れんげ さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
全てにおいて丁寧に描かれた、恋愛アニメの傑作
2013年10月より放送。
全26話。
【前置き】
冒頭部分を見ていた時は、まさか今現在のような高評価を出せる作品に発展するとは思いもしませんでした。
本作は、恐らく視聴した誰もが仰るでしょうが、後半からが本番と言わんばかりの尻上がりの面白さを見せる、大器晩成型のシナリオでしたので。
アニメーション制作は、安定と信頼のP.A.WORKS。
「true tears」から始まり、「Angel Beats!」「花咲くいろは」「Another」「TARI TARI」「有頂天家族」等、今現在では、またオリジナルで「グラスリップ」も放送されていますね。
ただ、特にオリジナルの作品に関しては「true tears」以降、個人的にいつもホームランを打つような感じではなく、どこか惜しい佳作止まりな感じがしていました。
しかし、本作は違いました。
ファンタジーを織り交ぜながらも、ラブコメとは全く違うガチの恋愛作品として、人気作「true tears」を越えたかも…とさえ思わせてくれる出来でした。
【あらすじ】
舞台は、かつて全ての人間達が海の中で普通に呼吸し、生活を営んでいた世界。
ただ、ある時を境に陸に上がって生きる人達が現れはじめ、やがて人は海と陸に分かれ深く関わることを避け生活するようになっていました。
物語は、汐鹿生(しおししお)と呼ばれる海底の村に住む4人の少年少女達が、その村の中学校の廃校をきっかけに地上の小さな港町の中学校に転入するところから始まります。
ただ1つ、その汐鹿生の村には破ってはいけない掟がありました。
それは、海の人間と陸の人間とが…恋をして結ばれること……。
【前半は、後半への壮大な前振り】
{netabare}
あらすじだけ聞くと、よく聞く可愛らしいお伽話のようにも聞こえます。
実際、当初は海中にある村の世界観やオープニングの雰囲気からも、ファンタジー要素を全面に押し出した作品に思えました。
しかし蓋を開ければ、その世界観を丁寧に説明しつつも、7人の少年少女のいじらしい恋愛模様を生々しく描いた作品でした。
冒頭は、話数に余裕があるが故のその丁寧な解説が少々退屈に感じる節もありましたが、今思えばそれは壮大な後半へ繋がる前振り。
今思えば、存分に描いて下さって本当に良かったと思っています。
ただ、オリジナル作品故にどうしても先を予見出来ず、この冒頭で切ってしまった人も放送当時はやっぱり多かったようですね…。
「3話程度では本筋がまだ見えてこない」という点は、本作の難点でもあるでしょう。
私的に、視聴を継続出来た理由として、その丁寧に描かれたシナリオ以上に丁寧に彩られた、安定と信頼のP.A.WORKS(←何度でも言いたい。)の、作画の存在が大きかったですね。
中でも、海底にあるの村の汐鹿生は綺麗でした。
塩が粉雪のように降り積もり細かくキラキラと輝いた町並みは、とても幻想的でした。
水面では泡の一つ一つから、海面では船の揺らぎ方一つ見ても、海の演出は特に目を見張るシーンが多かったです。
作画だけでも見たくなる、安定と信頼のP.A.WORKS。(←はい、だから何度でも言います。)
本作の前半最後の山場。
海の村の人は、いつ覚めるか分からない冬眠に入ってしまいます。
仲違いしていた地上と海の関係が少しずつ緩和され始めていた中の、突然の冬眠勧告。
その冬眠を受け入れられる人もいれば、受け入れられない人もいました。
この冬眠は、いつ覚めるかも全く分からないようでしたので、実際不安に感じるのも当然でしょうね。
特に、自分だけ目が覚めるのが遅かったら…。。
周りだけ成長している中、自分だけ起きた時取り残されていたら…。。
