sekimayori さんの感想・評価
3.8
物語 : 3.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
汚れっちまった悲しみに
中也詩集は若かりし頃、浅田弘幸カバーに釣られて買いました。
ミーハー厨二乙。
というのは置いといて。
本作は、海で暮らす幼馴染四人組と陸の少年少女との出会いに始まる、思春期の揺れ動く心を描いたファンタジーロマンス。
P.A.Worksと岡田麿里女史の定番タッグで、あにこれでも高評価続出な作品です。
確かに、作品を支える技術面では、素晴らしいものがあったと思います。
レトロモダンが錆びついたような神秘的な作画も、澄んだ歌声が印象的な楽曲も、溜息が出る程素晴らしい。
ただストーリーには少し疑問符が付き、良くも悪くもマリーさんの作品だなー、と。
視聴意欲の駆り立て方、感情の機微の描写や「変化」という主題への真摯さは素晴らしいのに、設定やキャラの変化といった細部は勢いだけで乗り切ってしまっています。
あとは主観的に、色恋沙汰だけで世界が動いてく狭量な世界観はちょっと胸焼けっすわ、ってところでしょうか。
個人的には「すごく惜しい」作品でした。
■揚げ足取ってみる
{netabare}
マリーさんの脚本って各話の引きは上手だし、生々しい心の振幅はみっちり描出してる。
視聴者の感情を瞬間的に大きく揺さぶるのに非常に長けているのは間違いないでしょう。
でもその弊害として、理屈とか設定はフル無視に近い扱いを受けることが……。
物理干渉を終盤まで利用しない感動幽霊アニメとか、暗黒カードゲーム販促()アニメとか。
細部の矛盾についての指摘の是非は置いといて、揚げ足を取ろうと思えば取れるのがマリー脚本だと思っています。
凪あすでも、1クール目の中心となる姉・あかりと至さんの恋愛話なんて結構すごい。
序盤で、陸の人間と結婚したら海村からは追放、海陸のハーフはエナを持たず海で生きられないことが語られます。
至さんは驚き「なぜあかりは相談してくれなかったんだ」みたいなことを言うわけです。
でもすぐに明かされるのが、実は至さんは美海の父親で、亡妻は海の人間だったということ。
しょうげきのじじつ!(太眉風)
いくらなんでもそりゃねーよ……。
さすがにそんな因習は元の嫁さんから聞いてるだろ、娘にエナがないことも見りゃわかるし……って感じで、盛大にモニョりました。
もし設定の矛盾ととらえなくても、至さんの人間性にもがっつり疑問符つくよね……。
妻の自分とは異なるバックグラウンドに無頓着なまま結婚して子供作ったのかよチャラいな。
これはすごく些細な一例なのだけど、もっと大きいところだと
・気候変動はずっと後なのに今冬眠する必要性あるの?強引に浦島設定作るための展開?
・世界滅亡にもつながりかねないお船引を、なぜ海も陸もあんなに軽視?
・お女子様に海神への供物の意味があるなら、婚礼を迎える、しかも海の神主の娘がその役を受けるのは浅慮すぎる。あと、せめて二回目は落水対策しろよ……。
・光と要だけなぜ早く目覚めた? まなかの目覚めのきっかけは?
