らしたー さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.5
作画 : 3.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
叫べ。世界のせいにしてでも。
なんて爽やかなクズ人間どもの青春群像劇。
引きこもりというキーワードをトリガーに、夢のある青春ストーリーに落とし込んだ手腕は見事としか言いようがない。ここまで鮮やかに現代ファンタジーを描ききった作品を久しぶりに見た。誰だよこれを鬱アニメと言ったやつは。
ええ、この作品は夢とファンタジーに満ち溢れてますとも。
山崎みたいな友人は万金を積んでも得られない人生の宝だし、美人でダウナーな先輩なんて小説の中でしか見たことなければ、岬ちゃんにいたってはドラえもん級のファンタジーである。設定や展開にリアリティがあるかどうかは、視聴の軸としてはたぶんあまり意味はない。
だが、それでいい。それがいい。
本来、容易には手に入らない各種アイテムを完備した上で、病んだ若者たちをめぐってはたしてこの作品は何を描いたのかと考えたときに、わたしには青春の二文字しか浮かんでこない。
佐藤に対して、自らの安泰を感じるのもひとつの視聴のアプローチではあるのだろうけれど、私は正直うらやましいと思ってしまった。
この作品から感じるのは破滅のテイストではなく、どちらかといえば、たとえば成功した人間がのちに「私にもこんな時期もあった」と語るときの、「そんな時期」にあたる、雌伏の日々。薄暗く地べたを這うようでいて、だけど感謝してもしきれない眩しい瞬間の数々。現在の自分を形作った貴重な時間。
なんとなくそんな匂いを感じるわけで。それは、一般的な文脈で語られるものとはすこし違うのかもしれないけれど、私基準だとまぎれもなく眩しい青春時代なのです。
引きこもりというキーワードから流れるように派生展開される、オタク文化、ネトゲ依存、自殺オフ会、マルチ商法など社会的トピックと、それらに対する若者たちの絶望と希望を鮮やかに織り込んだ、奇跡的な娯楽作品と思います。
世界との距離感がわからなくなたっときは、叫べばいいのです。距離をつめてこない世界の方が悪いといって、叫べばいいのです。
叫ばないよりはマシなのだから。
*
それにしてもほんとダメ人間のオンパレード。
佐藤のダメっぷりはオフ会で流れに身を委ねようとしたところがピークだと思うけれど、ネトゲに夢中になってカウンセリングをすっぽかすくだりとかも地味に秀逸で。あのなにげない「ま、いっか」っていう判断は、この世界のすべてのダメ人間が共感を覚えるところでしょう。
とはいえ、ある程度歳いってからこっち、基本的にダメクズ要素のある人間しか愛せなくなってきてるので、本作の登場人物たちが魅力的に映ってしまったのも事実。高校時代のクラス委員長とか、ほんと神がかったキャラ造形。あーなってしまうと知った上で見たときの、委員長時代の真っ直ぐすぎる危うさとか、もう最高。
自分の身の回りでもやっぱり似たようなことは起きてて、すごく真面目で勉強もできて、本が大好きだった同級生の子がヘルス嬢に身を落としたことを知った時の衝撃ったらなかった。そして、めぐりめぐって今はいいママになってると聞いた時の謎の感動も。
そして、そんなことが起こるたびに、人間というやつが好きになる不思議。