この『冬眠』という要素が放つシナリオの盛り上がり方は、作中でも随一でした。
想像したら、やっぱり恐ろしいですしね。
大好きな人が自分の知らない間に成長していて、自分だけ眠り続け取り残されるかもしれない恐怖。
……いや、そもそも…、もしかしたら一生目覚めないかもしれない。
当初は互いに歩み寄り始めた地上と海の展開から、「これ2クールもして後何するの?」なんて思っていましたが、こういうことだったんですね。
シナリオ構成は、「true tears」「とらドラ!」「あの花」も担当された、岡田麿里さん。
この御方は、やっぱり見せ方が上手ですね。
{/netabare}
【時を進めた者と、そうでない者】
{netabare}
そして、その本番の2クール目。
前半とは打って変わり、かなり切なげな雰囲気のモノローグも入る新オープニングは、まさに本番開始という感じがしました。
5年の歳月が流れた同舞台で、海中で冬眠についた者、地上で5年の時を過ごし成長した者の物語。
主人公を始め、冬眠から目覚めた者が少しずつ地上に姿を表し、再び止まっていた恋愛模様が動き出します。
後半冒頭では、海の人間でありながら冬眠に入ることが出来なかった、「比良平ちさき」のエピソードには胸が苦しくなりましたね。
5年前の、中学生だった自分はもういない。
大好きな相手はその中学生のまま地上に戻ってきたのに、自分は大人になってしまっている。
それでも、やっぱり会えば好きな気持ちは蘇ってきてしまいます。
「あの…私……、変わっちゃってゴメン…。」
そういうちさきに対し、その大好きな人は、見た目にとらわれず
「オマエ、全然変わんなくて安心した!!」
と言ってくれるんですよね。
ちさきは、嬉しくて涙しながら
「アンタに言われたくないわよ!」
っと、くいかかっていましたね。
……うん、コレはごもっとも。
した人は勿論、端から見ている側さえも世界観を大きく変えてしまう「冬眠」の恐ろしさが描写される中で、ここは大好きなシーンでした。
そして、5年前に恋をしていながらも、年齢差があって想いを伝えられなかった、小学生の女の子2人組、「美海(みうな)」と「さゆ」。
彼女達の視点から言えば、当時大好きだった中学生の男の子が突然いなくなってしまったワケでしたが、自分達が同じ年齢の中学生になった今、当時の年齢のまま戻ってきたというワケですね。
前半は、ハッキリ言って
「この小学生達の恋愛模様、こんな念入りにいる?」
と思ってしまい、蛇足や尺稼ぎにすら思え、少々退屈だとさえ感じていました。
(いや勿論、小学生は最高だぜよ?)
しかし、こういうエピソードに発展する為の伏線だったんですね。
これまた上手いですね、やられました。
この後半は、毎回少しずつ冬眠から目覚めてくるキャラが出て恋愛模様が入り乱れていくので、全く退屈しないどころか非常に毎話盛り上がって楽しめました。
小出しにされる焦れったさは多少感じましたが、決して尺稼ぎ感はなく、それぞれ進展する恋愛模様を丁寧に描いてくれていました。
これもまた、全26話のという話数の強みですね。
小学生から中学生になった2人。
中学生から大学生になった2人。
そして、中学生のままの3人。
それぞれの視点から描かれる5年を経ての恋愛模様は、それぞれの昔のエピソードが序盤で丁寧に描かれていたからこそ、感情移入しちゃうんですよね。
正直な話、要所要所で私は泣かされっぱなしでした。
{/netabare}
【要君から見る、凪のあすから】
{netabare}
さてここからは、後半から個人的に一番好きになって注目していた、海の人間の中でも物静かで空気の読める大人っぽさが魅力の
『伊佐木 要(いさき かなめ)』
を通して、作中の魅力的なシーンを、熱く語っていきたいと思います。
当初から同じ海の人間の ちさきが大好きで、でも彼女の気持ちが自分に向いていないことに昔から勘付いているので、中学生ながら基本的に傍観者でいた男の子。
