青龍 さんの感想・評価
3.9
映像◎物語▲
本作は、Cygamesによるメディアミックスプロジェクト「ウマ娘 プリティーダービー」を原案とした映画作品。
上映時間は、108分。監督は山本健。制作は、『勇気爆発バーンブレイバーン』、『ウマ娘 プリティーダービー ROAD TO THE TOP』などのCygamesPictures。
(2024.7.16投稿)
アプリゲーム『ウマ娘』のゲーム内アイテムのおまけ付きチケットで観てきました(ゲームユーザー的には、おまけが本体という話も(笑))。
本作については、概ねここでの評価もそれ以外から聞こえてくる評価もキタサンブラックが主人公で酷評の多かった『ウマ娘3期』と比べて、好意的なものが多い印象です。
ただ、興行収入自体は、今のところ10億円超らしいので、大コケではないけれど、売れたともいえない数字になっています。
その原因の1つは、本作も基本的にリアル日本競馬とウマ娘についての最低限の知識がないと楽しめない内容になっているからだと思います(アプリゲームの人気が凋落しているところに、新規に対する視聴のハードルが高く間口が狭くなっています。要は、「とっつきにくい」。ただし、もともと興味のある人が観た場合は、好意的な印象を持つ可能性が高い内容になっていると思います。)
もっとも、そこまでディープな知識がなくても楽しめるとは思います。
例えば、数ある日本競馬のビックレースの中でも「日本ダービーに勝つ」ことが最高の栄誉とされ、そこでジャングルポケットが勝ったので、本作の主人公になっているくらいの知識が必要でしょうか(※判断基準としては、これをディープな知識と思うかどうか(笑))。
【あらすじ】
本作は、2001年における史実の日本競馬を「ウマ娘」として擬人化した作品。主人公は、その年の日本ダービーを制したジャングルポケット(CV.藤本侑里)。そのライバルとして主にアグネスタキオン(CV.上坂すみれ)が登場。
ナリタトップロード(CV.中村カンナ)が主人公で1999年の史実のクラシック戦線をウマ娘化した『Road to the Top』の2年後の話。
ちなみに、翌年の2000年、20世紀最後の年は、1999年の皐月賞馬であるテイエムオペラオー(CV.徳井青空)が、天皇賞(春)、宝塚記念、天皇賞(秋)、ジャパンカップ、有馬記念のG1の5勝を含む年間8戦全勝という前人(?)未到の記録を作り、その圧倒的な強さから『北斗の拳』のラオウになぞらえ「世紀末覇王」と称された。
【映像◎】
さて、私は、アニメの視聴傾向としてストーリー重視ということもあり、本作のストーリーに対する評価はそれほど高くありません。
ただ、特にレースの作画と演出は、過去の『ウマ娘』作品の集大成といっていい素晴らしい出来栄えだったと思います。
思い返せば、『ウマ娘1期』のレースシーンでは、主に真横からのアングルで内側の柵(内ラチ)がどれだけ早く過ぎ去って行くかで「ウマ娘の速さ」を表していた。
それが、期を重ねるごとに、実際のレース映像や騎手目線のアングルが増え、レースの臨場感が増していったというレース描写の進化の歴史がありました。
ただ、『ウマ娘3期』のレースシーンでは、声優の絶叫の細かい演じ分けという、「いや、そこ拘るのは別にいいんだけどさ、アニメなんだからアプリゲームの固有スキルの演出とか参考にして、もっと「見た目」的にわかりやすい演出にすればいいんじゃね?」と思った人も私だけではないはず(笑)
本作では、その辺がきっちり改善されてます。相変わらず絶叫はしてますが、これまでの実際のレース映像や騎手目線のアングルに加えて、前に勝利への道筋が見える的な演出だったりと視覚的な表現が増えてます。
したがって、過去の『ウマ娘』作品の集大成といっていいレースシーンになっています(※ただ、今作もゲームの『ウマ娘』に登場していない競走馬の扱いが軽いので、レース中の他のウマ娘との駆け引きといった心理描写は薄いです。なお、同じウマ娘でも『シンデレラグレイ』では、この辺をきちんとやってます。)。
あと、映画なので「音」の臨場感がすごい。一緒に走っているような錯覚に陥りました。
