見純、内海賢二

takumi@ さんの感想・評価

★★★★★ 4.6

エロティックバイオレンスホラーラブコメディ~?とある家族の壮絶な愛の味

2006年8月から11月までWOWOWで有料放送されていたせいで
知名度が低いのか。
あにこれでもレビュー数がとても少ないのが残念でならない。
監督は湯浅政明氏。全13話。70年代によくあったようなOPの演出と
ジャズのビッグバンドっぽい音楽、気性の激しさを感じるフォントがカッコいい。

【愛と欲と哀しみと】

食人鬼を狩るため、いにしえの時代から続く戦闘集団「愧封剣」
「愧封剣」という技は元々、「己の心の中にある鬼を封ずる技=救済でもある」
ということが1話で語られるのだが、この言葉に納得しながらも、
観終えた翌日の今日もまだ、余韻に浸りながらこの意味を考えていたりする。

「愧封剣」の師範代である桃田俊彦は、食人鬼の上月由香と恋に落ち逃亡。
しかし単なる逃亡劇にとどまらず、恋愛だけではない家族愛、親子愛、
そして無償の愛へと話が発展していく壮大さは見応え充分。

食うものと食われるもの、いわば天敵なのだが、見方をガラリと変え
食欲と性欲という密接に繋がった本能を主軸においた場合、
この作品はまさしく「愛と欲望の物語」なのだということに気づく。

しかし、愛や欲望なんて言葉にしてしまうと、ただただ相手の身体をむさぼり
溺れていくイメージが強くつきまとってしまいそうだが、、
それだけではない重みや、複雑な哀しみがこの物語にはあって、
各登場人物たちの過去や心情、事情などが明らかになっていくにつれ、
観れば観るほどに、どんどん惹き込まれていった。


【魅力ある登場人物たち】

ネタバレになるのであまり詳しくは書けないが、
食人鬼のボス的存在の男も、なかなか男気があって魅力的だったし
6話や最終回で見せた異常なほどの大男、”ぼんちゃん”の気の優しさや、
ぼんちゃんのパパで、この物語の大きな鍵を握る大葉氏の狂気も
必要不可欠な存在であり、人間離れしながらも人間的なところは
あまりに哀れすぎて同情してしまうほどだった。
また、本能に素直で正直で、不死身かと思うほどの強靭な身体能力と
精神力の持ち主である俊彦は由香や利江でなくとも、
惚れてしまうセクシーさがあってすごくいい。

でも、俊彦の腹違いの弟で、父亡き後の「愧封剣」のため奔走した一馬や
一馬を支えつつ、許婚だった俊彦への自己犠牲的な深い愛情を示した利江、
そして彼らの父親たちの複雑でせつない想いにも泣けてしまった。
もちろん、由香と俊彦の深い絆と信頼、愛情にも・・・
それを象徴する、最終回のエンディングに登場する一枚の写真には、
「愧封剣」の真の意味を感じ取ることができ、こみ上げるものがあった。 


【印象に強く残った食事風景】

また、9話での老夫婦のエピソードもなかなか良かったし、
塩湖での、つかのまの幸せなひとときはちょっと幻想的で、
心に刻み付けたいシーンだった。 
それだけに、その直後の光景は衝撃大きかったのだけどね。。
ただ、6話の由香の誕生日と9話での老夫婦との食事のシーン、
利江の父親を訪ねていった時に出されたコーヒーなど見るに、
料理や飲み物は、その味そのものはもちろん大事だけど
それ以上に、「美味しいね」と微笑み合える関係と信頼のほうが
重要なんだなとあらためて考えさせられた。


