sinsin さんの感想・評価
3.8
物語 : 3.0
作画 : 5.0
声優 : 3.0
音楽 : 5.0
キャラ : 3.0
状態:観終わった
良い事も悪いことも運んでくる美しい風
総評。
ちょっと自信が無いのだが今回は風立ちぬをまとめて見る事にしたい。
私の感じたところこの作品は一言で言ってしまえばアナログニズムをもってしてシリアスなドラマを描いた作品であると感じた。ところどころはまっていたシーン、特にドイツでの滞在なんかはドイツの近代的というか工業社会を暗い彩度で効果的に表現していたと思う。その対極的に日本の情景はとても牧歌的で日常性がありのどかである。
そんな世界観を持つ「風立ちぬ」では劇中様々なところに風がふいてくる。その表情は主に洋服のたなびく様子で生き生きと表現されていたと感じる事ができる。
今回は、そんな「風立ちぬ」の様々な風を考えていきたいと思う。
{netabare}風立ちぬの世界観。
峻厳=菜穂子の結核、戦争、ドイツ。
対比。バランス=堀越二郎。
慈愛=空を飛ぶという夢を持った飛行機。菜穂子。日本。
物語の中では、日本はとても牧歌的で情緒的に描かれる反面、ドイツは工業化社会の閉塞感を感じさせる空間として描かれているように思えた。その日本の描写が堀越の救いになったであろうと感じる。
ここで風に注目して見るとドイツではあまり風がふいた描写が無い。ドイツでは風がふかないあたかも大地の息吹が無い土地のように表現されているように感じるのだ。
堀越に救いを与えてくれた菜穂子も結核という呼吸器系の病気である。その菜穂子との思いが結実するシーンにおいても紙飛行機を飛ばして二人で遊んでいる描写がある。
そんな「風」を受けて空を飛ぶという、人間の根本的夢を持った飛行機でさえ軍用機として町を焼いてゆく「風」という側面がある。序盤の東京大震災の火災で図書館の本に風の向きが変わったから本に燃え移るぞとかそんな風にまつわるエピソードにあふれていると感じた。
これをもってしてこの作品のテーマは「風はいろんなものを運んでくる。良いことも悪い事も。そして人間はそんな風の中でも生き続けねばならない」といった主張を感じる。最後の「あなたは生きて」の菜穂子の言葉から人生色々あるけど人間は生きていかないといけないといった簡単なメッセージを個人的には受け取れたと感じた。
風立ちぬの演出と作画。
総作画枚数は一体何枚なんだって思うほどよく動いていたと思う。それも物語序盤での東京大震災の描写では何人もの逃げ行く人々の姿を全て表情豊かに上手く描き分けて描いたと思うのでその仕事には感服するばかりだ。
今では全く見ないであろう技術、背景動画もあったし背景画は透視図法をとってはいない。
コレは明確に画面やシーンにアナログニズムを内包しようとした意思を感じる。ある意味この作品はちびまるこちゃんぐらいアナログな作品と思える。一般的にはアナログ的演出方向は日常と相性いいのだが。
この作品はシリアスな戦争、恋愛、仕事を取り扱っていてどうも日常的な感じがしなかったと思う。菜穂子の結核であったりかなり重たい感じがした。
そこで私はこんな大震災とか人が何人も死んでいるシリアスな世界で、この幼稚と言ったらまずいかも知れないが形の柔らかい作画が果たして映像にマッチングしていたかは疑問符を感じた。特に序盤の東京大震災はとてもシリアスで何かこう大震災を面白おかしく描いてるんじゃないだろうか?とか感じてしまった。
基本的に天才堀越は人に対して無頓着であったかも知れないが、これではあまりにも薄情すぎるような罪悪感を観ていて感じたからまずいと思った。特にそれは序盤が深刻な印象。
であるなら、序盤では実写的な演出方向でも良かったかもと感じてしまう。勿論、映像に迫力と説得力を持たせる為大人数の人間を様々なシーンで描いた事は想像できる。しかし、それは効果的だったかは個人的にはわからない。
結構、みんな震災にあっても生き生きしすぎていたし、絶望感をあまり感じられないから東京大震災が冗談みたいに軽い感じに収まってしまったと感じてしまう。
まあ、人間ってそんなものかもしれないが菜穂子と堀越が出会ったのも大震災であるから文字どうり「風はいろんなものを運んでくる」と言った感じで大震災も風と言う事なのであろう。
文字どうり、風のシーンでは一体原画枚数何枚なんだってぐらい複雑な動きを洋服のしわが動く。飛行機の挙動も風を受けてとても美しく優雅に飛び立つ様は、それまでの宮崎監督作品の派手さはないがとても美しくて好印象であると感じた。
最後にやはり、菜穂子との恋愛が非常に柔らかく素敵であった。それだけでもこの作品観る価値あるのではないかと感じた。
感想。
凄いな。風立ちぬだけあって、風の表現が。
これがまず率直な感想。
風を表現する為に、スカートがたなびく様子とか飛行機が揺れながら飛んだりまるで風が一つの意思を持っているかのように感じた。
特に洋服が風で揺れるシーンなんかは何枚もの原画を使って同じパターンの連続ではなくて風を生き生きと描いたと感じる。
コレはとても美しい。
序盤では、画面にとにかくたくさんの人を描いてアニメーションの限界に挑んだ印象を受ける。コレは画面、シーンにおいて大きな説得力を生み出して実写並みの説得力を映像に与えているように思える。
恋愛ドラマはとても柔らかく現代人が忘れた何かを思い起こさせてくれるように感じた。
あくまでアニメは文芸作品などではなくて映像作品だという事をまざまざと見せつけられる様な思いだ。
そのくらい、人物の挙動が美しく、一体動画枚数何枚なんだと心配になってしまう。そのぐらい良く動いていたように思える。
で、あるから文芸としてどうだろうか?といわれたら弱い部分もあるんだろうと思う。
しかし、それがなんだ黙ってこの映像作品を見ろという力というか説得力と自信にあふれた作品であると感じた。
本当に個人的感想としては恋愛が柔らかでいい。{netabare}