れんげ さんの感想・評価
4.1
本格的なロードレースを軸に語られる、男の生き様とは。
2003年、劇場公開。
上映時間47分。
【前置き】
本作は、レンタルショップでは決まってスタジオジブリ作品の棚に収められていますが、制作は「マッドハウス」であり、ジブリは一切関係ありません。
私は、最近まで勘違いしておりました。
制作委員会に、ジブリに関与する企業が多いことが関係しているそうです。
加えて、監督の高坂希太郎さんは『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』等のジブリ作品で作画監督を務めた方で、本映画の原作漫画「茄子」も宮﨑駿監督本人から推されて見たという逸話があります。
もう、同じ棚に置いちゃえってのも、分からなくもないですね。
自転車を題材にしたアニメ「弱虫ペダル」を見始めて半年以上。
思い返すと、そのずっと昔から見てみたいけど機会がなく後回しにしていたのが、同じく自転車を題材にした本作「茄子 アンダルシアの夏」でした。
本格的なロードレースを描いていると聞いていたので結構な期待をしながらの視聴でしたが、その気持ちには応えてくれたかな、と思います。
【あらすじ】
舞台は、スペインの「ブエルタ・ア・エスパーニャ」と呼ばれる、ヨーロッパの3大自転車ロードレース。
本作は、それに出場する主人公、スペイン・アンダルシア州出身の『ペペ』の葛藤と生き様を描いた作品となっています。
この主人公ペペは、プロのロードレーサーとしてスポンサーを抱えて「仕事」に取り組む傍らで、同日に開かれる昔の恋人と実兄の結婚に、複雑な気持ちを抱えていました。
【論じてみる】
{netabare}
47分という短い時間の中で描かれたのは、ロードレースを通しての人間でした。
「人間がロードレースをしているところを描く」
というより、
「ロードレースをしている人間を描く」
と言えばいいのでしょうか。
勿論、ロードレースの内容自体も、かなり本格的だったのですけど。
ペペの葛藤とは裏腹に、結婚式に参加する皆はペペの試合模様が気になっていました。
新郎新婦も、それは例外ではありません。
ペダルをこぐペペも今や、その兄達と後腐れがあるわけじゃない。
仲が悪いわけでもない。
ただ、今の自分は、自分なりに精一杯走り続けるのみ。
現場をよそに結果のみでしか判断しないスポンサーをなだめながらも、監督はペペに
「スポンサー様に、プロのレースを教えて差し上げろ。」
と激励を送ってくれます。
それに対し、ペペはその心に秘めた意志を吐露するのでした。
『監督、アンタに教えてやりてぇ。
プロってのは、仕事以上のことをやっちまうヤツだって。
そうでなきゃ……そうでなくちゃ…
産まれた土地から、出ていけないだろう。
俺は遠くへ行きたいんだ!!』
…………う~ん。。。
やっぱりちょっと、引きずってもいたのでしょうね…。
声優を務めたのは俳優の大泉洋なさんですが、この方の声はどの作品でも安定して上手いですね。
(あくまで俳優としては…で、本業の方とは比べられませんけど。)
{/netabare}
【ロードレース】
{netabare}
本作のロードレースは、2ペアのチーム戦。
作中で繰り広げられた戦略や駆け引き、抑揚する車体の作画は、見応え抜群でしたね。
元々、ペペはエースを引っ張るアシスト選手である為、集団から先を走ることで追う選手を引き連れて、小さな集団を形成する戦略を立てます。
これは、最終的にエースを勝利させるため、先のその小さな集団のペースを更に上げて、集団内のライバルをふるい落とすことが目的だったりするんですね。
全く無知の頃は、体力だけがモノを言うスポーツかと思いきや…、いやはや…なんという騙し合い。
奥が深くて面白いですね。
しかし、先を走っていたその集団からペペが脅威でないことがバレ、2回目の先走りには付いてくる選手は誰もおらず。
ペペは、独断での走行を余儀なくされるのです。
後続に戻れば、もうそこから先に出る体力はない。
しかしそれは、灼熱の中で風除けもおらず一人体力を減らす、レースでは自殺行為とも言える無茶な走行となりました。
そんな中、エースが不慮の落車でリタイアとなり、ペペはアシストする相手すら奪われるのです。
監督は、この状況を打開する唯一の手段として、ペペに苦渋の決断を言い渡すのでした。
「そのまま逃げ切り、勝ちに行け!」
と………。
途中に入る実況は、まるで自分が実際のロードレースをテレビ越しに見ているかのような生々しさで、レースの臨場感を飛躍的に高めていたように思います。
ただ、その冷静な分析は
「コイツ!、少しはペペの気持ちも組んでやれよ!」
なんて気持ちにもさせられましたけど。
こう思った瞬間、
「あぁ、ボクは今…この作品を楽しんで見ているんだなぁ。」
と実感しました。
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【総評】
スペインの情緒あふれる情景を存分に描きながらも、自転車競技に向き合う一人の人間がしっかりと描かれた良作となっておりました。
ただ、前提として47分で魅せる作品なので、大作と比べたり過度な期待も禁物ですが。
自転車の動きについても、風を受け流すようにと集団がウェーブのようになる並行運転や、僅差を詰める為にギリギリのコースラインを抉るように走る様など、絵としてもしっかり魅せてくれました。
そして最後の最後、「諦めたら終わり」の根性のスプリント勝負は、やっぱり一番熱くさせてくれました。
続編のOVA「茄子 スーツケースの渡り鳥」も、またの機会に見てみようと思います。
ではでは、読んでいてありがとうございました。
◆一番好きなキャラクター◆
『ペペ・ベネンヘリ』声 - 大泉洋さん
◇一番可愛いキャラクター◇
『メグロ(黒猫)』声 - 猫さん
以下、「おなら」について。(どーでもいい話なので、〆ます。)
{netabare}
作中、ドーピング検査の為、検査員の前で尿検査を行うシーンがあるのですが、
主人公ペペは、そっちより先に後ろから放屁し、検査員を巻き込んで変な空気を作り上げておりました。
この時の屁の音は、実にリアリティがありましたね。
尿の時のヤツは毎度、甲高く小奇麗な音色を奏でるものです。
たまにお尻が、力みor緩み過ぎて、本命が顔を出す場合も……。。。
あの時ほど、自分が人間のクズだと思った時はありません。
{/netabare}