plm さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
馳せる思いと、踏み出す勇気
一週間で友達との記憶を失くしてしまう少女と、仲良くなりたい少年の青春物語。
今期は不思議なことに記憶喪失の話がいたるところでネタ被りしていたのだけど、
この作品はその中でも直球の代表格。記憶喪失ネタが話の中核として大きなウェイトを占めている。
■歩み寄るための勇気
同じ環境に身を置く中で、自然に気の合う同士で友人になっているということは、労さずあるだろう。
しかし故意に友達になるべく、きっかけを作るために話しかけるには、少なからず決意が必要になる。
自分を受け入れてくれるかどうかもわからない、それどころか自分が傷つく可能性すらある。
友達になるには、相手となる人物との相互承認・コミュニケーションが不可欠である。
その相手が「誰とも話したくない」「関わりたくない」といった雰囲気を出していたらどうか。
ただでさえ踏み出すのに必要な勇気は何倍にも膨れ上がり、ハードルは相当に高くなる。
理性的な人ほど、リスクを排するために人との関わりを避けたくなる傾向があるように思う。
「傷つく可能性があるのなら、人との関わりを増やさなければいい」 愛などいらぬ、とはサウザー理論。
能動的であれ受動的であれ、双方に歩み寄る勇気があって、友達への第一歩が踏み出せる。
■逆境でこそ輝くハッセ
だからこその主人公"長谷 祐樹"は、まさに直情的キャラで、その時々の感情のまま素直に行動する。
中盤くらいになるとうざったく感じるくらい女々しかったり、優柔不断な部分が目について、
理性的な桐生くんのバッサリ論破に惚れてしまった人の方が多いのではないだろうか。
けれど桐生くんは「人との関わりを増やそう」とするタイプではないことはみて取れる。
つまり、桐生くんでは物語を始めることはできなかっただろう。
彼は「友達になってしまえばこんなにも頼れる」けれど、自分から動こうとはしない性格。
踏み出さなければ、きっかけを掴めなければ、こういったタイプの人と友達になれなかったかもしれない。
そこを結び付けられるのは、直情的な行動ができる主人公のような人物なのだろう。
だからこそハッセは逆境でこそ輝く。理性派が70点で妥協するような事柄を、
点数が減るリスクを恐れずにより高い可能性へと向かって行ける。
その結果100点中70点だと思っていた事柄は、実は200点や300点の先が見えてくることもある。
理性(桐生くん)は人との関係を調整するが、感情(ハッセ)は人との関係を作り、大きく変え得る。
桐生くんだけいればいいじゃん、かというとそんなことはなく、長谷はここぞという時に輝いてたと思う。
■藤宮さんと恋の行方
友達以上恋人未満な関係をもどかしく思う人も多いのではないか。
実際、ハッセは下心ありで近づいてきてる節もある。
けれど、強い挫折を経ても友達で居続けたい、関わり続けたいと思えるのは、
その人の人間性を好きになったからなのだと思う。
恋愛感情を差し置いて、親しく関わっていたいとする思いは、きっと友情の面が強くでている。
だから今は友達(フレンズ)がぴったりな関係なんじゃないかな。
☆まとめ
「記憶喪失ネタが話の核になっている」と書いたものの、記憶設定は味付けに過ぎなかったように思う。
人との関わりは苦労することも多いけれど、感情を揺さぶる喜怒哀楽に満ちている。
苦労のファクターとして記憶喪失が用いられたものの、作品を通してのテーマは「友達」だと感じた。
交友関係の描写自体は際立って非日常的なものではなく、人並みで当たり障りのないものだ。
それが劇的に思え引きこまれるのは、そんな日常に深く喜びを感じる藤宮さん視点のためだろうか。
何気ない友達との所作が、感情の揺れ動きに繊細に作用する。
改めて、人との関わりや交友関係が生む感情の揺れ動きそれ自体が、面白いものなんだなぁと感じた。
最後に、ストーリーを引き立てる演出、作画、台詞や演技は安定して良いクオリティだった。
導入とラストの出来は特に気に入ったし、全体的に温かい雰囲気で、前向きな作品で良かった。