くらうち さんの感想・評価
4.3
物語 : 5.0
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
こんな未来もあり得るのか
ストーリー、キャラクター、音楽どれをとっても最高峰のアニメのひとつだと思います。
語りたい魅力はたくさんあるのですが、以下にしぼって書かせていただきます。
①合田の目論見は何だったのか
{netabare}
合田がプロデュースした放射能除去装置によって日本は経済大国にのし上がったわけですが、合田自身は、従来のヒエラルキーにおける最上部構造に行くことはできなかった。要は、出世できなかったわけです。
俺が出世できない社会構造なんて壊してやる!というひねくれた動機が合田の行動原理なんでしょうかね(笑)
最終的には、強制的に難民を蜂起させてこれを鎮圧した後に、税金で難民を救済することから、逆に搾取するという構造にシフトさせることが目的だったのでしょうか。そして、それを米帝に利するように進めることによって、自らが米帝で高い地位を得る。
日本の利益を考えて、国民の代弁者となる英雄をプロデュースするなんて言っておきながら、結局は出世したかっただけなんかい!って感じはしますね。
そんなことだからDT(ry
{/netabare}
②精神と肉体の分離、精神とネットの融合
{netabare}
肉体が義体という代替可能なものとなり、精神がネットとつながることによって、肉体と精神という不可分であると考えられていた両者の分離が生じる。
全身義体であった素子やクゼは、このことを顕著に感じていました。また、AI本体は衛星内に置かれていたタチコマも機体と意識の不一致、自らを俯瞰しているかのような感覚にとらわれていた。
そして、精神は肉体を離れ、ネットに融合していく。
GITSで、素子と人形使いが融合することによって生じた現象に似ています。
そして、この精神とネットの融合が、まさにクゼの目指したところでもあります。
{/netabare}
③個性という名の幻想的オリジナリティ
{netabare}
では、精神とネットが融合すると何が起きるのかというと、個性の消失です。
肉体が個性の表出に与える影響というのは計り知れないものがあります。精神のみをもって個と個を識別することは困難なのではないでしょうか。
クゼは、精神とネットの融合を下部構造(経済構造)から上部構造(精神的なイデオロギー)へのシフトであり、革命であるとしました。
しかし、それは本当に進化と呼べるものなのか。
ただ単に、「新しい」だけではないか。個の喪失を招く可能性すらある。
私には、クゼの理想は独善的なものに感じられました。
{/netabare}
④第3の意思決定主体
{netabare}
ネットと精神の融合は、自分のやることは自分で決めるという当たり前の前提すら崩します。
個別の11人は、それぞれが相通じることなく独立して行動していたにも関わらず、難民排除という総意に従っていた。これは合田が仕掛けたウィルスによるもので、合田に操られていたからです。
しかし、中国大使館を襲撃したテロリスト達、さらに遡って笑い男事件の模倣者達は、合田のような個に操られていたわけではありません。
前作ではこの、個としては独立していながらも全体としては同じ方向を向いているという現象を指してStand Alone Complexといっていたわけですが、ネットと精神の融合は、より明確にSACを引き起こす可能性を秘めています。
すなわち、個の意思とは乖離した無意識が、ネットを介して全体として総意を緩やかに形成している。個体はその総意にしたがって行動している。
これは、もはやComplexではなく、確信的な現象といえると思います。
{/netabare}
こんな駄文を読んでいただきありがとうございました。
以下は、完全なる妄想です。
⑤難民問題
{netabare}
本作は難民問題を扱っているわけですが、将来の日本が本作で描かれているような状況になるでしょうか。
現実の日本においては、絶対数が少ないために難民問題が顕在化しているという状況にはありません。
しかし、国内の労働力不足から、国外から広く労働力を調達しようという動きはあります。私は、これが本作における難民問題と同じような状況を顕出するのではないかと思います。
日本人は割と排他的な国民性を持っています。300万人の難民を税金で養うことに耐えてきたのは、合田にいわせれば、「奥ゆかしさが我が国民の美徳だ」からです。
流入の原因が戦争で祖国を失ったからであれ、出稼ぎに来たからであれ、日本社会にとけ込めなかった外国人は、コミュニティを形成する。その絶対数が増えれば、長崎の出島のようなコミュニティが出現するでしょう。
{/netabare}