退会済のユーザー さんの感想・評価

3.9
物語 : 3.5 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態：観終わった

散々使い倒して、ボロ雑巾のように捨ててやる!

前作と比べると今作の作品としての質は悲惨なものである。
様々な要素を詰め込み過ぎて破綻していた前作であったが、許容できるものであった。
今作は大風呂敷を広げたため、伏線の回収が困難になったこと、登場人物が多くて意味ありげに登場した割にはすぐに退場したり空気化したこと、そして、今作の結末の収束の仕方が演出的にも脚本的にも粗末だったことで今作は前作の良い部分を台無しにしてしまったと思う。
先に断っておくが、前作を高く評価していたので、今作の評価は少し甘くなるかもしれない。
本作はゼロが復活するところから始まり、序盤では前作の同じ序数話のエピソードと照らし合わせたかの如くオマージュが散見された。
前作を視聴しているファンを狙ったサービスなのかもしれないが、はっきり言って蛇足である。
それよりも、黒の騎士団が日本中で地下活動をしていたくだりや前作のラストでC.C.がオレンジと海底に沈んだにもかかわらず、黒の騎士団と合流できたこと等のサイドストーリーを深く描く必要があったと思う。
中盤では黒の騎士団が日本を亡命して隣国の中華連邦と同盟を結ぶことになる。
これには脚本に強引さを感じた。
ルルーシュの本来の目的はブリタニアを打倒することであり、これは変わらない。
したがって、その目的を達成するためには手段を選ばないという意味でこの方法を取ったことは勝算を高めるためには必要だったのかもしれない。
しかし、ルルーシュの目的のオプション、又は彼にとっては建前としてしか思っていなくても日本の独立が物語の当初からの大きな課題のひとつである。
独立戦争は領土化されている祖国を解放するために内地で戦闘せざるを得ないものであろうし、兵士の士気に関わったり、圧政を強いられる国民の沽券、生死に関わるナイーブな問題を孕んでいると思う。
したがって、祖国を一度脱出して独立戦争を外から仕掛けることが果たして国民の感情を考えた得策なのかという疑問が生じるのは自然な成り行きだと思うのだけれども。
実際は黒の騎士団は熟考せずにこの提案を盲信する形となる。
その時点で烏合の衆であるかと印象づけてしまった意味では演出に落ち度があると感じた。
終盤での皇帝の真の目的(Cの世界、ラグナレクの接続等)から本作はリカバリーするどころか、色々と見誤ってしまったと思う。
それはルルーシュの闘う目的が茶番に成り下がってしまい、物語の力強さが失われたからである。
両親がルルーシュ兄妹をV.V.から守るため、表面上は外交カード≒人質として日本へ送還したこと、母親が実は他人の体を寄り代として存在していたこと、両親が人類補完計画を進めていたこと等の超展開の一言では片づけられない程の都合の良い展開と混沌としながら浅い理由付けに呆れてしまった。
ルルーシュの復讐劇が陳腐なものと化して世界を巻き込んだ戦争は結局のところ親子喧嘩からくる勘違いが発端であり、こんな矮小な次元で世界は振り回されていたのかと唖然とした。
前後して監視役のロロは死亡してルルーシュ自身は黒の騎士団から追われ、彼が思い描いていたシナリオから大きく逸脱する。
その修正を余儀なくされたことは分からなくもないが、この一連の流れを上手く纏めることができれば救いようがあったのかもしれない。
そして、トドメを刺すのはラストのストーリー運びである。
ルルーシュが世界から一心に悪意を受け止めてスザクに殺されるというくだり。
感動的で綺麗に描いたつもりかもしれないが、冷静になって考えてみると大変可笑しいものである。
何故かというと、ルルーシュは完全に自己陶酔に浸っているようにしか見えないからだ。
ナルシスティックな最期を安く陳腐な演出で感傷を誘うように描いたのはどうかと思う。
ゼロレクイエムの内容自体も自己満足であるし、平和にするまでが一番難しいのではなく、平和を維持するのが一番難しいのにもかかわらず、その責任もゼロもスザクに押し付けて自分は丸投げしている。
世界に対して無責任だと言われても仕方がない。
戦争を通して殺戮の限りを尽くしたことに罪を感じる道理はあれど、本懐を遂げずに自ら死ぬことは逃避でしかない。
それは悪が偽悪者を語っているほどに悪質であるのだ。
『コードギアス』という作品は人を引き付ける魅力があった。
だからこそ、もっと上手く作れなかったのかと悲しくなる。
ここまで勿体無いと思う作品はないだろう。