やっぱり!!のり塩 さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
★激烈硬派!?日本社会派サスペンス作品
■評価
テーマ性 :★★★★★ 5.0
エンタメ度 :★★★ 3.0
シリアス度 :★★★★★ 5.0
緊迫度 :★★★★★ 5.0
おススメ度 :★★★★☆ 4.5
■ストーリー
ある日、横浜ベイブリッジが突如爆破される事件が発生する。
特車2課後藤隊長や南雲隊長はこの事件にPKOに派兵され行方不明となって
いる元自衛官の柘植が関係している事を突き止めるが、はたして柘植の
テロの目的とは何か?日本の戦争と平和について問う社会派サスペンス作品
■感想
本作は1993年に日本の『戦争と平和』というテーマを、当時発生した事件を
元に作成された作品であり、今そこにある危機をシリアスに描いた社会派
作品です。
本作はパトレイバー作品にも関わらず夢も希望の欠片もありません。
ただこの作品はテロの真相を捜査していく過程で、後藤隊長を中心に終始
日本の戦争と平和について語られる圧倒的なセリフまわしから『日本は既に
戦争をしてしまっている』という明確な事実として存在する『現実』を突き
つけてきたのには正直驚かされます。この事実と現実を前に刻々と事態が
悪化していく先の見えない話こそが、不正義の平和を享受してきた日本人の
倫理観と、虚構の正義を掲げる世界の倫理観との狭間でゆれる先行き
不透明な現代日本の姿と重なってみえます。
この突きつけられた現実をお説教として受け止めるかは視聴した方それぞれ
ですが、これほど現代の日本の戦争や平和への倫理観に深く踏み込んで強い
メッセージと危機感を問う作品は希少に思います。
作品が製作された時代背景を思えば、ここまで政治臭や軍事臭が漂う作品を
緻密な脚本と作画でアニメとして表現している点も非常に興味深いです。
また登場するキャラに対しても、本来のパトレイバーという作風からは
大きく外れていると思いますが、後藤隊長や南雲隊長の様に組織上層部の
矛盾や汚点を容赦なく指摘し、正しい方向に修正しようとする。
こういった本来現場にいてほしい正義漢として描かれている事にも好感が
持てます。悪い点は頭の切れすぎる後藤隊長のセリフから、押井流のナルシ
ズムやニヒリズムといったものが端々に垣間見えるので、一歩距離を置いて
しまう方もいると思います。
総じて個人的には説教くささは感じず、何かシリアスなドキュメンタリー
作品を見た様な感覚です。この作品が提示する現実を本気で考える機会を
与えてくれる作品と感じます。お気軽には見れませんが、現代を少し考えて
みたい方にはおススメいたします。一旦ここでレビューをしめさせて頂き
ます。ご拝読有り難うございました。
最後に本作の元になった事件や時代背景、そして現代の日本が抱える戦争と
平和についての問題点をまとめました。ネタバレや閲覧して不愉快になる
内容も含んでいると思いますので嫌な方は読み飛ばしてくださいm(_^_)m。
{netabare}
■MIG25亡命事件
1976年9月6日:旧ソ連軍(現ロシア)の最新鋭戦闘機ミグ25が、突如北海道の
函館空港に強制着陸し、ミグ25に搭乗していたソ連軍ベレンコ中尉が米への
亡命を要求した事件になります。この事件はミグ25が日本防空網を易々と
突破したという事実が大きな話題を呼びましたが、実はその事後の日本政府
の対応こそが致命的な問題として指摘されています。
この事件の直後、アメリカ政府(大使館)から北方領土にミグ25を奪還&破壊
を目的としたソ連軍特殊部隊(スペナズ??)が集結している可能性があると
いう報せを自衛隊が受けた事を発端に、自衛隊から速やかに日本政府に武力
使用の防衛許可を求める『防衛出動命令書』を嘆願しました。しかし当時の
三木武夫総理の内閣側は国内支持率の低迷と倒閣の危機にあったため、これ
以上の政局悪化を避けるために自衛隊からの要請を無視し続けたのです。
またそればかりかミグ25の警備および捜査権限を警察にのみ与えた事で、
函館空港で警察と自衛隊がにらみ合いを続けるという事態にまで発展しま
した。この成す術もない状況から、当時の自衛隊の幕僚長や連隊長をはじめ
とする現場指揮官達は動かない上層部(政府)を切捨て、自らが戦犯責任を
とる覚悟をもって函館駐屯地の隊員全員を武装させ、防衛出動がなされたと
言われています。結果として特に有事に発展する事はなく事なきを終えまし
たが、当時の政府側はこの事件の真相を隠蔽し、これまで明かされる事は
ありませんでした。利己主義に走った日本政治家によるシビリアンコント
ロールの崩壊や個別的自衛権の曖昧さを示唆した事件と言えます。
