いおりょぎ さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
淡く切ない恋心・・・距離と時間に込められた思い…そしてはかない思い出を美しい映像で綴った恋から少し離れたちょっと大人向けの恋愛詩篇かな
2007年劇場公開
新海誠監督4作目の3編からなるショートアニメ。
新海監督の名前は知っていましたが、具体的にどんな作品を作る方かは、あにこれ始めて知りました。
新海作品を見たいと思ったきっかけは「ねこの集会」。
NHKの1分間で作られるショートアニメのオムニバス企画「アニクリ」で紹介されたのを実は見ていて、あにこれで新海監督と繋がりました。
また、これもあにこれで知った、新海監督ゆかりの「スタッフ」が作成したショートアニメ「旅するぬいぐるみ」も素晴らしかったんですよね。
そして直近で話題のなったZ会公式CM「クロスロード」。
CMという短い時間に惜しみなくつぎ込まれた高いクオリティーに驚愕してしまいました。
これまで見た新海作品は、全て5分以内のショートアニメばかりだったのですが、最近あにこれレビューが多かった「サカサマのパテマ」を見たいなと思ってBRをネット通販で検索していたら、「パテマを買った人が一緒に買った作品」として紹介されていて、思わず購入してしまいました。
前置きが長くなりすみませんm(_ _)m。
ストーリーは主人公「遠野貴樹」(とおのたかき)と「篠原明里」(しのはらあかり)の小学校から始まる恋愛模様。そして離れた場所で貴樹が出会ったもう一人の女の子、澄田花苗(すみだかなえ)の淡い恋心を描いています。
以下ネタバレ感想になります。
第一話「桜花抄」淡くせつない初恋
{netabare}小学校でお互い転校生で性格が似ている貴樹と明里。
お互い惹かれ合って、一緒にいることが多くなり、いつしか淡い恋心になっていく。
ところが、卒業間近に明里が転校することになってしまう。
明里は貴樹に相談するけど、なにも応えて上げられない貴樹。
自分は転校したことが無く、また小学校で明確に恋愛したこともなく、分かるとは言えなかったけど、明里が明確に好意を持っているのに対して、少し友達感情と恋愛感情の狭間にいる貴樹の気持ちは、なんとなくわかる気がしました。
この頃の男の子って、まだ女の子よりすごく幼くて、自分が小六の頃は女の子の方が断然恋愛してたなって記憶があります。
この序章は、主に明里から貴樹に宛てた手紙で綴られてますが、小学生の明里役、近藤好美さんのあどけなさの中にある明確な好意が上手く表現されていて素晴らしかったと思います。
そして、中学生になって貴樹が鹿児島(後で種子島であることが分かります)に転校することになり、貴樹は明里に会いに行きます。
このシーンでは、電車が沢山出てきますよね。
実のところキャラと作画に関して、1話冒頭からですけど、背景や光の表現が際立っているのに対して、キャラクターの表現が淡泊なので、少々違和感がありました。
特に電車のシーンで蛍光灯が描写されているところで、「蛍光灯にここまで手を掛けるかっ」て思うほどなので、キャラが少し浮いてしまっているかなって・・・。
でも、キャラはともかくとして、電車が遅れてしまって貴樹が焦る気持ちのシナリオはよくわかりましたね。
今でこそ携帯があって、すぐに連絡取れるけど、あの頃はそういうことあったよなぁ。
例えば駅の「ここでっ」て待ち合わせしても、「ここ違いで」会えなかったなんてことも普通にあったし。
だからって訳じゃないけど、これは物心ついた時から携帯がある世代の育った人たちには理解が難しいかもしれない。
まあ、結果的に会えて、そして始めてキスしましたね。
中一で初キスは羨ましいやらなんとやらです(〃∇〃)
貴樹が高揚しながらも「この先も二人は一緒に居続けることはできないとわかった」と言うのは、まあ大人視点の感じで違和感あったかな。
普通の中一だったら多分そんなこと考えながらキスはしないと思う。
でも、そう言って考えながら「くちびるのぬくもりだけが残った」っていうセリフの下りで「男脳だなって」思ってしまいました。
男って恋愛脳と思考脳が同居できたりするんですよね。
この辺は女性の意見も是非聞いてみたいところかも。{/netabare}
第二話「コスモナウト」淡い片思い
{netabare}一転して、貴樹は高校三年生。
種子島の高校で弓道部のかたわら、同級生の澄田花苗に恋心を持たれているというところ。
