退会済のユーザー さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
世界を救うための、それぞれのパラダイスロスト。
前編後編に分かれた劇場版東のエデンの完結編。前編にあたるThe King of Edenも合わせてのレビューとさせていただきます。
TV版東のエデンを未視聴の方にはネタバレとなる場合もあるのでご注意を。(気になる方は戻るボタンをお願いします)
あらすじ
{netabare}
ミサイル事件後行方をくらました滝沢を探し出すため、咲はわずかな手がかりを基にアメリカまでやってくる。なんとか滝沢と再会するが、彼は再び記憶を失っていた。しかしセレソンゲーム(100億円ゲーム)はまだ終わっていない。
滝沢の記憶を取り戻すため、そしてゲームを終わらせるための闘いが始まった。
{/netabare}
また記憶を失う展開になったことと前編があまり面白く感じられなかったことで最初は不安でしたが、結果的には上手くまとめてくれたと思います。
今回は謎だらけだった滝沢という男の正体を紐解いていく過程とセレソン同士の主義主張のぶつかり合いが主なテーマでした。
政治的な話が多くなり堅苦しくなりがちな中で、話を盛り上げてくれたのはキャラクターの魅力に依るところが大きいでしょう。
特に滝沢という男。この男あっての東のエデンと言っても過言ではありません。
だから滝沢を受け付けないって人にはこの作品合わない気がしますね。
自由奔放で掴み所のない変わり者なのに、何故か人を惹きつける人間的魅力に溢れている。これがTV版から劇場版まで一貫した彼の姿でした。
他はやはり「東のエデン」メンバーの面々、というか全員が最高でした。
直接的にはゲームに関わることができない代わりに間接的に滝沢を助け、日本を救おうとしていた勇士達。最後の最後でエデンシステムが役に立つ展開も熱かったです。
特にプログラマーの板津(パンツ)とみっちょんは良いキャラしてました!心理戦が多いこの作品の性質上頭脳派の二人の活躍は目ざましかったです。
みっちょんを演じる齋藤彩夏さんは普通の女の子を演じているのを見ることは少なかったので、なんだか新鮮でした。
みっちょんは齋藤さんの演じたキャラで一番好きになりました。
で、滝沢の幼少の頃からの記憶を含めた回想がこの作品自体の謎を明かす重要な手がかりとなります。
彼の人格形成を辿ることが今の行動原理に繋がるので、今までの滝沢の奇抜な行動の真意も理解できる。この物語の根幹を成す部分ですね。
TV版よりもゆっくりと一つ一つピースを集めていくように記憶を取り戻していくテンポは冗長にも取れ、丁寧にも取れ、人によって様々かと思います。
山場となるのはセレソン同士のバトル、特にNo.9である滝沢とNo.1である物部の対決です。
と言っても肉弾戦ではなく心理戦や論戦が繰り広げられます。
物部はミサイルの指示系統をハックするばかりか、ゲーム自体のシステムであるジュイスまで掌握し他のセレソンを制圧しようとします。
それに対して滝沢は物部に察知されないようにジェイスを解放し、直接彼に接触を試みます。
複数人のセレソンの陰謀が渦巻く中で、特に目が離せない行動をし続けるのはこの二人でした。
また、二人が対面したときお互いに日本を建て直す持論を展開し合う場面で
滝沢は{netabare}国全体の意識改革を行い、国民から変えていく{/netabare}‘創造する’ような考えに対して、
物部は{netabare}国全体の構造改革を行い、国政から変えていく{/netabare}‘破壊する’ような考えでまさに正反対。
このすれ違いは両者の人間性にも表れていて面白いです。
滝沢は民衆を説得し扇動するパワーがある代わりに、政治的な知識や権力は皆無。
物部は豊富な政治的知識と官僚時代に培った権力を有しているが、民衆を烏合の衆と罵り国民は国家を構成するパーツとしか見なしていない冷血漢。
お互いの長所を合わせれば上手く行きそうなのに、水と油な関係の二人でした(笑)
セレソン同士ではないのですが、滝沢とゲームの主催者Mr.OUTSIDEの対話もかなり興味深いものでした。
{netabare}
当時まだ滝沢でなかった頃新聞配達のバイトをしていた男が、OUTSIDEに向かって言った「お金は払うより貰う方が嬉しいよ」というシンプルな応答。
100億円という金を消費して如何にして国を再建させるかというゲームに対して、この男なら面白いやり方で国を変質させられるかもしれないとOUTSIDEは思ったのでした。
{/netabare}
しかし大事なのはこの作品の中で必ずしも滝沢の考えが正解であるとは断言されていない点です。
無数にある答えの中で、滝沢のように自身を犠牲にして変化を起こすヒーロー的行為が功を奏す場合もある、というだけです。
混沌とした世の中を是正していく中でセレソン達が選んだ施策は、全てが間違っているとも正しいとも言い切れず、こうやって死力を尽くして問題の解決に取り組む姿勢を見習うべきということかもしれません。
あと後編タイトルの『Paradise Lost』は聖書にある失楽園の意で、すなわちエデンからの追放を指します。
皆々が今甘んじているエデンから抜け出し、新しい世界で生きていくこと。東のエデンも例外ではなく、新天地での生活を余儀なくされます。
最後この世界では滝沢の行動によって少しずつ変わっていった人々が描かれていました。
細かい設定や展開の落ち度はあれど、明るい終わり方ができて良かったと思います。
一応、劇場版が不評だった原因?理由?も考えてみました。
{netabare}
まず、前編の『The King of Eden』だけでは独立したエピソードになっていないこと。これはひどいと思います。完全にTV版と劇場版後編の繋ぎというだけになっていて、単体では意味を成していないのは問題です。
後は視聴者の興味と製作者の主眼が別の所にあったのではないか?ということです。
実際には主人公・滝沢のルーツやゲームに関する謎明かしが大半を占めていますが、視聴者が求めていたのは100億円を賭けたゲームの駆け引きの方だった様な気がします。
神山監督だからか、アクションよりも会話劇が圧倒的に多かったのもマイナス要素です。
映像的にはTV版より地味な作りが多いし、どうせ劇場で見るならもっと派手な演出なり特殊効果なりあってもいいじゃないかと、ミサイル攻撃のような刺激に欠けていたんだと思います。
若い層にアピールするにはその辺りの配慮も必要ですよね。
僕も劇場版にはOASIS(TV版OPを担当したロックバンド)の表現するような終末感、緊張感が足りないなと見ていて思いました。
主題歌をOASISにしろって話ではなく、あの感じの雰囲気をもっと味わいたかったですね。
若い層に・・・って言えば咲ちゃんと滝沢の関係をうやむやにしたまま終わらせたのもけしからん!って意見多そうですね(笑)
せっかくキスまでしたのだから最後は二人より添ってENDでも悪くないのに、あえてあの終わらせ方にしたのは滝沢らしさを優先した結果なのかもしれません。
どうでもいいかもしれませんけど、作中の「ニート」の扱いにも疑問を覚えましたね。普段は無能に見えるけどいざとなったら凄い力を発揮する、民衆の象徴のように扱われていたのが気になりました。
必ずしもニートが行動的な人間に転身できるとは限りませんし、ちょっと考えが画一的すぎるかな、と思います。
{/netabare}
また無駄に長い文章に・・・申し訳ないです。
まとめると、非難されていることは理解できるけども個人的にこの映画は好きになれました。
この作品のテーマとしては上手く完結しているし、細かい部分を除けば色々と考えさせられる素晴らしいアニメでした。
「東のエデン」はTVアニメ+劇場版二作を全部見ても損はしないと思います。