三崎鳴 さんの感想・評価
4.6
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
生きろ。
映像的にもえぐい内容のシーンが多々あり、ジブリ作品内でも特に異色中の異色の作品だ。内容は森を支配する神や生物と人間との抗争を中心に据えた和風ファンタジー。テーマがしっかりしてる分表面的な話の面白さよりテーマを描ききることに終始してる印象が強く、大きく評価が二分している。ただ個人的には“話が難しい=つまらない”という安易な構図には辟易するほかなく、本作の否定材料の大体がそこに尽きるのが残念でならない。確かに“アニメ映画は子供向けに作る”と発言した宮崎駿監督らしからぬ作風ではあるがそれについては本作に限ったことではない。エンターテイメイント性を排除し、“話が分かる奴だけついてこい”的な本作を一般映画として打ち出す辺り愉快なご老人だなと微笑ましくもあるのだが考えてることは意外に深い。まず目に付くのは自然と人間の対立。これについてはジブリ作品って大体このテーマだと思う(ナウシカ、狸合戦ぽんぽこ等)。動物達や自然の強大な力をアニメーションとしての視聴覚的効果を交えながら表現するというのはしょっちゅうやっていたりする。ちなみに本作は14万枚以上もの作画枚数をかけているため映像効果は非常に強い。作品のテーマというのは作者の裡にあるものを受け取る側の人間が勝手に解釈するものであるが、個人的には『生命力の神秘』が強く伝わってきた。本作のキャッチコピーである“生きろ”や『生きろ、そなたは美しい』という作中の台詞からも分かるとおり生きる力強さを一つの軸としてすえていることが何とはなしに読み取れる。山犬や森の神々、村の人間達が争いを重ねて、最終的に大量の命が死を迎え、それでも、主人公達は生きていく。若者が他者の犠牲を踏みしめて、力強く、未来と向き合っていく様子の描写を以ってして、監督は若者達の心に生きろと呼びかけているのではないか。現代を生きる若者たちは心の裡に闇を抱え、常に死の意識と隣り合わせである。そんな彼らを励まそうとして描かれた作品が本作ではないか。アニメーション作品という範疇を超えて高い評価を受けてほしい作品であった。