rurube さんの感想・評価
3.5
物語 : 5.0
作画 : 2.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 4.5
状態:----
人間失格について
「人間失格」は間違いなく日本文学の頂点に君臨する作品。
この作品の肝は最後にバーのママが言う「葉ちゃんはお酒さえ飲まなければ、いえお酒を飲んでも天子みたいな子でしたよ。」これしかない。
文学史上もっとも衝撃的な台詞。葉蔵は確かに女垂らしで所謂ひもの期間長い。しかもすぐに行方をくらましては次の女を捕まえて又ひもになる。
一見してどうしようも無い男なのだが実はそうではない。彼は言う「私はピエロなんです。」と。彼は人が自分に望む事をすぐに理解し、ピエロの様に望む事をする。なぜなら彼は天使だから。
捨てた女が彼に望んだ事は綺麗で可愛い葉蔵が自分なくして生きていけない事だ。『自分に依存して欲しい』言うなれば大人に成って欲しくない、その心を葉蔵は理解し彼は女のピエロになる。
どんな人も同じだが人は思いの強さに潰されそうになる事もある。彼は女の思いの強さに耐えられなくと女の前から姿を消す。けれど逃げた先にも葉蔵を必要とする女が現れる。彼はその螺旋から逃げる事が出来ずに溺れて行く。
その地獄に垂らされた一筋の糸それがヨシ子だった。彼女は初めて自分に何も求めない人だった。彼女との生活は彼を普通に戻していく。二人だけの生活・二人だけの約束そこには何も、いわゆる人のどろりとした嫌な部分が無かった。
だけどこの後ヨシ子は強姦される。そこでこの台詞「彼女の疑いを知らぬ無垢な心の世界を壊したのはわたしの業なのです。」凄い文章。もしかしたら多少間違って覚えているかも知れないけど。
その後の葉蔵は廃人になっていく。
で最後に葉蔵についての台詞が「葉ちゃんはお酒さえ飲まなければ、いえお酒を飲んでも天子みたいな子でしたよ。」に繋がる。
この台詞の凄い所はこの話が肯ならばなぜ天使であるはずの葉蔵が廃人になってしまったのか?これは人の悪意でしかない。彼に皆不幸になって欲しかった。顔が良くて社交性が高く女にもてる彼に周りの人は皆不幸になって欲しかった。ニコニコしてるあいつも皆人の不幸を望んでいる、人のどろりとした嫌な部分が世界には存在しているのだ。
又この台詞が否ならば。葉蔵の嘘だらけの人生の読み手に「自分はピエロなんです。」この台詞すら嘘だろう。しかも、この小説は太宰自身を題材にしている。入水心中しておいて自分の事をぬけぬけと天使と言う太宰、世の中にはそういう事平気な顔で書く奴がいるそういう恐怖がある。
だけど一番凄いのはこの小説はおそらく両方の説が肯なのだろう。両方とも間違いではない。しかしどちらにしろ一種の狂気を表している。
でアニメの話なんだけどこのアニメは丁寧に作った事がかえって良くなかった。「人間失格」が発表されたのが1948年なので時代設定を合わせている。なので最初のシーンの喫茶店が古臭く見える。これは小説には無い情報。小説では喫茶店としか書いてないから描写は個人の創造になる。
きちんと状況を合わせた事で物語が古臭くなり、この小説自体が古臭い印象を持たれてしまった。これについては古屋兎丸が書かれた漫画版の方が描写だけ現代になっていて数倍良かっただけに残念だった。
最後にアニメしか観ていない人はすぐに小説を読んで欲しい。作品の新しさとページ数の薄さに頭を殴られる感覚に陥るはず。自分はこの小説が1948年に発表された事が信じられない。