ウィスキーで家族なアニメ映画ランキング 1

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75.6 1 ウィスキーで家族なアニメランキング1位
駒田蒸留所へようこそ(アニメ映画)

2023年11月10日
★★★★★ 4.1 (51)
237人が棚に入れました
経営難の蒸留所を舞台に、家族の再生と幻のウイスキーの復活を目指す若き女社長の奮闘を描く劇場版オリジナルアニメーション。
先代社長であった亡き父の跡を継ぎ、駒田琉生は駒田蒸留所の若き女社長となった。琉生は経営難の蒸留所の立て直しを図ると共に、バラバラになってしまった家族と、幻のウイスキー“KOMA”を復活させようと、奮闘の日々を送っていた。
そこに、自分の仕事に魅力を見いだせずにいる新米記者の高橋光太郎が取材のためやってくる。
ネタバレ

101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

『Komada A Whisky Family』

長野の小規模メーカー「駒田蒸留所」
若くして女社長として跡を継いだ駒田琉生(るい)が、
経営難に直面しながらも家族の酒である幻のウイスキー“KOMA”復活を目指して奮闘する姿などを描いた、オリジナル青春群像映画。

【物語 4.0点】
P.A.WORKS“お仕事シリーズ”の最新作。
だがレビュタイに掲げた本作の英題の通り、後半にかけてより家族の絆の物語へとシナリオが傾斜していく。


前半、主人公視点を蒸留所の女社長・琉生ではなく
ネットニュースサイトのうだつの上がらない記者・高橋光太郎に置き、
取材視点で群像を渡り歩く内に、当初やる気のなかった取材にも熱が入っていって……という展開。

お仕事アニメとしても、ウイスキー作りを下積みから叩き上げてどうとかではなく、
自分のやりたいことが分からずにフラフラしている記者の若者が、
与えられた場所や仕事で本気に取り組むことで、
周囲の様々な人生に触れ、発見や成長をしていく。
好きなことをストレートにやるだけが成功じゃない。
やりたいこととは関係ないと思っていた仕事から思わぬ道が拓けることもあるとの教訓を伝えることに力点が置かれる。

ウイスキー作りについても専門性をマニアックに深掘りするのではなく、
幻のウイスキー“KOMA”を家族の絆を象徴する軸として活用した感じ。


これらのシナリオをプロットはあまりガチガチに詰めずに、
登場人物のブレンドが生み出す化学反応に期待して脚本。

そのため予め目標にしていたクライマックスではない、思わぬ場面がヤマ場になりますし、
人によっては光太郎同様シナリオも方向性が定まらずフラフラしていると感じるかもしれません。

けど私はあまりウイスキーアニメだからなどと決めつけずに、
シナリオの流れに身を委ねたら、終盤、(※核心的ネタバレ){netabare} 琉生の母が復活したKOMAを試飲{/netabare} する場面では感動。
意外と人物や伏線をそう絡めて繋げて来たか、
ウイスキーKOMAの“タイトル回収”と合わせて、
独楽の如くクルクルと上手くシナリオを回して来たなと感心もしました。

熟成まで最低3年かかるウイスキー作り。
序盤仕込んだネタが何処で熟成されるのか。
高々90分の上映時間くらい辛抱強く待ちましょうw
特に冒頭のワンカットには仕込みが多いので感度を上げて挑むことをオススメします。


【作画 4.0点】
人物作画の描き込みは思いのほか簡素。
背景美術も高密度なフォトリアルではなくイラストタッチ。
作風には合っていますが、劇場版クオリティとして評価すると平凡な出来。

一方やはりウイスキー関連については、ウイスキー監修まで招いて、
見慣れない道具のリアリティーにまでこだわって描き込んで来ます。
蒸留施設にあるニューポットの金属のテカり具合とか他の背景とは気合が違います。

私が凄いと思ったのは調合室の描写。
サンプルの原酒一つ一つに色彩を設定しなければならない。
テーブル上や棚に色とりどりの瓶が並ぶ絵は壮観でしたが、作画の面倒臭さを思うと気が遠くなりましたw


【キャラ 4.0点】
一応、前半、青春群像劇の主人公視点を与えられたネットニュース記者・高橋光太郎。
本作の監督が若手にアニメ制作を教える中で、もう少しで開花しそうなのに辞めてしまう人がいるとの悔恨から、
こうした若者たちにエールを送る意図も込めて創造されたキャラクター。

