退会済のユーザー さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
思春期を過ごす10代へおすすめしたい映画
あらすじは他の方が非常に上手くまとめてくださっているのでそちらをご覧ください。
それから、wikipediaのあらすじの項目はくれぐれも見ないようにしてください!丸々展開が分かってしまうので、映画を鑑賞する前に見てしまうと面白みが半減してしまいます。
※誤字修正
×安奈 → ○杏奈
まず、レビュータイトルの説明から。
{netabare}
スタジオジブリは今までファミリー層(ある程度齢を重ねた大人と年端もいかない子供の両方)に支持される映画が多かったと思います。
しかし見たところこの映画の対象年齢はその中間、マーニーや杏奈の年齢位の人へ向けて作られています。
監督の米林さんは公開前のコメントで
‘子どものためのスタジオジブリ作品を作りたい’
‘この映画を見に来てくれる「杏奈」や「マーニー」の横に座り、そっと寄りそうような映画を、僕は作りたいと思っています。’
(映画『思い出のマーニー』公式サイト 企画意図 http://marnie.jp/message/index.html)
と答えています。
後者の発言を見るとやはり中高生ぐらいをターゲットにしているのだろうと思います。
本編を見ていてもその意識は感じられます。
一つに物語がかなり複雑な構成になっていること。
過去と現在、現実と幻想、ごっちゃになった時系列と世界の様相は幼い子供が理解するには難しいと思います。
見たまま楽しめるような単純な娯楽映画ではありません。まあ親御さんなら普通に理解できるでしょう。ここまでなら単に子供向けではないだろうな、ぐらいのものです。
二つ目は杏奈という少女の描かれ方。
彼女は今までの、宮崎駿監督が描くような皆に好かれる理想の女の子という感じではありません。
いかにも現実にありそうな生々しい不安や悩みを抱える少女で、このキャラクターに誰もが共感をもてるとは考えにくいです。お子さんはもちろん親御さんが見ても賛同は得られにくいはずです。
しかしこの欠点だらけのヒロインは、ちょうど同年代の少年少女から見ると途端に身近で親近感のある存在になります。
自分が「特別」であること、または「普通」であることに悩み葛藤する。思春期なら誰しも一度は経験するのではないかと思います。
幼すぎると分からない、老いすぎると忘れてしまう。そんな感覚を呼び起させるからこそ、同世代の方には杏奈は眩しく映ります。
三つ目は物語の方向性。
従来の少年少女が主人公のジブリ映画では、色々な障害を乗り越えて成長していく姿を中心とする物語が多くまさしく万人受けする内容です。
しかし最近の「コクリコ坂から」を例に挙げても、単なる成長物語ではなくより広い視野の範囲や心の動きが描かれていて、やや複雑ともいえる作品があります。
今回のマーニーも、杏奈の成長だけでなく今までの生い立ちや思ったこと考えたことまで事細かに描かれ、改めて新しい作風だと感じました。
こうすると、感情移入しやすい物語の方がぐっと若者の心を掴むはずだと思います。
何故今回はこのような作品にしたのだろうと考えました。
おそらくはスタジオジブリのプロデューサーの意向があるのでしょう。
ここからは完全に想像ですが、子供と大人の中間層の支持を高めたい狙いがあるのだと思います。
実際中高生の中で欠かさず劇場までスタジオジブリの映画を見に行く人がどれだけいるでしょうか。
今やどんな年齢層であれアニメを見ること自体は珍しくなくなったけれど、依然としてジブリ・アンパンマン・ドラえもん・クレヨンしんちゃん等の映画を劇場まで見に行く若者はそう多くないでしょう。
アニメに疎いファミリー層とアニメに詳しいアニメファンの二極化が進んでいく中で、どこかジブリの敷居が高くなっているように感じます。
そうした「ジブリ映画は~が見るものだ」という既成概念を壊そうとする試みがこの映画からは感じられました。
親子連れのお子さんよりも、親と見に来るのを嫌がるようになった年齢の人へ向けられた作品という印象です。
{/netabare}
前置きが長すぎました・・・。
本編でのテーマですが、「思い出の中に忘れていた愛情」。こんな感じでしょう。
反抗期のときなど特に、周りのことが分からなくなってしまいがちです。
でもそんなとき、ふと昔を思い起こしてみると大切にしていた思い出がよみがえって、我に返ることができる。「思い出のマーニー」・・・良いタイトルです。
あまり書くとネタバレになってしまうので書きませんが、事前に噂になっていた百合とかレズとか、ある意味では間違いないです。
そこから見える真実の移り変わりが今作で最も楽しい部分だと思います。
《感想》