【この作品の魅力】

映画やドラマのパロディも、シーンやセリフの中にちらほらあり、
ギャグとシリアスのメリハリあるバランスが絶妙で、
スパイスの効いたロマンスと辛口なアクションの匙加減にしても、
人間のエゴや愚かさ、本当の悪とは何かを、これでもかというほどに醜く描き
悪夢としか言いようのないグロテスクさとエロの曖昧な境界線までをも
露にしようとした試みにはほんと、飽きさせないなんてもんじゃなく、
恐れ入りましたという感じ。
また、アクションで特に発揮するカメラワーク、音楽の使い方も良い。
特にサンタラの唄うエンディングテーマ『好き』は、この物語のために
書き下ろされたとしか思えない歌詞で、その言葉選びも秀逸。
ちなみに全13話のサブタイトルを見ると、甘い、辛酸、苦味、しょっぱい、
隠し味や蜜の味、などの味覚を表す言葉が含まれているのだけれど、
最終回のタイトルは「味は関係ない」と締めくくっているのも、
いろいろな含みがあって素敵。

どれひとつとっても個性が強くて、おそらく万人受けはしないのだろうけれど、
個人的には今まで観てきたアニメの中のベスト10に入る作品になった。

そして湯浅氏の作品での特徴かなと最近気づいた雨の多用、
激しいアクションシーンで、しかも人の感情の昂ぶりや怒りに比例するがごとく
効果的に使われており、雨の降り方も強弱つけてあって、
そういうさりげなく繊細な部分も好みだ。

つくづく、アニメって総合芸術なんだな、と改めて気づかされたことが
観て良かったなと思ったし、嬉しかった。


最後に、記憶に残ったセリフのひとつ・・・
「気持ちだけで話すな。現実を見ろ!」

自分自身にも時々言い聞かせたい言葉だった。


【観終えたあとに考えていること】

それにしても、人を食べる・・いわゆるカニバリズムとは何だろう?
密林の奥地の人食い族には、どんな秘密と真実があるのだろう?
遭難などして飢餓状態にある時の、生き延びる手段だったり
宗教的なものの他に、確実に太古の昔から存在する事実。
学生時代、この「カニバリズム」について少しだけ探求してみたことが
あっただけに、今回の物語はすごく興味深かったわけなのだけれど、
側面的なことしか、まだ答えが出せていない。
もしかしたら、SMというフィルターを通すと案外、
わかりやすい答えが叩き出せるような気もしている。

究極の自己愛か、本能100%の真の性愛なのか食欲なのか。
冒頭で若い男が「食った(寝た)女の話」を友達に自慢するシーンが
描かれていたが、本当に「食う」のはそんな生ぬるいものじゃないなと
観終えてみてそれだけは今、感じている。

投稿 : 2024/12/21
♥ : 42
ネタバレ

ヲリノコトリ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.2

湯浅デビルマンの次に観ると湯浅監督の主張が分かりやすい

【あらすじ】
普段は人の姿をしている「食人鬼」と、それを狩るために続く「愧封剣」の道場という二つの集団が暗躍する日本。そこで恋に落ちる一組の男女を阻む逃れられない宿命。

【成分表】
笑い★☆☆☆☆ ゆる☆☆☆☆☆
恋愛★★★☆☆ 感動★★★☆☆
頭脳★★☆☆☆ 深い★★★☆☆

【ジャンル】
セックス&バイオレンス、爽やかじゃない恋愛

【こういう人におすすめ】
少なくとも子供にはおすすめしない。見ても何のことか分からないと思う。……というかR15指定でした(笑) 湯浅デビルマンで湯浅監督に興味を持った人が、湯浅作品を巡回するつもりならこれ見たほうがいいかなってくらい。

【あにこれ評価(おおよそ)】
63.6点。

【個人的評価】
高校生くらいの時に観て一度断念。意味不明でした。その後、湯浅デビルマンを観てから見直すと、湯浅監督の伝えたいことが分かる。ような気がする。主張がしっかりしてて個人的には興味深くみることができた。が、デビルマン同様、観ると精神を削られるのでもう観ない。