しかし冬眠前に、その先行きの不安もあり、ちさきの家族にも公表するカタチで堂々と、
『ボク、ちさきのことが好きなんだよね、かなり前から。』
と、いつもの笑顔で告白。
しかしちさきが地上に残ってしまった中…自分だけが冬眠に入ってしまい、目覚めたらその大好きな ちさきは大人になっていたワケですね。
世界が変わっても
「変わらないものもある。
変わるわけ……ない。」
と、自身の ちさきへの想いを再確認する要。
ただ、これまでは同じ年齢同士なので、その達観した物言いや立ち振る舞いにも余裕があった(ように見えた)のですが、流石に本物の大人相手にはその余裕も通用しないんですよね。
しかもその恋敵は、ちさきと5年を共に過ごした…非の打ち所なしのこれまた超絶イケメン紡(つむぐ)なのですから。
「大人だね…、ちさきは…。」
そう言いながらも、精一杯に顔色を変えず立ち去り、「クソッ!」と襖越しに言うしかない要。
今までにない余裕の無さ、それ故の焦りがリアルに描写され人間味が出てきて、私は後半からグンと好感が湧いてきました。
「ちさきが光とうまくいかなくても、次は僕じゃなく紡だってわかってたから。」
と、昔からの友達とはいえ、大人を相手に精一杯達観して喋るその仕草は、もぅたまらないぐらい いじらしかったです。
結局、本人の言う通り勝ち目のない恋だったのかもしれません。
でも、そんな要のことをずっと好きでいてくれた…、自分と同じく5年経っても変わらない想いをブツけてくれた女の子、さゆがいたんですね。
前半では、小学生が憧れのお兄さんへ抱く淡い恋のように描かれていた、さゆの恋。
それが、遂に一つの形となり本人の元へ、『不器用ながらも』思いっきりブツけられたのでした。
『ずっと…ずっと見てたよ……。
私、アンタのことずっと見てた、ずっと待ってたんだからっ!!
アンタがいるから、だから頑張ろうって…。
アンタに釣り合いが取れるように、アンタに子供扱いされないように、
アンタにちゃんと…、女の子として見てもらえるようにっ!!
アンタがいない間も、アンタはここ(心)にいた。
ちゃんと…、この真ん中にいたっ!!!』
この告白で、これまでずっと大人ぶっていた要が、冬眠から覚めても家族がいなくて寂しかった本音を、初めて吐露しました。
誰も自分を待ってくれていなかったんじゃないか…、と。
ただ、ずっと想って待っていてくれた さゆの気持ちを知り、救われたかのような嬉し涙を見せるのでした。
要「これからちゃんと見てみる。ちっちゃな女の子じゃなくて、同じ年の一人の女の子として。」
さゆ「上から目線だよね。」
こういう憎まれ口も、さゆらしくて良いですね。
振り返れば、告白中も「アンタ」って7回も言ってるしww
「あの頃はさ、遠くから見てるだけだった。一緒にいるけど、すっごく遠くて……。」
5年前を振り返りそう言っていた さゆが、中学生になって見せた要への5年越しのド直球アタック。
ココは個人的に、作中でもクライマックス以上に大好きなシーンとなりました。
話はそれますが、さゆを演じた石原夏織さんは「あの夏で待ってる」の谷川柑菜や「変態王子と笑わない猫。」小豆梓などを始め、恋愛的に報われない負け確定ヒロインを演じることが多く、今回もそうなんだろうな…と勝手に思っていました。
いやはや思いの他、大健闘でしたね。
今作では、いつも以上に良い演技も見せてくれましたし。
上記のシーンの他にも、第22話で光とブツかった時の、あの可愛らしくもドスの利いた
「おいタコスケ!!、ゥルェディイ(レディー)を突き飛ばしといてそのままかよ!!!」
も、とても印象的でした…、あぁ…中学生ってコワイ…。。。
やっぱり、小学生は最k(ry
2014年は、あまりアニメ担当数はふるいませんが、好きな声なので今後の活躍に期待したいです。