でも、貴樹は未だに明里のことが好きで、いつもちょっと心ここにあらずって感じ。
花苗の気持ちを知ってか知らずか、それでも何故か親しく接していて、好きなのか、ただ優しいだけなのか。
自分は花苗の気持ちは分かるような分からないような。
この多感な時期に、他の人が好きそうな人を好きって思ったことがないと、なかなか分からないかも。
自分はなかったかな~。
今でこそ、鈍感な男子主人公の多いアニメ見て呆れたりとか、羨ましかったりとかしてるけど、この頃って実は本当に鈍感だったりする。
高校生の頃は、自分が好きな女の子のことは気になるけど、実は全然別の女の子から好意を持たれても全然気が付かなかっていたり・・・。
本当に後になって、「あ~、あれって好きって思ってくれてたのかな」なんて思ったりしてね。
アニメの主人公を馬鹿にしてるけど、案外そういう男っているんだよね(;^_^
女性のみなさんごめんなさい・・・。
あと携帯でメールを書いて、結局送らなかったっていうのは、分かる気がした。
っていうか、結構そんな事一杯してた。
伝えたいって気持ちと、言葉にならない気持ちが交錯して、何度も手紙を破り捨てるような心境だったのかな。
でも、ここでの貴樹の気持ちは、より複雑な感じ。
遠距離恋愛ってこういうもんだろうか。
「コスモナウト」で良かったのは、背景が種子島の自然になったことで、キャラと背景の違和感が無くなり、自然なアニメの雰囲気になっていったこと。
やっぱり夕日や海の『光』の表現が素晴らしく、宇宙のような夜空の表現は芸術的。
なんかロケットのシーンは「はやぶさ」かなって思ってしまいました。{/netabare}
第三話「秒速5センチメートル」遠ざかる思いと失われていく純心
{netabare}
さらに数年後、貴樹は仕事に疲れ、明里は別の人と結婚していくことに。
この結末に賛否が分かれてますよね。
自分は、見る人によって評価が分かれて当然だと思います。
同じような経験をした人には悲しい気持ちになるかもしれないし、見る側が女性か男性かによってはっきりと見る立場が分かれます。
新海監督がそれを狙って作ったとは言えませんが、ちょっと大人になった人たちが、甘い恋心を振り返る作品なんではないでしょうか。
最後に二人の軌跡をなぞる様に山崎まさよしさんの「One more time, One more chance」が追憶と風景の短いカットと供に流れます。
もちろんいい歌なんですが、挿入されるカットが実に効果的で、なんとも言えず感動してしまいました。
尚、秒速5センチメートルとは、桜の花びらが落ちる速さのことだそうです。{/netabare}
総評
新海作品をちゃんと見たのは初めてだと言っていいんですが、なんと言っても作画の美しさが際立ちます。映像美は衝撃的ですらあります。
あにこれレビューで新海監督をレンブラントやフェルメールになぞって現代の「光の魔術師」と呼ばれる方がいらしゃますが、まさに光の使い方は素晴らしく、終始目を見張るものがあります。
四季の表現も美しく素晴らしいです。
台詞が少ないのに、正味1時間の作品とは思えないほどの時間と密度が凝縮していて、見ごたえもあります。
また、新海監督の言葉を借りると、当初「気軽にさっと作ってみよう」と思ったきっかけから、「気軽な考えでは済まない。けど作らなければならない。」と至った経緯もあって、ひとつの作品で新海監督の進化も垣間見れる作品だと思います。
ストーリーに関して、あにこれでは賛否が激しいですね。
少なくとも見る側の視点が男子であるか、女子であるか、また見る年代によって解釈が分かれる内容であることは間違ないです。
ある意味見る人を選ぶ物語かと思います。
個人的には恋愛真最中の方にはあまりお勧めできなですねσ( ̄、 ̄=)
ちょっとブルーになってしまうかも。
色々な意見がありますが、自分としては、男女問わず少し恋愛から遠ざかった人とか、逆に今は恋愛してないけど、少し恋愛に戻ってみたい人なんかにお勧めです。
ともかく強烈に印象に残る作品であることは間違無く、もし迷うようでしたら、山崎まさよしさんの「One more time, One more chance」のPV部分だけ見るのでも充分価値はあると思いますよ。
個人的には一点だけ、主人公の声優さんは合っていないと思ったので、そこは残念だったかな。
ともかく、新海監督は注目を置かれるクリエイターであることは間違いなく、これからの作品にも期待しています。
最後までお読み頂いた皆さま、ありがとうございました(*^_^*)