plm さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
圧倒的飢餓感! 欲望と理性のせめぎ合い
ヤンジャン連載漫画原作、サスペンスホラー&バトルアクション。
"グール"と言えば、よく「屍食鬼」の字を当てられるように、いわゆるゾンビに近い存在。
ゾンビがでてくる話を思い浮かべると、よくあるのはゾンビを退治しながら生き延びるパニックものだ。
しかし、この作品はなんと「ゾンビ側の視点」という全く新しい切り口で物語を描いている。
日常の豹変と、狂気の中で生存本能、喰種を取り巻く環境とその在り方がこの作品の見所だろう。
■欲望と理性のせめぎ合い
{netabare} 人は、動物的本能と人間的理性を併せ持つ存在だ。
動物的本能は、生存に関わる肉体状態の変化にとりわけ敏感で、
怪我や病気、飢えに対して「苦痛」を発してこのままでは危険だ!という信号を出し、訴えかけてくる。
けれどそれと同等に、人間は「苦痛」を抑え込み自我を通すだけの精神・理性が備わっている。
ときに、肉体的危険信号を無視してでも心の欲求を押し通してしまうことだってある。
人間的理性は、自我に関わる精神状態の変化にとりわけ敏感で、
感情や信条が歪められることに対し「苦痛」を発して、絶対に嫌だという拒否反応を示してくる。
人にとっては、生存することと、自我を保つことは同じくらい大事なことに成り得るのだろう。
人倫と屍食鬼の境界に堕とされた主人公・金木は、そこで究極の葛藤を迫られるのである。
喰わなければ命が尽きて、死ぬ。 喰えば、人ではなくなる。
理性と欲望の間に振り回され、苦悩の果てに狂気を孕んでいく描写は、臨場感に溢れる。
金木に感情移入すればするほど、飢餓感も同時に伝わってくるほどの怖ろしさだった。
人間の原理的欲望に踏み込んだ恐怖こそ、本当にホラー。面白いけど辛い!が第一印象の作品だった。{/netabare}
■居場所と、敵。 憎しみの連鎖とは
{netabare} 金木が「あんていく」に居場所を得てからは、恐怖的演出も少し和らぎ、
グールと人間の在り方、立場の違いに焦点が当てられ、全体的視野で物語が進行していったように思う。
中盤のテーマは「グールの居場所と、それを害する敵との対立像を描く」だと考えられる。
グール同士で助け合おうとし、比較的温和な立場をとる「あんていく」や雛実ちゃんの一家、
グールであり敵でもある月山、人間の真戸・亜門などの喰種捜査官たち。
中でも喰種捜査官編は、グールと人間の敵対関係を強烈に対比して描いていた。
真戸は全てのグールを"人間の敵"と見做し、害意のない雛実ちゃん一家を酷く引き裂いた。
一方で、その恨みから捜査官の一人と真戸を報復のために殺したトーカちゃん。
両者は相容れず、お互いの正義を振りかざしお互いを憎しみ合う。そこに絶対的悪はない。
ここで、気になったのは『恨みの範囲』だ。「殺した奴が憎い!」これは分かる。
けれど「人間が憎い!」「グールが憎い!」イビツなのはここだ。
危害を加えてきた特定の個人ではなく、その者が属するグループもろとも敵として憎んでしまうこと。
殉職になった捜査官の一名、草場 一平はトーカちゃんや雛実ちゃんの家族に害をなしただろうか?
雛実ちゃんの一家が、真戸呉緒に害をなしただろうか?
いや、「害を為すだろう」という主観、経験則、憎しみ、それらの謂れの無い恨みによって、
悲劇は繰り返されていく。個人への感情を、拡大化させてしまうことが真の悪なのではないだろうか。{/netabare}
■最後に、全体について
{netabare} 極黒に続き、ヤンジャン原作アニメは尺に悩まされるのが常なのだろうか。
物語としてはかなり中途半端なところで最終回を迎えてしまった。
しかしながら極黒のときと違い、ラストに無理やり話を詰め込むことはしなかった。
そのため、ぶつ切りな終わりではあるが最後まで見応えのある内容を貫いてくれたように思う。
2クールあればもっとよくできたのではないかと惜しまれるけれど、
消化不良以外の欠点はそれほど見当たらず、重厚な物語・真に迫る演技・魅力的なキャラクターや絵、
吸い込まれるような音楽…とどれも高い水準で面白く観ることができた。
救いのない無慈悲な恐怖と、退けない思いが衝突し合い、苦悩と葛藤の内に活路を見出す。
ハードな内容を臨場感溢れる演出で描いてくれた作品。{/netabare}