よって序盤、自分探しをこじらせて異様に情けないのも、群像間をフラフラしているのも、狙いとしては正しいのでしょう。
が、中盤、{netabare} 琉生社長に向かって、家業継いで好きなこと仕事に出来る奴はいいよな~とトンチンカンな悪態を付いて往復ビンタを喰らう{/netabare} 件は、シナリオの転換点として機能していたものの、流石にイタ過ぎると私も頭を抱えましたw

普通ならコースアウトしかねないほど危なっかしい光太郎が前に進めたのは、
蒸留所・道具修繕担当のベテラン東海林さん、
ネットニュース会社上司・安元さんの温かいフォローのお陰様でしょう。

あとは光太郎が凹んでいる時には愚痴を聞き、
調子が出てきた時には自慢話を聞く親友の斉藤裕介。
俺もどうせ酒を飲むなら、こういう奴と酔い潰れて放言して、内心ウザがられたいですw


後半、光太郎が本気を出し、取材の進展と共に、
真の主役へと解像度アップする女社長・駒田琉生(るい)

確執を抱えた兄・圭などバラバラだった家族が、
思わぬ視点で、駒田家や琉生のことを互いに見ていた。
家族の酒・KOMAを通じて豊潤になっていくキャラクター相関が味わい深かったです。


【声優 4.5点】
オーディションでキャスティングする中、
駒田 琉生(るい)役だけは早見 沙織さんを指名して起用。
若きリーダーとしての仮面に覆われた前半と、
キャラ深掘りによる本音の暴露と、家族などに関して心境が変化していく後半で振れ幅も大きい役柄。
それでもブレない優しさをナチュラルに持っている早見さんの性格に期待してのキャスティングとのこと。
私もしかと伝わって参りました。

真面目な女社長役なので、はやみん萌えの補給は望めない?と思いきや、
{netabare} テイスティングノートをBL漫画イラストで表現していることが知られた際に赤面{/netabare} する早見さんの演技はなかなか破壊力がありましたw


振れ幅という点では高橋光太郎役の小野 賢章さんも見違えていく若者を好演。
それ以上に、そんな若者の成長を見守り、時にケツも拭いたりする、
上司・安元役の細谷佳正さんの包容力のあるボイスの安定感、安心感が半端ありません。


【音楽 4.5点】
劇伴担当は加藤 達也氏。
力強いピアノとストリングスによる心情曲、戦闘曲が印象的な作家さん。
本作ではそこにサックスのブレンドを多用しウイスキーのムードを演出。

駒田 琉生(るい)役の早見 沙織さんが歌うED主題歌「Dear my future」も加藤氏が作曲。
そのメインフレーズが劇伴でも軸となる。

このBGM私は正直かなりお気に入りです。
サントラが出たら、やりたくもないタスクに向かう憂鬱な朝とかに是非チョイスしたいですw

因みに主題歌「Dear my future」のフルVer.のDLカードが劇場鑑賞特典。
YouTubeのMVショートVer.じゃ納得できない方は是非劇場に足を運びましょう。



【余談】
本作の舞台は2019年ですが、ウイスキーを巡るエピソードは数年単位のスパンで物語られます。
個人的には、駒田蒸留所と家族の歯車を狂わせた起点として設定された長野県北部地震のことを失念していたことがショックでした。

3.11の翌日未明に発生したこの地震のニュースが流れた時、
どうせマスコミは3.11ばかり取り上げて、この内陸型地震のことなどすぐ忘れ去られるだろうから、私は覚えておこうと思っていたのですが……。

長期的な視点を忘却しない大切さもまた本作から学ぶことができます。

投稿 : 2024/12/21
♥ : 22

薄雪草 さんの感想・評価

★★★★★ 4.3

人を選ばない作品

お仕事シリーズ、「花咲くいろは」から数えて "12年ものの銘品"。
私はそう評価してみたいと思います。

シリーズのなかでは、ちょっと抑え気味な演出です。
でも、その分、リアル寄りですし、自然体で寄り添える感覚で視聴できました。

差し込まれるサックスの音色がとても心地良くて、作品の薫りをまろやかに耳に届けてくれます。
私はどちらかというと雰囲気上戸のほうなので、お酒にもBGMにも好き嫌いはありません。

そんな91分でしたので、馥郁とした余韻に任せて向かったのは、馴染みのリカーショップ。
手に取ったのは、地産のウイスキーでした。

小瓶、でしたけど、ね。



主人公は、若くして家業を継いだ駒田琉生(こまだるい)。
声は、早見沙織さんです。
あとの出演者は、申し訳ありませんがあまり印象に残っていないんです。(本当にごめんなさい!)