【他なんか書きたかったこと】
{netabare}
 私のベストアニメが「四畳半神話大系」。「夜は短し」はあざといの作りやがってと思いつつ観て、結局べた褒め。「ピンポン」も最高のアニメ化だと思っているし、「ルーのうた」はポニョのパクリだと指摘しつつポニョより好きだったという、憎らしいほど私の心を掴み続ける湯浅監督。デビルマンは非常にガツンとくるので全員におすすめは出来ませんが、私には原作の思い出補正がないので、非常に力強い良いアニメだったと思います。

 しかしやっと「別に見なくてもいいと思うよ」と言える湯浅作品に会いました(笑)
 
 とにかく分かりにくいので全力で見る必要があります。意外とノリ&勢いを重視しているので、「この猿なんなんだろう」とかは別に考えなくていいです。ストーリーは「手を放して、よそ見しながら」書いているような、直感的で俯瞰的な感じがします。なんて言えばいいのか難しいですが。肩の力を抜きすぎってことかな。


〇いいとこ
・9話、老夫婦のストーリー。この回がめちゃくちゃ面白いです。

・OP「オーヴェール・ブルー」唄:勝手にしやがれ
 ED「好き」唄:サンタラ

・「どっちだと思う?(俺の子か、お前の子か)」このセリフえぐいわ(笑)でもそれをサラッと言うところがカッコいいわ(笑)

・ラスト。{netabare} これが言わば、デビルマンに対しての湯浅監督の主張。状況、流れ、倫理、配慮などをすべて裏切っての、唾を吐きたくなるほど、涙が出るほどの「ハッピーエンド」。「味は関係ない」というのがラストのサブタイトルですが、「愛以外はすべて関係ない」みたいな感じ。この「どうしようもないハッピーエンド」がデビルマンの「どうしようもないバッドエンド」と対比されて良いですね。でもこの良さはデビルマン(もしくは他のバッドエンド作品)ありきですが。
 デビルマンのネットインタビューで、原作者の永井豪さんが「ラストまで描いてくれたことが一番良かった」みたいなことを仰ってましたが、もしかして「ラスト変更しませんか」みたいな議論があったのかな?それを皮肉ったインタビューの回答だったのかなってちょっと思いました(笑)
  (↑これは邪推)
{/netabare}

 主人公の突然来る下痢は多分、過敏性腸症候群というちゃんと実在する病気です(笑)
{/netabare}

投稿 : 2024/12/21
♥ : 15

だわさ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.4

面白い。まさに怪作。

13話

面白い。
異形の人食いという化物を物語の軸にすえながら、愛について描く湯浅監督の力作。
随所にユーモアや面白い風刺を散りばめ、必要以上に重くならないようになっている。
R15指定もついていてエロ・グロ描写はきつく、ファンを選ぶ作品になっているが、
愛について描くというだけあって内容は深く、各キャラ視点での考察を楽しめる構成になっている。

この作品の作画に対する評価は難しい。
作画が綺麗じゃないという声のあるこの作品、たしかに作画は苦手な人もいそうだ。
作画は鮮やかでなく淡く、キャラデザイン含め全ての絵の輪郭が安定しない。
一見雑にも見える線の多い画像。女キャラは全く可愛くなく、豚とは無縁と言い切れるが、
このアニメの制作された2006年の「いい頃のマッドハウス」はアニメの在り方について
一石を投じる作りを湯浅監督のもとでやってのけたと思う。
キャラや背景は抽象的かつ象徴的であることに徹することで、
従来とは別のベクトルで視聴者によるリアリティーへの還元を試みたという作品なのではなかろうか。
変化球らしい変化球というか、異彩をはなった異色のアニメ作りであり、
これこそまさに怪作であると言いたい。

最終話のまとめかたが少々役者に役を持たせきれなかった感触はあるものの、
視聴後の余韻は強烈で、各キャラの愛についての物語の
ハッピーエンド、グッドエンド、バッドエンドについて自分の記憶の欠片と対話し、その美しさや愚かさについて考察したくなる。
そんな魅力を持つ面白いアニメだった。

投稿 : 2024/12/21
♥ : 36
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