「言の葉の庭(アニメ映画)」

総合得点
86.1
感想・評価
2002
棚に入れた
9533
ランキング
212
★★★★★ 4.1 (2002)
物語
3.9
作画
4.6
声優
4.0
音楽
4.0
キャラ
3.8

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ネタバレ

OZ さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0
物語 : 3.5 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

逢いびきの雨

新海誠監督と言えば
以前 『秒速5センチメートル』を
「観て良かった」と言ったところ
今作品をおススメして頂いたので
観てみる事にした46分のショート映画

■逢いびきの雨■
靴職人を夢見る高校1年生のタカオと
ビール片手にチョコレートをつまみ
ミステリアスな雰囲気を覗かせる27歳の女性ユキノ。

しとしと雨が降る梅雨の時期
新宿御苑庭園内にあるベンチで二人は出会い
一回り離れた年上の女性と
雨が降る度 顔を合わせ
少年は次第に惹かれていく。

年上女性への微かな恋心は
ミルクチョコレートの様な甘さではなく
少しほろ苦いビターな物語だ。

ストーリーそのものは目新しさがないけれど
演出の上手さに惹きつけられる。

世間的には認め難い教師と生徒の間柄
庭園へ足を運ばせる雨は
二人にとって逢びきの合図なのかもしれない。

■空気を感じる作画■
今作品を語る上ではずせないのが
実写と錯覚するくらいの作画。

一粒一粒繊細に描かれた雨は勿論の事
風に揺られるしなやかな枝
雨雲を駆ける稲光
水たまりに広がる波紋
思わず会話を素通りしてしまう程
作り込まれた自然に魅入ってしまい
無条件で納得出来る仕上がりだ。

一言で表すなら透明感とでも言うのかな?
透き通る作画によって
空気を肌で感じられるのである。

作画だけでも一見の価値はあるだろう。

■靴を履く事とは■
振り返ると強く印象に残るのが
階段踊り場の場面からエピローグまで
終盤は感情に響く構成であった。

ユキノが退職する原因となった上級生の相沢を平手打ちし
取り巻きの男に殴られるタカオ。

後日 晴れの日に
庭園で佇むユキノと再び顔を合わせ
初めて出会った時にユキノが口にした万葉集の歌
「雷神(なるかみ)の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ」
 
 その歌に対してタカオは
「雷神(なるかみ)の 少し響みて 降らずとも 我は留らむ 妹し留めば」と
 返し歌で答える

「ねえ その顔どうしたの?」
「先生の真似してビールを飲んで 酔っ払って山手線のホームから落ちました」
「うそ!」
「うそです ケンカくらいします」

突然の雨で濡れてしまった二人は
ユキノの住むマンションへ行き
一緒に食事をした後 二人は同じ事を思う

「今まで生きてきて 今が一番幸せかもしれない」と。
 
 タカオは不意に想いを口にする
「俺 ユキノさんが好きなんだと思う」

「ユキノさんじゃなくて"先生"でしょ」
 一瞬 顔を赤らめるものの
 教師である事を強調して
 来週には四国の実家へ戻ると告げる

彼の気持ちに気づかないフリをする事で
受け入れない事をユキノは選ぶ

やりきれない気持ちを抱え
部屋を出て行くタカオ

彼は前に歩き出す靴を履かせてくれた
今までどれくらい安らぎを与えてくれたのだろう
彼女の表情から
かけがえのないモノが失われようとしている

追いかけたい衝動を抑えようとするが抑えられず
靴も履かずに自らの足
そう 裸足のまま家を飛び出し
階段踊り場でタカオを見つけるけれど
彼はユキノを見るなり穏やかな口調で切り出した

「さっきのは忘れて下さい」

「俺 やっぱりあなたのこと嫌いです
 最初からあなたは なんだか嫌な人でした」

 ユキノへの想いを無理にでも断ち切ろうと
 優しくも哀しい目で
「あんたは一生ずっとそうやって 大事なことは絶対に言わないで
 自分は関係ないって顔してずっと独りで生きていくんだ」
 涙を流しながら胸の内をぶちまける

タカオ役 入野自由さんの
熱が籠った演技がダイレクトに届く

タカオの胸に飛び込むユキノ

「毎朝ちゃんとスーツ着て学校に行こうとしてたの
でも恐くて どうしても行けなくて
あの場所で 私 あなたに 救われてたの」
ユキノも同じく感情が溢れ 頬を濡らす

外はどしゃ降りの雨 抱き合う二人
遠くには茜色した晴れ間が顔をのぞかせる
ここでのED曲「Rain」が
流れるタイミングは素晴らしかった。

そしてエピローグ
季節は冬へと移り変わる

雪の降る庭園に誰もいないベンチ
一人閑かにユキノからの便りを読むタカオ

雪と共にしんしんと言の葉が庭に舞う

ユキノが座っていた場所に
出来上がった靴をそっと置き彼は想う

「歩く練習をしていたのは きっと俺も同じだと 今は思う
 何時かもっと もっと遠くまで歩けるようになったら 会いに行こう」

確かな足跡を彼は雪に残して。


外の世界を歩く為には靴が必要だ。

靴を無くしてしまったユキノは
後ろを向いたまま前へ進んでいるだけで
歩く事を放棄していた。

その場で立ち止まっているのと変わりなかったが
タカオと出逢いやっと靴を見つけられたのだ。
外の世界を歩いて行ける
未来へ踏み出す大事な心の靴を。

形は違えどタカオも同じで
靴を作る事によって
彼は歩むべき道をハッキリ見つけたのだろう。

独りで生きていくのは
簡単な様でとても難しい
支え 支えられ人は生きている。

立ち止まる事があれば
靴を履いているか足元をよく見て欲しい。
もし 履いていなければ
誰かと一緒に見つければいい。
そうすればまた歩いて行ける。

靴を履くとは前を向いて歩いていく事なのだから。

■あとがき■
『秒速5センチメートル』に続き
今回も新海誠監督の世界を楽しめました。

観る前は「46分なのか 短いな」なんて思ったりしていたが
未だに46分とは感じられない濃さだったな。

階段踊り場の場面は勿論お気に入りだけれど
何度観ても響くのがタカオのこの台詞。

「外出の服が一枚ずつ厚くなる度に
 あの人はどうしているだろうかと 思う」

一言で冬に近づいていると表現しない事によって
人恋しさと肌寒さが伝わってきてさ
直後にスタッフロールが流れる場面で
「別々に暮らす 泣きだしそうな空を」と
「Rain」の歌い出しに涙してしまうんだよね。

元は大江千里さんの曲をカバーしたED曲「Rain」
当然オリジナルはオリジナルの良さがあるけれど
秦基博さんの「Rain」は
甘く柔らかい声が心地良かったな。

雨が降った時に
新宿御苑へ足を運んでみたくなる

アスファルトが黒く色を変える度
ふと 思ったりするよ。

満足度 ★★★★★★★★☆☆ (8)

投稿 : 2014/07/20
閲覧 : 392
サンキュー:

70

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