後藤隊長や南雲隊長の様な傑物が当時の自衛隊にいた事に少し安心感を
覚えます。
■自衛隊PKO派兵問題
PKOとは国際平和維持活動の略称であり、第三国における地域紛争が
発生した場合に、国際連合各国から派兵される国際平和維持軍(PKF)が
紛争に介入し、紛争解決・停戦監視と治安維持を目的とした活動の事。
日本では1991年に勃発した湾岸戦争で、海上自衛隊がペルシャ湾での
掃海活動(機雷撤去)に参加した事を皮切りに、1992年6月にPKO法案
(PKO協力法)を制定し、同年7月に本作で登場したカンボジアの紛争地帯に
自衛隊を派兵しました。この時に問題となったのが、海外派兵自体が
憲法違反の可能性がある事や自衛隊の武器使用を大きく制限している事が
議論を呼びました。日本は憲法第九条の観点から厳格に武力行使を制限
しているため、武器使用の定義が曖昧であり、他国PKO部隊や海外で活動
する自国民の護衛や自軍への攻撃に対する武器使用も制限されていると
同然の状態となっていました。またこの派兵でカンボジアに文民警察官
として参加していた高田警部補がオランダ軍の護衛を受けてパトロール中に
ゲリラの襲撃を受け殉職されています。
その後も日本は1994年ルワンダ紛争、1999年東ティモール紛争、2001年
アフガン戦争、2003年イラク戦争、2011年~2014年現在も南スーダン紛争
に派兵し、日本は人道支援・物資補給・インフラ整備という形で国際法に
則り戦争に参加しています。こういった国際平和協力という観点で今現在の
日本は集団的自衛権という問題でゆれています。あくまで私の予想ですが、
この様な背景から現状の安部政権はリスク覚悟で集団的自衛権を容認し、
有事の際(中国による侵略)を念頭に国連(特に米)からの軍事協力を狙って
いるのではないかと考えています。
ここまで記載するとあくまで集団的自衛権の承認や憲法九条の改憲に
一方的に誘導している様に見えてしまうため、違う観点での情報も
記載しておきます。
■大国(米国・ロシア)の掲げる正義の戦争とは?
日本が集団的自衛権を容認する事でリスクがあると記載しましたが
それは大国の掲げる正義の戦争に疑問が残るからです。これまでの
日本の自衛隊がPKOに派兵した紛争の要因を調べていくと、米国とロシアの
パワーゲームのための内政干渉や利権争奪が紛争の要因と絡んでいる事が
理解できます。(米ソ冷戦の影響)
◎カンボジア紛争
米はベトナム戦争時に当時中立国であったカンボジア国内に点在する
ベトナム軍基地を攻撃するため、当時の中立派であった国王を軍事クーデ
ターにより失墜させる事をプロデュース。このため国王派と将軍派で紛争が
勃発し泥沼に。またベトナム戦争も元々は米ソの代理戦争です。
◎湾岸戦争
イラン・イラク戦争時に反米を掲げるイランの対抗馬として、米はイラクを
軍事面および金銭面でプロデュース。しかし戦争終結後にイラクから戦費の
返済がない事から米は食料などの輸出を停止。困窮したイラクは石油の
違法採掘を行い石油価格を下落させているクウェートへ軍事進行。それを
止めるために米などが軍事進行し戦争勃発。
◎アフガン紛争・戦争
1978年に樹立したアフガンの共産主義政権をめぐり、両者の石油政策上の
利権から政権側を旧ソ連がプロデュースし、反共産主義のアルカイダを米が
プロデュースする事で内紛が発生。ところが米ソ冷戦が終結にむかうととも
に上記事案を米ソは放置し撤退。途中で放棄した米に恨みをもったアルカイ
ダが2001年に米で同時多発テロを発生させる。これにより米を始めとする
国連軍はアフガニスタンを攻撃し戦争勃発。
◎イラク戦争
イラクがすでに反米となっている事や、アフガン戦争でのテロリストの
支援や大量破壊兵器を所持している事を理由に米がイラクに軍事侵攻し
戦争勃発。結局は大量破壊兵器は存在せず、フセイン大統領がテロ支援
している証拠もなかった。イラクは国連条約を遵守せず制裁対象になって
いたかもしれませんが何のための戦争であったのか疑問に残ります。
◎その他の戦争
特に本件とは関係ありませんが、ロシア(旧ソ連)も今のウクライナ、グル
ジア、チェチェンで発生している紛争やテロについても領土や石油利権が
からんでおり、凄惨な争いを繰り返しています。
もちろん大国(米国・ロシア)の掲げる戦争の大義名分は理解できる部分は
ありますが、正義とは何なのか強い疑問を持ちます。今後こういった事案に
日本も巻き込まれるリスクが十分にあります。本作を通じて日本人として
どう戦争と平和に向き合っていくのか結論をだす時がきているのではないか
と感じています。
毎度長文になり申しわけ有馬温泉m(_^_)m
重ね重ねご拝読有り難うございました。
{/netabare}