などなど、意地悪な観方をすると、ここ掘れワンワン状態だったり。{/netabare}
■ミクロとマクロの乖離
{netabare}
矛盾を全く抱えないエンタメなんて堅苦しいだけだし、本作の主眼はファンタジーではなく恋愛感情や人間関係の行きつく先にあることは明白なので、揚げ足取りはただの野暮。
それは重々理解しているつもりです。
ただ、「凪あす」の矛盾に特に醒めてしまった要因は、ミクロな物語とマクロな物語の齟齬なのかなーと。
この作品、お舟曳や冬眠などのファンタジーな設定が、人間関係の機微を生むのに大きな役割を果たしています。
同時にファンタジーな作品世界自体にも危機が迫っていて、それとキャラの運命が密接にリンクしている。
そしてキャラの行動原理は、人間関係の究極の形である恋愛感情。
その点では、エヴァに始まる所謂セカイ系の構造を持っているわけです。
要は主人公の周囲のミクロなセカイが、マクロな世界の趨勢に直接影響するということ。
ただ凪あすの主眼は世界の趨勢なんかではなく、マクロな世界の変動はミクロなセカイの人間関係に変化を生むための舞台装置でしかない。
セカイ系として見るには、世界の厚みが不足してる。
気候変動問題は、最終話で突如語られる海神様の思いによってなし崩し的に終結します。
んなアホな、って突っ込んじゃいけないのでしょう。
結局はただの恋愛物語なのだから。
が、舞台装置のファンタジー色の強さに、作中ではその描写時間を取らざるを得ません。
結果、私の意識はセカイ系視聴時のように背景の理解に向かいます。
しかし設定はキャラを動かすために捻り出されたものに過ぎず、突き詰めて考えるべきものではありませんでした。
描写の濃密なミクロなセカイに比して、あまりに浅薄なマクロな世界。
そのアンバランスさゆえ、さながら批判するために観ていたかのごとく、細部の粗を看過できなくなってしまったのだと思っています。
非現実的な設定がめんまだけなあの花でさえ欠陥があったんだし、マリーさんファンタジー苦手なんじゃ……。{/netabare}
■汚れっちまった悲しみに
{netabare}
個人的な感想としてはここからが本題。
長えよ。
すごく主観的な感想だけど、そろそろ登場人物たちの恋愛で世界が回るストーリーはお腹いっぱいになってきた感はあります。
成人すると、さすがに恋愛だけが自分の世界の軸ではなくなります。
大学生活や就活を経て社会に放り出され、自力ではどうしようもないのにそれから逃れられないことも多々経験します。
自分の生活圏・社会はどんどん広がるし、人間関係も複雑化する。
その中で、打算や妥協、利益衡量が選択における比重を増していって、それが日常になる。
主体的に願うわけじゃないのに、気が付いたら不可逆的な変化を起こしてしまう。
汚れっちまうわけです。
そうした不可逆変化の直中にいる身としては、純粋に恋愛やおお舟曳といった願望のみで動いていける中学生のキャラクターたちに、隔たりを感じてしまいました。
ちさきが中学生軍団と一緒にいるのがいたたまれず、シュークリームを渡して帰ってしまう、まさにあの感覚。
たかがアニメに何言ってんだよって話ではあるのだけど(笑)
またその距離感は、急に大人びたことを言い始めるキャラ達や、ミクロとマクロの乖離といった違和感によって、より鮮明にされていたようにも思えます。
true tearsやとらドラなど、将来の影が兆し始めた高校生の物語なら未だに結構いけるのに。
汚れっちまった私には、さすがに中学はもう遠い過去ということなのでしょう。
皮肉でもなんでもなく、中高生にとっては傑作になるんだろうな。
ただその中で、自分が変わってしまったことに対するちさきの葛藤、不安はすごく心に沁みました。
ちさきの迎える結末は、変化に対する寂しさと受け入れるまでのあがき、それに加えて変化の先にある希望も見据えたものに思えます。
彼女のその後に幸あれと祈らざるを得ません(紡の突然の俺様化に一抹の不安を感じないでもないですが……)。
また、あえて「変わらない」ことを選択した光は、アニメの主人公としてはちょっと異端で興味深かった。
自己に変われないと烙印を押していた要を、一度は変わろうとしたけれど変えられない思いを認め吐き出したさゆが救ったことも、「変化」という主題に一つの回答を与えてくれたし。
その点、「変わらない」本質の部分を描けていないキャラ(まなか)や、ぶれてしまったキャラ(紡)、変わった先に手に入れたものがありきたりになってしまったキャラ(美海)がいたことが、惜しくて仕方ない。
ああマリーさん、どうしてあなたは最後にまとめきれないのかしら?
あ、自分が不可逆変化を食らって本当に良かったと思ったことが本作に関連して一点。
昔は硬派厨だったので「萌え絵は嫌だ」とか言ってましたが、萌えるゴミへとジョブチェンジを果たした今となっては、ちさきと美海にひたすらブヒってました。
ブリキ絵は目の大きさでちょっと敬遠気味だったのですが、肉感的な団地妻と健気なロリとの相性は抜群でしたね!
もう戻れない、この萌え豚修羅の道。{/netabare}
■ざーさんについて
{netabare}
最後に。
正直、花澤さんの声に飽きてきた……。
テンション高めの演技も相まって、まなかが好きになれませんでした。
ざーさんは個人的に蘇芳、黒猫、撫子までで、まゆしぃ以降は受け付けないキャラも結構いたり。
やっぱカミナギが至高だと思ふ、あれは良い棒。
あ、でも、ささみさんの次女は好きだった。
ともかく、キャラの声を聴いて声優さんの顔が浮かぶのって、私にはかなり辛いです。
唯一無二の声質だからこその弊害でしょうか。
以上ただの愚痴でした、ごめんなさい。{/netabare}
【個人的指標】 72点