takarock さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
変わってしまった者と変わらない者のそれぞれの想いと葛藤
P.A.WORKSによるオリジナルアニメ(全26話)。
あにこれでの評判も非常に高かったので後追いで視聴。
「後半(2クール目)からが本番」というのは
視聴前の私の耳にも入ってきてました。
じゃあ、前半はつまらないのか?というとそんなことはないと思います。
うろ覚えなのですが、私は3~5話くらいにはすでに「なかなかおもしろいな」
と思っていましたからね。
海底にある村、汐鹿生(しおししお)に住む4人の少年少女+木原紡(きはらつむぐ)、
さらには小学生の潮留美海(しおどめみうな)と久沼さゆ(ひさぬまさゆ)の
それぞれの想いの行方を追っていく恋愛劇を中心に
村の掟を破って陸の人間に嫁ぐことを決意する光の姉あかりの話、
クラス内での海の人間と陸の人間との諍い、そして和解していく話など
見所はたくさんありましたし、皆で一致団結しておふねひきを成功させよう
なんていうのは本作と同じP.A.WORKS作品の「TARI TARI」っぽくて十分おもしろかったです。
いや、今思えば私は前半の方が好きかもしれません。その理由は後ほど述べます。
そして舞台は5年後へ・・・
恋愛作品で年月の経過というのはよく用いられる手法なのですが、
その場合キャラは皆その分だけ年を取っていきます。
当たり前です。誰も時間の経過には逆らうことなどできないのですから。
ところが、本作は「海の人間」「冬眠」を用いて
既存のルールをぶち壊し、今までにない舞台を作りました。
本作で最も評価すべき点はこの部分だと私は思います。
「もし月日が流れていく中で年を重ね、成長して変わっていく者とそうでない者がいたら?」
おそらくこの発想を出発点に本作は作られていったのではないでしょうか。
「変わってしまった者と変わらない者のそれぞれの想いと葛藤」
これこそが制作側が視聴者に一番見せたいポイントであり、本作のテーマだと思います。
ひょっとしたら他に似たような話の作品はあるのかもしれませんが、
私はこの発想力、着眼点は素直に素晴らしいと言いたいです。
ですが・・・ここからは否定的な意見を述べていくことになります。
後半は上記のテーマの話ばっかりです。
変わってしまったあいつの想いはとか変わらなかったあいつの想いはとかの話ばかりな上、
だいたいが想定の範囲内のことだったので
ストーリーそのものに対してカタルシスを感じることはほとんどありませんでした。
そして、本作に限らずP.A.WORKS作品の
ちょっとした表情や仕草からキャラの心情を表現する演出は
非常に秀逸なのですが、その演出もいささか過多で
「もうお前が~のこと好きなのはよく分かったから!」と少々食傷気味でした。
捉え方次第では丁寧に描写していたとも言えるんですけどね。
光が冬眠から目覚めた辺りがストーリー上一番引きつけられた所でしたね。
その後の要やまなかの復活やまなかが失くした感情の話などは
「この後どうなるんだ!?」と気持ちが高揚することはあまりなかったです。
最後のおふねひきもまたこのパターンかよとちょっと残念でしたね。
決してつまらなかったということではありません。これははっきりと言っておきます。
想いや感情のぶつかり合いは観ていてもぐっとくるものがありました。
特に本作のテーマに最も合致していたであろう
要とさゆの踏切のシーンなんかは本作のハイライトと言ってもいいと思います。
しかし本作が名作であるのならば、
想いや感情のぶつかり合いだけでなくそれ以上のものを私は求めたい。
衝撃の展開、伏線の回収、そういった様々な展開の工夫を凝らして
点と点が結びついて物語の結末に収束されていくことに私はカタルシスを感じます。
そして私が本作に不足していると感じたのはまさにそこなんです。
厳密に言えば、本作にも衝撃の展開なり伏線の回収なりは存在するのですが、
結局それも変化なきそれぞれの想いの行方の範囲内の話であり、
それだけでは私にとっては物足りなかったということです。
散々批判的な記述をしてきましたが、私は本作を良作だと思っています。
それに名作と言われていることに異を唱えるようなこともしません。
ただ、私のお気に入りの棚に本作が並ぶことはないでしょう。
想いや感情のぶつかり合いが予定調和なストーリーを補って余りあるものだったと捉えるか、
私のようにそれだけでは物足りなかったと捉えるかは
これはもう個人の好みに依るところだと言う他ないです。
まぁ単なる一ストーリー厨の戯言だと思って頂ければ幸いです。