101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.2
赦す心を育む温かい神話
自堕落な豊穣神・サクナヒメが、とある事情で神々の都を追放され、
鬼が住まうヒノエ島にて、仲間の人間や先住民たちと共に、
稲作に励み力を蓄え、鬼たちに立ち向かって行く。
同名和風アクションゲーム(2020年・Switch/PS4)(未プレイ)の連続アニメ化作品(全13話)
【物語 4.5点】
「米」という文字には、お米が出来るまでに八十八の手間がかかるという意味が込められている。
だから米は一粒一粒大事にせねばならない。
土に鍬を入れ、種もみから苗を育てる所から緻密に再現された、
本作の稲作シーンを見ていて、
長らく忘れていた上記の教訓を思い出しました。
米作りの苦労が結実した中盤には、私も胸を打たれる物がありました。
その後、8月中旬の南海トラフ地震臨時情報に端を発した、
小売店頭における米の品薄現象。いわゆる“令和の米騒動”
事態が深刻化した8月末には、第8話「都を揺るがす米騒動」が放送され、
何てタイムリーなタイトルと苦笑させられましたが。
米の重要性を再認識する中での本アニメ化作品には、
食料自給についても、考えさせらえれる点が多々ありました。
(因みに“令和の米騒動”とは元々、本原作ゲームが想定を越えるヒットとなり、
パッケージ版在庫が蒸発した等の現象を指すらしく。
『サクナヒメ』こそが元祖“令和の米騒動”だそうでw)
ただ、稲作はあくまで世界観の土台となる要素。
メインストーリーの骨格は赦しと恨み相克。
この東方の国「ヤナト」は、人間はもちろん神々ですら全能ではない。
欠点も多いし、僻むし、嫉妬するし。
互いに完璧を求めたら、恨みつらみだけが募って、
争いが続き、鬼が生まれ、国は荒廃するばかりである。
失敗も赦す寛容さこそが、世に安寧をもたらすとの一貫した思想。
とかく人の価値を特定指標だけに固執した生産性のみで判断し、
使えるだの使えないだのでギスギスしていく。
心の余裕を忘れた現代社会に毒されている私には、
赦しを描いた本作のエピソードの数々は心身に染み入りました。
この観点から印象的だったのが、クール後半、
例えば、{netabare} 親友のサクナヒメが稲作で成功して神々の都に戻って来たら、
やっとありつけたお役目を奪われてしまうと焦燥するココロワヒメが、
友を都に帰すまいと、裏切り、策に溺れてしまうシナリオ。
それでも親交を取り戻す辺りに、赦しのテーマが凝縮されており感銘を受けました。{/netabare}
パッケージ展開もするコンシュマーゲームとなると、
プレイ時間も数十時間に及ぶはずで、
アニメ化するストーリーの選別も難航したと思われますが、
要素のピックアップが的確だったからなのか、
この手のゲームアニメ化作品にありがちな詰め込み過ぎによる分かり辛さは、
私は、ほぼ感じませんでした。
【作画 4.0点】
アニメーション制作・P.A.WORKS
本社が富山県南砺市。周囲に田園地帯が広がる立地。
代表が兼業農家とのことで白羽の矢が立った同スタジオ。
農水省職員が監修に付いたという稲作の再現度も良好。
米作りの手間暇と、達成感を視聴者とも共有。
監修に際して、農水省担当者は、あまり難しい専門用語は使わずに、
視聴者への伝わりやすさを重視して用語の簡素化等を提言。(※1)
これは私も助かりました。
いきなり「緑肥(りょくひ)」がどうのと言われても分からなかったと思います。
優しく「肥やし」と簡略化されても、アニメーション映像から稲作の過程は十分伝わって来ましたし。
専門的知見から厳密にするばかりが監修ではない。
視聴者の知識の無さをも赦す。
今後、いろいろな分野のアニメ化監修の際に、ご参考頂けたら幸いです。
