101匹足利尊氏 さんの感想・評価
3.7
壁井ユカコ氏・原作小説、待望のアニメ化
原作小説はsecond seasonを集英社文庫版で購読中。
【物語 3.5点】
1クールで{netabare}福井県代表決定戦の決着{/netabare}という区切りまでやり切る。
そのため原作の1stシーズン(文庫本4冊相当)から、
展開、個別エピソードなどを切除し、押し込む。
文芸としての良さを出し切るには尺不足で、
スポ根アニメ風に、無難に締めざるを得なかった感。
ただ、スポ根としても、爽やかさより、心情重視で、
北陸を舞台にした文芸の湿っぽさが先に立つ作風故、
スカッとしたい方は折り合えない可能性。
シナリオの転換点に派手さがないのも文芸原作ならでは。
ここも高校の三年間は、大人が25歳から28歳になるのとは違う密度がある。
大人たちにとっては取るに足らないことも、少年たちにとっては一大事。
といった描写が視聴者に伝われっていれば、これもまた青春と納得できるのですが、
色々、端折った内容で、原作未読組に、届いたのかどうか……。
下手したら、何でこんなことで?結局、引っかき回したいだけなの?となりかねない。
そのリスクが一番大きい脱落ポイントが第5話。
正直、原作既読組の私から見ても、重要シナリオなのに雑だと思いました。
そこを乗り越えれば、終盤、上々の試合描写に酔える。
高校生如きが考え抜いたプランなど、
嘲笑う勝利の女神という皮肉な展開も含めてビターでグッド。
ただ、スピード感重視のため、
作中バレーの専門用語を詳説なしで乱発するスパルタぶりも原作同様w
【作画 3.5点】
アニメーション制作・david production
背景美術は冬の北陸・福井の曇天などを描き込み、
早々、晴れ間が差さない青春の度し難さをフォロー。
人物作画も、決してソースは潤沢ではないが、
ここはキャラデザ・総作画監督の高橋裕一氏らのスタッフ陣が、
試合に賭ける執念の表情、動作等に注力。
最後の{netabare}一撃に賭けた三村統は鬼気迫る描写でした。{/netabare}
印象的なのはCGも交えて再現されたボール。
時にバトル漫画で殴打された顔面の如く、
表皮を波立たせながらコートに叩き付けられるなど、
多彩な“表情”で魅せてくれたMIKASAの公式球が作画面の影の“MVP”
【キャラ 3.5点】
キャラの掘り下げという点で、構成のあおりを受けたのは清陰の二年・棺野。
個別回を飛ばされた上、関連キャラである荊(いばら)ちゃんは人物ごと削除……。
棺野も、フードを目深に被り、時々、女子バレー部で練習したりしていますが、
決して怪しい者ではありませんw(特殊な事情はありますが)
ただ、棺野はまだ思い切ってキャラ整理された清々しさもありますが、
ダメージが大きかったのは主人公の黒羽祐仁(ゆに)でしょうか。
フィジカルに恵まれながら中々バレーに本気にならない。
特に前半部はストレス要因にもなる懸念。
ここも、彼は地元の名家・黒羽家の“本家のボンボン”として、
街の何処行っても注目され、その煩わしさ、甘さから、何事にも打ち込めず、
親戚で不良の頼道に寄り道しているという心情が斟酌されていれば、
共感はできなくても理解はできるのですが……。
もう一方の主役・灰島公誓(きみちか)はバレー馬鹿な部分も含めて“舌好調”♪
そんな生意気な一年の才能と正論に賭けた小柄なキャプテン・小田や、
甘やかさないが認めてはいる長身の青木の凸凹三年生コンビ。
壁となるライバル校の“英雄”三村統(すばる)とマネージャー。
この辺りは“カップリング”含めて掘り下げも良好。
【声優 4.0点】
祐仁……榎木 淳弥さん。青木……梅原 裕一郎さん。統……石川 界人さん。
など豪華男性声優陣が、キツいが温かみがある福井弁の掛け合いを繰り広げる、
県内高校バレー界隈に、
東京から帰って来た灰島……小野 賢章さんが
標準語の言葉のナイフで切り込んでいく構図。
彼女はバボちゃんか~などと方言で突っかかる祐仁に、赤面する灰島w
バレーではえげつなくても、高校生はまだ子供。
男の子って可愛いな~と私を錯乱させる程度にはBLにも訴求する?演技w
【音楽 4.0点】
