Dr.コトォ さんの感想・評価
4.6
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
アシタカとサンの終わりの無い旅路
スタジオジブリのアニメで一番好きな作品。
歴代のジブリアニメの中では突出して残酷なシーンが多く描かれていますが、
なぜか自分は子どもの頃から何度も繰り返し視聴していました。
当時はただただ、人間と自然、文明と神々がお互いの正義を掲げてぶつかり合う姿に酔いしれ、
そして人間の圧倒的な科学技術力を前に成すすべも無く倒れていく
古代の動物たちを見て、やりきれない気分になる事もしばしば。
映画で何を伝えようとしているのかはそもそも気にしてはおらず、
主人公たちが戦いの中でなんらかの勝利をつかみ取って欲しいという目線で見ていたことは
結構記憶に残ってます。
しかし人間側も一枚岩ではなく、
日々暮らしていくためにあらゆる犠牲を払っているという細かな描写に気づくには、
子どもの感性では酷なものがあったかも知れません。
{netabare}
例えばエボシ御前がかくまっている病に侵された人々。
体中に布を巻いて皮膚を隠していることから恐らくハンセン病。
いつかニュースで話題になっていたように、この時代だと
この病気への差別感情は現代とは桁違いのものがあったのでしょう。
ほかにも身売りとして買われてきた女性たち、その女性たちにタタラ場という仕事場を与え、
そのために山を切り開き神々の怒りを買うエボシ。
何より人間でありながら山の神として君臨する山犬に育てられたサン。
そしてごく普通の人間でありながら、突然人間への恨みと憎しみを引き受けることになってしまったアシタカ。
あらゆる人々が、あらゆる矛盾に引き裂かれて立ち往生しているのがこの物語の姿なのだと、
今更になって思っています。
{/netabare}
人間も動物も生きるために戦っていたのです。
だからお互いを許すわけにはいかないのです。
この物語の中では答えが出ない。今も出ていない。
この物語中で納得のいく答えが出せた登場人物は恐らく一人もいないでしょう。
だけど、アシタカとサンを見ていると
どうしたら許しあえるんだろうか、もしかしたら許しあえる日が来るんじゃないか、と
淡い希望のようなものが頭に浮かんできます。
この二人も、お互いを見てそんな事を考えていたんじゃないのかなぁと
つい思ってしまいます。
だから二人がいると、極限状況の中でも不思議とどこからか勇気が出てくる。
この二人は、宮崎監督が苦しみながら生み出した
希望のしるしなんだと、自分は思います。