原作アクションRPGということで、戦闘シーンも意外と迫力がありました。
スパイダーマンばりに飛び回るサクナヒメの羽衣アクション。爽快でした。
【キャラ 4.5点】
もしも世界人類の各個体が全て自分だったら文明は滅亡するだろう。
本作のそれぞれの長所を活かして米作りに貢献し、
各々の欠点も補いながら成長していく神と人間のキャラクターを見ていると、
要らない人間などいない。
互いに役割を果たし、分かち合いながら世界は成り立っている。
当たり前のことを思い出し、癒やされます。
田右衛門(たうえもん)は初手から種もみをダメにするなど失策続きですし(※核心的ネタバレ){netabare} 戦うことしか知らなかった武士の再生物語が込められていた{/netabare} 部分は個人的に得点が高いです。
きんたも鍛冶に目覚めるまでは、文句言ってばかりだったし。
かいまるに至っては、当初は、言葉も喋れない無力な赤子としか思えません。
こういうキャラに最終盤で(※核心的ネタバレ){netabare} サクナの魂を現世に運ぶ{/netabare} という一番重要な役割を与えるのも心憎い演出です。
不完全を赦す世界観に浸っていると、
全知全能という妄想に基づいて他者を弾圧する一神教は、
やはり邪教との私の発作がぶり返しそうになりますがw
本作には“フォロモス教”宣教師の金髪シスター・ミルテも設定して、
異文化コミュニケーションも交えて、
寛容の精神を深化して来る辺りが懐の深い所です。
これらのキャラ素材を「お仕事シリーズ」のピーエーお得意の文法で、
成長物語に落とし込んでいる辺りも上々。
と言うより私が観てきた広義の「お仕事シリーズ」の中で考えても、
キャラと関連エピソードが明快で、満足度が高い部類でした。
【声優 4.0点】
原作ゲームのキャストをそのまま起用。
主演サクナヒメ役の大空 直美さんは、
和風からグータラまで多彩なキャラを演じたキャリアを積み重ねており、
半人前・豊穣神の成長曲線を表現する引き出しは十分。
一方で、他のキャスト陣には、
色々、端役をこなしながら、声優業界で生き残って来て、
本原作でやっとメインを射止めて、という声優さんが多くて。
当初マイナーゲームで終わると見込まれていた原作が、
成功してアニメ化にまで至り、
日陰で頑張ってきた声優たちも日の目を見る。
こういう展開に私は弱いですね。
田右衛門(たうえもん)役の矢野 龍太さんの、
抜けてるけど憎めないオッサンボイス。
ミルテ役の久保田 ひかりさんのカタコト外国人ボイス。
この辺りは主役ではないけれど、確実に需要はあると思われるので、
今後もしぶとく食い付いて欲しいと願います。
【音楽 4.0点】
劇伴担当は藤澤 慶昌氏。
『ラブライブ!』シリーズでの明快なストリングス、シンフォニーから、
『無職転生』シリーズの多彩で複雑な旋律までカバーする同氏。
本作では和風もアレンジしつつ、前者のような明快なサウンドで、
心情も、クライマックスの戦闘シーンも盛り上げる。
OP主題歌は、いきものががり「晴々」
ED主題歌は、Little Glee Monster「ORIGAMI」
両紅白アーティストの楽曲で必勝体制。
それよりも心に刻まれたのがゲーム版主題歌「ヤナト田植唄」のアレンジ挿入。
ハードな野良仕事を楽しく乗り切るために歌うという稲作の知恵を説かれた上での田植唄。
足腰から染み渡りました。
【付記】
本作最終回観た余韻に背中を押されるように、
先日、神宮にお伊勢参りに行って来ました。
本邦の八百万の神々もまた、人々に供えられた米と祈りを受けて、
現世に安寧とご利益をもたらすと信仰されています。
「米は力だ!」はヤナトでもヤマトでも同様。
力が失われぬには?
考え込むことが多い今日この頃です。