劇伴は菅野 祐悟氏。小気味よいギターサウンドが大会を好アシスト。
体育館床にボールが弾む音、シューズが鳴る音など、効果音にも臨場感あり。
OPはyamaさんの「麻痺」
バンド&ブラスのコンビネーションが心地良い快作♪
歌詞世界はどちらかと言うと祐仁と親和性が高い。
EDはシンガーソングライター・崎山 蒼志さんの「Undulation」
研ぎ澄まされた個性的なボーカルで、青春を達観したようなエッジの効いたメッセージを放つ。
どこのオッサンなんだろう?と思いきや、御年なんと18歳!若くして悟り過ぎでしょうw
因みに40歳になったら出家したい願望をお持ちだそうですw
以下、放送前の勇み足長文。長いので折りたたみw
{netabare}
ライトノベル作家の登竜門・電撃小説大賞。
かつてその大賞を二年連続で女性作家が制した時期があります。
2003年(第10回)が有川 浩氏。
そして、その前年(第9回)が壁井 ユカコ氏です。
ゼロ年代の同賞は、本当に凄い新人を続々と発掘していましたが、
その中でも、特に、このお二人は文体から既に新人離れしていて、
これは、一介のラノベレーベルの人気作家で収まるスケールじゃない。
電撃文庫もとんでもないことになって来たな。
と、興奮したことを今でも覚えています。
その後、両人はラノベ界から文芸界へと活動の場を移して行きましたが、
有川氏が“大人向けのライトノベル”を志向して、
ヒット作、映像化作品を量産し、一般に認知されていったのに対して、
壁井氏は、ドロリとした描写もあってか?
ここまでアニメ脚本経験はあれど自作の映像化はなし。
ところが今年に入って、壁井氏の小説がついにアニメ化されるらしいと聞き及び、
浮き足だった私は、2012年よりWEB文芸サイトで連載されているという
この高校男子バレー部の青春小説シリーズを手に取り、
久々に壁井ワールドへと足を踏み入れました。
ストーリーは中学時代からの業を抱えた登場人物が高校で……というスポ根の王道。
一方、描写は相変わらずドロっと重たい壁井節。
ザラリとした文体から、アクション描写(本シリーズではバレーの描写)は、
読者のイマジネーションを信じたスピード重視のキラー“トス”を。
心情描写は、心に一体どんな重しを抱えてささくれたら、
目に映る風景がそんなに歪んで見えるんだ。
という主観視点でネットリと。
大体、人物名からして灰島だの黒羽だの、棺野だの荊(いばら)ちゃんだの。
心に土足で踏み込んだら返り討ちにされそうな、
危険な雰囲気がピリピリと伝わって来ます。
で、毒沼に引きずり込まれて悶えている読者のハートに、
試合の流れを読むセンスは抜群なのに、人間関係の空気は読まない
訳あり天才セッター・灰島 公誓(きみちか)の剥き出しの毒舌鋒が突き刺さる。
そんな毒々しいムードに吸い寄せられたのか?
2021年1月よりフジ「ノイタミナ」他で、
david production制作により放送予定の本作には、
シリーズ構成に黒田 洋介氏、
音楽に菅野 祐悟氏など濃い面子が集結♪
ただ、2021年冬もまた深夜アニメは激戦ムード。
そもそも、男子高校バレーの青春アニメ枠には既に、
某ジャンプの人気作が君臨し需要を満たしており、
弱小高校が強豪校相手に下剋上を目指す本作のベタなシナリオ同様、
商業面の戦前予想は苦戦必至……。
原作の醍醐味であるドロっとした心情描写を斟酌できなければ、
変哲もないスポ根物で終わりかねない。
だからと言って、練り上げられた選手各々の過去について、
一人一人ジックリ、ネットリ掘り下げていたら、
ろくに大会もできないまま放送が終わってしまう。
脚本、構成等、良作へのハードルも低くはない。
大体、何で舞台が福井なんや?
そう首を傾げていた私は失念していました。
福井県と言えば、スーパーエース・ガイチこと中垣内 祐一氏(現・全日本男子監督)の出身地。
福井のご当地マイナーアニメと舐めてかかると、
青春の葛藤など諸々詰め込んだバックアタックに吹き飛ばされる!?
黒を纏った奴らがどんなコンビネーションアタックを繰り出してくるのか?
私も引き続き原作小説をめくる指関節をポキポキ解しながら攻撃に備えたいと思います♪{/netabare}