多少の共感はしたものの深く感動するまでは至らなかったというのが正直な感想です。
100分弱で二つの物語を見せられて十分に余韻に浸る心の余裕がなかったのかもしれません。
ここから先はネタバレでも良いという方のみご覧ください。
{netabare}
二つの物語とは‘杏奈とマーニーの交流’と‘杏奈とマーニーの過去’、それぞれ前半後半の流れを指すものです。
途中でぱったりと少女のマーニーがいなくなってしまったので少し物足りなさを感じてしまいました。
しかしマーニーはこの作品に於いて一登場人物というよりは、心象風景の一部であったように感じられます。(実在はしますが)
杏奈が自分を想う気持ち、またマーニーの残した未練が見せた幻のような存在であったと、そう思います。
一応真っ当な解釈としては、故郷に帰ったことで幼い頃の祖母の記憶や祖母に聞いた話が頭に蘇ってきて、それがあのマーニーを形作るに至ったと考えられます。
でもそれ以外にこんなことを考えました。
マーニーが杏奈に向けて繰り返し「大好き、大好き」と言い続けるのは、単にマーニーが生前杏奈を愛していた証であるだけじゃなく、杏奈が自分自身を嫌悪しながらも本当は大好きだと思いたい念の表れだったのでは。
マーニーの残した未練、それは恵まれた少女時代を送れず不幸な生活を強いられていたこと。
マーニー自身が思い描いていた、外で自由に羽を伸ばして遊ぶ夢を叶えるためああして現れたような気もします。
間違いなく二人の物語ではあるんだけども、同時に杏奈一人の心の葛藤でもありました。
すっかり荒んでしまった杏奈の心情は、冒頭のスケッチの場面でも分かります。
彼女は幼稚園の背景は描けても子供の顔が描けずにいます。それは人の表情が読めない、心が理解できないということに変わりありません。
療養先でも、夏祭りにて現地の女の子(名前は失念)の気遣いを思い違ってトラブルを起こしてました。
そうした中でマーニーと出会い、徐々に心を開いていき癒されていく杏奈。
杏奈のわだかまりが消えたことで役目を果たしたようにマーニーは見えなくなったのだと思います。
冒頭のスケッチのシーンを活かして、最後は子供の笑顔を描けるようになった杏奈を見せてほしかったです。
タイトルを見るとマーニーの方に注目してしまいますよね。
実際は完全に杏奈が主人公だったわけで、だからマーニーという存在に期待していた自分としては、期待外れのような気分になってしまいました。
あとやはり杏奈の出生やマーニーの謎を解く後半、杏奈+さやか+久子編の唐突さと展開の速さはけっこう付いていくのが辛かったです。
ラストは見ていてとてもスッキリするものだったので、そこまで気にならなかったのですけど。
少女同士の同性愛かと思われる関係を、そのまま孫と祖母の親子愛につなげていく斬新さには感心しました。
親友としてのマーニーと祖母としてのマーニー。その両方に逢えたことで杏奈は苦悩から脱することができ、義母とも和解できました。
{/netabare}
それともう少し目を見張るような演出が欲しかったです。インパクトが弱く、退屈に感じてしまう。
でもハッピーエンドで綺麗に終わっているし、一度は見ても損しない心温まるお話です。
《評価》
物語について、やや難解で冗長な部分もあり満点にはなりませんでした。でも後半の盛り上がりはかなりのものだったので高得点です。
声優について、自分としてはマーニーの有村架純さんはどうもイメージと合いませんでした。金髪碧眼の美少女を演じるのって凄い難しいことだと思うんですよね。
ウフフフって笑い方は可愛くてそこは好きだったんですけど、喋りに違和感があって終始落ち着きませんでした。
逆に杏奈の高月彩良さん、叔父・清正の寺島進さん、久子の黒木瞳さん辺りは素晴らしかったです。
キャラについて、杏奈は今までのジブリヒロインで一番好きですね。正直ジブリからこんなヒロインが生まれるなんて思ってませんでした。
作画はもう文句ないくらい綺麗ですが、その中でさらに特筆したいのは杏奈やマーニーの瞳の強さというんでしょうか・・・瞳の奥から感じる生命力が素晴らしかった。
見てもらえれば分かると思います。杏奈の瞳はただ美しいだけじゃなくて強さがあります。目から芯の強さが伝わるのは凄いです。
音楽、冒頭タイトルが表示される間流れるBGMがとても美しかった記憶があります。杏奈とマーニーが戯れる間のBGMも優雅で綺麗でした。主題歌もマーニーの雰囲気に合っていて聴き惚れました。
思春期のピュアな悩みに共感できる映画で、普段深夜アニメに慣れ親しんでいる方ほどハマるような気がします。
「さくら荘のペットな彼女」「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」「花咲くいろは」等々・・・青春系のアニメが好きな方はきっと琴線に触れるものがあると思います。