最後は、全員が見事なカップリングとは行かずとも、良い着地点を見せてくれたかなと思います。
変に話をぼかしたり、続編を匂わす描写が無いのも良いですね。
ただ、7人というのは奇数なワケで……、やっぱりそういうことになりますからね…。
(ちょぉっとは救いの目も見えましたケド。)
最後にもう一捻り欲しかった気もしましたが、これは大好きな作品故の小さなクレームです。
エンディングでは、エンドテロップとともに最初のファンタジー色の強いオープニング「lull~そして僕らは~」の別バージョンを存分に流し、キャラクター達の最後が海と地上でぞれぞれ、最後まで丁寧に描かれておりました。
この世界観と主要キャラ皆に好感が湧いたからこそ、120%楽しめたエンディングでしたね。
見終えた時「とても良い作品を見たなぁ…。」と非常に後味も良かったので、今でもとても好感触な印象で記憶に残り続けているのでしょうね。
{/netabare}
【総評】
序盤で切ってしまうには非っ常に惜しい、是非とも後半の盛り上がりを見て判断して欲しい作品です。
短気ながらド直球な男らしさが光る、ひー君。
無邪気で屈託ない笑顔を見せてくれる、まなか。
団地妻のような妖艶な色気を見せる、ちさき。(昼下がりの、じゃないよ。)
大人びたクールガイながらイクところはイク、要。
「海」という一言で全てを伝えることが出来る水陸両用イケメン、紡。
一番女の子らしく いじらしい気持ちが描かれる、美海。
ちんちくりんだった小学生から一転し、最後は女を見せた。さゆ。
世界観も、このキャラクター達も、シナリオ展開も、そしてそれを彩る作画も含めて。
私は半年間(特に後半3ヶ月)、大いに楽しませてもらいました。
『海と大地のあいだで揺れる 青の御伽話(ファンタジー)』と題されていた本作。
それは、想像していたよりもずっと重く、そしてなにより全てが丁寧に描かれた傑作だと、私は感じました。
またひとつ、大好きな作品に出会えました。
長々と読んでいただき、ありがとうございました。
◆一番好きなキャラクター◆
『伊佐木 要』声 - 逢坂良太さん
◇一番可愛いキャラクター◇
『潮留 美海』声 - 小松未可子さん
※※※
以降は、視聴済の方向けに書かれた、ただの私の妄想なので〆ます。
{netabare}
さて、本作のように世界観や物語が魅力的な作品に出会うと誰しも、
「一度でいいから作品の中に入ってみたいっ!!」
と、妄想してしまいますよね?
………ねっ!!!
というわけで、もし
【「私」が、この世界の8人目として、同じ年齢で恋愛模様に加わっていた場合】
を想定して、この綺麗な物語の展開を、更に味付けしてみました。
■第0話■
ひー君達が後に転入するクラスの隅に、「私」登場。
■第1話■
ひー君達、汐鹿生の4人が転入。
「私」まなかの屈託の無い笑みを見て、「この子は俺に惚れている!!」と勘違いする。
■第9話■
クラス皆で、おじょし様を作っている際に「私」、小学生の美海を見かけ何かに目覚める。
以降、「俺には、まなか がいるのに…」という、不必要な葛藤が毎晩続く。
■第13話■
葛藤で睡眠不足ののまま迎えた、おふねひき当日。
「私」荒れた海の中、人知れず海に落ちる。
(当然、エナが発動することはない。)
汐鹿生の村人が冬眠に入る中、一人永眠に入る。
■第13話と第14話の間■
偶然にも、紡が海へ出していた定置網に、最早原型を留めていない「私」が引っかかる。
紡、顔色一つ変えず無言で、手荒に海に返す。
………というわけで。。
どう想像しても「私」は、後半に駒を進めることが出来ませんでした。
私がいれば、男4女4で綺麗に恋愛模様もまとまっていた(に違いない!!)でしょうに…。
ゴメンよ美海……。。。
こんな綺麗な世界に『どざえもん』を出してしまうことになり、誠に申し訳ありませんでした。
{/netabare}