くし さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
心に滲みる素晴しい傑作
この作品は誰もがどこかで経験した事がある、大切な記憶を甦る事ができる話。
年を重ねた人には是非お勧めしたいし、若い人にも今を見つめ直す素晴しい作品だ。
新海誠作品だけあって、美しい映像と環境音が臨場感を盛り上げ、これから始まるストーリーの素晴しさを予感させる。
この作品は3部構成で作られている。
主人公の男女が離れなければならなくなる小中学生時代、高校卒業前、成人という一連した物語。
{netabare}
第1話 桜花抄
秒速5センチ、これは速そうに思えるが、決して速くない速度。よく考えてみると50cmで10秒もかかる。速いようで速くない。
自然なゆっくりとした時の流れとはこういう物差しを言うのだろう。
話は小学生から中学生にかけて、男女の人間ドラマ。しかし彼らは決して子供ではない。大人へ成長する過程の年齢を感じさせない物腰、まるで大人の振る舞いで物語は綴られる。
もう少し年齢が上なら物語もだいぶ変わってしまうだろう。この年齢だから心は純粋だが、自分の力で人生を切り開くことが出来ない年齢でもある。背景は携帯電話がまだない時代。
出会い、離れ、そして最後の瞬間への過程。
ここに話の重さが、あせる気持ちと裏腹に遅い時の流れ。逃げ場の無い臨場感が半端ない。
二人は凄く親密な関係だ。手紙に綴られている言葉、「私は今〇〇です。貴樹君は〇〇でしょうね。」と言う具合に、文章はいつも自分の事と相手の事を一つとして綴り、それを繰り返して表現するところなんか、二人の思いが伝わってくる。
離れて1年後に再会する時も、これも人から見ればたった1年だが、当事者かすればほんとに長い1年なのだろう。
桜花抄、始め私は題名の持つ意味が分からなかったが、観終わってやっと理解した。物語の最初に秒速5センチの桜の花びらが舞い落ちる風景「まるで雪みたい」、そしてラストのまるで桜の花びらが降っているような雪降る景色、写したような対比する情感がこの題名なのだなと納得。
第2話 コスモナウト
高校卒業前の男女の話し。舞台は離ればなれになった後の彼の生活地でのストーリー。
「どこへ行くのだろう どこまで行けるのだろう」
自分のすべき事が定まらない時代。
先の見えない世界へ旅経つ年頃に潜在する心の動揺を描いた物語。
主人公は新たな女性で、この彼への思いや行動が描かれている。
誰もが経験した片思いのもやもやする心情がいっぱい溢れる話で、言えなかった「好き」という言葉に彼女の気持ちが解るから心に響く。
第3話 秒速5センチメートル
この短いストーリーに全てが凝縮されている結末。
歩いてきた足跡。回る想い出。奇跡が起こせるならもう一度過去へ戻ってやり直したい。
歩き始めている別の世界。
挿入歌の山崎まさよしが歌う「One more time, One more chance」が全てを物語っている。
{/netabare}
本当に男心を捉えられているな、と感心。まるで自分の過去を観ているようで、同時代に同じ空気を呼吸していた人には解ると思う。
この作品を観る前に、あにこれの仲間からこの作品で是非過去を掘り起こしてくださいと勧められた。彼もきっとこの同じ感覚で、過去の自分の記憶を思い浮かべて情感抄に浸っていただろう。
本当に心に滲みる素晴しい作品でした。