それだけ、駒田琉生に肩入れしてしまったというか、早見さんの声がはまっていたというか・・・。
彼女らの想い、悩み、頑張り、歓びが、じんわりと胸を包み、ゆたかな共感を呼ぶのです。

その人柄は、今を生きている同世代の方にも、きっとフィーリングがリンクするような気がします。
琥珀の液体に命を吹き込もうとする意志と瞳が、鑑賞する人にも同じように向けられます。

勤労することの "今" に、そして "未来" に「ようこそ!」と。



実は、鑑賞前は、少し戸惑いを感じていました。
というのも、お仕事シリーズのフィクショナルな部分でいくらか違和感を感じていたからです。

作品は観られることが大前提ですから、主人公キャラを盛るのは常套だと思います。
ただ、盛りすぎる手合いはちょっと遠慮したいかなっていう過去シリーズへの受け止めもあります。

もちろん、表現性や受け止め方はそれぞれなので、あくまでも私の中にある限定バイアスなのです。
ただ、そうした縛りが拭えなかったので、同じようなテイストだと外れちゃうかなあって心配があったわけです。

で、どうなったかと言うと、気持ちよくお酒を買ったくらいですから、P.A.WORKSにも、リカーショップにも、そして私にも、ウィンウィンの相乗効果が出たというのが今回の答えです。



蒸留酒には、3年もの、5年もの、10年ものだったり、古酒と呼ばれるものだったりがあります。

そこに飲み手の人生の蘊蓄が加われば、なお味わいは深くなり、彩りが生まれるでしょう。

本作は、そこにブレンダーの手、寝かせた木樽の息遣いを、五感に加えてみるというもの。
クラフトウイスキーの造り手からの新しい提案とも言えそうです。


人と人との距離感が薄れかけている昨今です。
グラスを傾けながら、心を近づけ合う機会は、どんなにステキなことなんだろうって思いました。

人を選ばない作品。

ですが、その薫陶は、どうやらレヴューでは書ききれなかったみたいです。

投稿 : 2024/12/21
♥ : 15

でこぽん さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

ウィスキー製造の苦労がわかる物語

震災にてウィスキーの原酒が無くなった駒田蒸留所で、幻のウィスキーKOMAを復活させようとする人たちの物語です。
また、この映画では、仕事に対する熱意についても語られています。まだ自分の仕事を見つけていない人や仕事に夢を見いだしていない人は、見ておいて損はないですよ。

前半の主人公は、仕事にやる気をみいだせず5回も転職した新米記者の高橋光太郎(たかはし こうたろう)。
後半の主人公は、駒田蒸留所の社長である駒田 琉生(こまだ るい)。


光太郎はウィスキー製造(蒸留)の取材なのに、前もってウィスキーに関する調査をすることなく仕事をする『やる気なし男』。
琉生は、芸術家を目指していたのですが、父親が亡くなったため、急遽、駒田蒸留所の社長を引き継いだ女性。就任当初、彼女はウィスキーの知識は殆どありませんでしたが、懸命に努力し、震災で経営がどん底にあった工場を立て直した頑張り屋さんです。

光太郎から見た琉生の第一印象は、親から社長を受け継いだ恵まれた女性としか映りませんでした。
そのため、彼女をねたんでひどいことを言います。
でも、琉生の過去を知り、琉生が仕事に一生懸命な姿を何度も見て、自分の生き方を反省します。

琉生の目標は、幻のウィスキーKOMAを復活させること。KOMAは琉生にとって家族の幸せだった頃を思い出す味でした。
きっと琉生は、今はバラバラになった家族の絆を取り戻したかったのでしょう。
しかし、製造方法もわからないKOMAを復活させるには、多くの困難が待ち構えていました。

ウィスキーは大麦を原料につくられますが、仕込みから蒸留で、最低3年かかります。20年以上かかるウィスキーも存在します。
仮にKOMAの製造方法がわかったとしても、出荷されるまでには相当な年月が必要でしょう。

私達が何気なく飲むウィスキーをつくる迄には多くの人たちの長年の努力があることを感じさせる映画でした。


ところで、2023年9月にイギリスで開催された世界的な酒類コンペティションにて、サントリーの「山崎25年」が「シュプリーム チャンピオン スピリット」を受賞しました。これはエントリーした全部門約2,300品の頂点にのみ与えられる賞であり、日本の会社が受賞するのは初めてです。
サントリーは、このウィスキーをつくるのに25年をかけたのです。
おそらく企画から製造の試行錯誤期間を加えると、途方もない年月がかかったのでしょうね。

投稿 : 2024/12/21
♥ : 26
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