まあ、映画というでっかいスクリーンと大迫力の音響で観るという表現媒体の特性を考えると、「映像で魅せる」という、この戦略自体は間違いではなかったと思います。それに、2時間弱という上映時間を考えると、テーマを絞らないと丁寧にストーリーを描く尺の余裕もない。
なので、特にウマ娘関連作品をこれまであまり観てこなかった人は、ストーリーはよくわかんないけど、なんかレースシーンがすごかったという感想になりそうです。
【「物語▲」】
本作のサブタイトルは「新時代の扉」なのですが、これは、「勝ったのはジャングルポケット、2着にダンツフレーム!マル外開放元年、新時代の扉をこじ開けたのは、内国産馬・ジャングルポケット!」というフジテレビアナウンサー・三宅正治さんの2001年の日本ダービーの実況に由来していると思われます。
「マル外」というのは、簡単にいうと外国産馬のこと。日本ダービーでは、主に北海道に多い競走馬の国内生産者を守るため、歴史的に外国産馬の出走が制限されてきました(※競馬は海外の方が歴史が深いため、歴史的に外国産馬が強かった。)。しかし、それが一部解禁されることとなった2001年に実際に勝った馬は、国内で生産されたジャングルポケットでした。
したがって、ここでいっている「新時代の扉」とは、これまで強いとされてきた外国産馬に内国産馬が実力で勝つ時代が来たのだということでしょう。
ちなみに、この年の日本ダービーでは、外国産馬として5着に入った「クロフネ」がいました(※作中では「ペリースチーム」。ただし、有名な個人馬主さんでゲーム内実装キャラではないため、扱いが非常に軽いです。)。
もっとも、本作のストーリー的には、馬名の使用許諾の関係上クロフネにスポットを当てられないこともあってか(ゲーム内未実装キャラにあてる宣伝費はない的な大人の事情なんですかね…)、2001年のジャパンカップで「世紀末覇王」ことテイエムオペラオーにジャングルポケットが勝ったことを指して、「絶対王者の終焉」、すなわち「新時代の扉」が開かれたということなのだと思います(※ポスターでもラスボス的な位置に描かれているのは、オペラオーです。)。
別に違うレースの実況をサブタイトルの元ネタにしていることを批判するつもりはなくて、そういう解釈もできると思うのですが、じゃあ、本作は、オペラオー世代とジャンポケ世代の世代交代がメインテーマだったかといわれれば、そうでもない(※ジャンポケとオペラオーとの絡みがほとんどない)。
したがって、「新時代の扉」というサブタイトルでありながら、そこに向けて物語が徐々に盛り上がっていくという作りにはなっていないので、テーマが漠然となっている印象を受けました。
例えば、{netabare}ジャンポケがタキオンに対して抱いていた圧倒的な速さに対する恐怖、それと同じものをオペラオーにも感じていたというわけでもない。まあ、史実のオペラオーは、いつも僅差の勝利でタキオンと違って圧倒的な速さで勝っていたわけではないのですが…
また、フジキセキ(CV.松井恵理子)とそのトレーナーの思いがオペラオーと関係があったようにも見えませんでした。あと、ジャンポケと同期のダンツフレーム(CV.福嶋晴菜)とマンハッタンカフェ(CV.小倉唯)の掘り下げが中途半端なので、ジャンポケが同期の思いを代表していたという感じでもない。
なので、それぞれのエピソードが絡み合って1つのストーリーとして相乗効果を発揮していたとは思えませんでした。{/netabare}
というわけで、私が本作のストーリーを高く評価していない理由は主にこの辺にあります。
【まとめ】
本作も、特に3期のレビューで私が問題提起したのと同様の根本的な問題を抱えていて、Cygames原案でゲーム『ウマ娘』の販促という側面や、競走馬の名前の使用許諾など、色々と表現の制約があったかと思います(※個人的には、今後、アニメ化されるであろう『シンデレラグレイ』にこういった悪影響がでることを懸念しています。)。
そう考えると、テーマがある程度漠然となってしまったのは已むを得なかったのかもしれません。
しかし、それを差し引いても、特にレースシーンについては、過去の『ウマ娘』作品の集大成といっていい素晴らしい出来栄えであったと思いました。