田中タイキック さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
過去と現在の想いを繋ぐ灯里という名のAVVENIRE
2005年10月~ テレビ東京系にて放送
全13話 原作既読
ウンディーネと呼ばれる観光案内業界で一人前を目指す少女達の成長と
スローライフなユートピア的世界で日常に溢れる小さな素敵の再発見を描く
未来形ヒーリングストーリー作品
ともすると不気味とさえ思えてくるほど社会の暗さや人々の諍いの一切を排除して
清純と愛情で全てを包み込み、出会う人みんなが誰かに対して優しくあろうとする世界。
シリーズを通してネガティブな描写が一番目立ったシーンが「陰口を言う」所ですよ!?陰口って(笑)
そんな世界を違和感なく成立させている大きな要素としてテラフォーミングされた未来の火星を舞台にしている所。
水の惑星となった火星に地球のヴェネツィアの建築や風習を再現し、日本情緒ある四季の移り変わりを加え
四季の移ろいは作品に明確な時間間隔を与え、24ヶ月とされる公転周期がその時間間隔を緩やかなものにする。
火炎之番人(サラマンダー)という気候を制御する人たちがいるおかげで悪天候で海が荒れることもなく
地重管理人(ノーム)という重力を制御する人たちがいるおかげで女性の細腕でもゴンドラを操舵しやすくしている
という明確な描写は無いのですが、そういう解釈もできる余地がちゃんとあって
水先案内人という職業を描くうえで些か都合が良すぎる環境であってもSF的設定のおかげで違和感は最小限になっている。
作中の登場人物も「こんな素敵な場所ないよね」と自覚的にこの世界のユートピアっぷりを感じていたりするんだけど
同時にフィクション作品であってもこんな理想郷を描く為には仮想舞台を設定するほか無く
現実の地球上では絶対ありえないですけど、遠い未来こんな場所も出来るかもね
という皮肉めいたロマンを感じたりもしました。
1期の主題としては素敵な世界「アクア」を人々がどのように想っているか
過去にどのような願いをこめて造っていったかを描いていて
4話と12話のアクアの成り立ちに関するオリジナルエピソードで補完しています。
特にクドいくらい徹底して描いてきたアクアの素晴らしさの源流を感じられる12話は
それまでの蓄積があるからこそ得られる感動です。
感動といえばシリーズ屈指の好演出回の11話
「その オレンジの日々を…」の題でオレンジは夕方まで合同練習をしてきた日々の色。
10話までは各回どこかしらで夕焼け空の描写があったのに、この回は暖炉の火と街頭の灯りの小さなオレンジ色が目立ちます。
灯里は先輩達もかつてあったオレンジ色の思い出の語らいから変わってしまうことへの不安を抱き、
溢れる感情を止められない灯里の描写は、冬の寂寞の夜空と挿入歌の情感も相まって凄く感動的。
正直、雰囲気が心地いい日常系アニメくらいだった作品を11、12話で傑作レベルまで押し上げてくれた。
時代的な問題で人物作画の不安定さや背景の稚拙さ、ベタ塗りな水の描写、
水着回において他作品の追随を許さない圧倒的なクソダサ水着なんてぜぇーんぜん気にならないよね。
ブレずに強固な世界観設定と普遍的で押し付けがましくないメッセージ性は
見ている者に小さくとも暖かな気付きを与えてくれます。
毎年、年の瀬には見ている作品だけど今年はBDで見られるなんて感無量でございました。