セレナーデ さんの感想・評価
3.8
物語 : 3.5
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
慢性的な寛容さ
「私、神様になっちゃった」という冒頭のセリフ。これが自分にとってこのアニメの魅力の概ねと言っていい。このセリフがあるのとないのとでは、作品への陶酔度は大分変わっていたと思う。だって「神様」に「なっちゃった」だもん。こんな主旨と口調が合致してないこといきなり言われたら無視できない。
このセリフから感じられたのはどっちかというと小説的な「書き出し」のマインド。『吾輩は猫である』『山椒魚は悲しんだ』『恥の多い生涯を送ってきました』『今日、ママンが死んだ』といったそれに近い。
「作品の性質やテーマの示唆」を、「短いセンテンス」の中に正確に落としこんでおり、シンプルさと印象深さを兼ね備えたインパクトがある。
とりわけすごいなと思ったのは、その「作品の性質」が特殊な空気感であるにも関わらず、表現し切っていること。
確かに「かみちゅ!」には、八百万の神々といったファンタジー要素も存在しているけど、それ以上に特殊なのが、人間のキャラクターたちが「異様に寛容的」なこと。
自分が神様になったこと、クラスメートに神様がいること、異形の神々が見えるようになったこと。非日常的な事実を悠然と認知し、何の抵抗や葛藤もなく受け入れる。慢性的な寛容さがどこまでも支配しており、事態の異常性を消散させてしまう独特の空気感がある。
「私、神様になっちゃった」という一言は、その空気感のエッセンスを凝縮した至極の一滴だろうと。
そして、その表現をさらりとやってのけることが、並のセンスでできることではないはずだろうと。
印象的な書き出しが読者を惹きこむ重要なファクターであることは、古典をはじめ数々の作品が身を持って提唱してきたことではあるけれど、それを高い水準で、それもアニメでこなしたことに、勝手に非凡な力量を感じてしまったりもしているのです。
◆
しかしまあ、ほんとゆるさが独特。
神だの八百万だの、壮言なワードが平然と漂ってる世界なのに、その威厳さに振り回されることがない。その寛容的なリアクションはちょっと間違うと「幼稚な脚本」と捉えられかねないところなんだけど、それをなにやら甘美に熟成されたものに変換できているような。いろんなとこでもセンスを感じる。
神様になっちゃったゆりえちゃんの、
「お米残さず食べなよ。神様が宿ってるんだから」って言われてからの、
「共食いじゃん」って返す肩の力の抜けっぷりとか、恐れ入ります。