ヒロトシ さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
恋愛はあくまでエッセンス
本作の映画予告編を見てテレビ版を見ていた視聴者の大部分がこう思ったはず。
「あれ?デラちゃん出ないの?」
実は同時上映でデラちゃんメインの話があるので出番はそっちに期待!と最後まで見れば分かるようになっているのだが、それにしても、マスコット的キャラクターで物語に不思議な魅力を添えていたデラちゃんが登場しないというのは少し違和感を感じる人は決して少なかったとは思えない。
とはいえデラちゃんの物語はテレビ版で描ききってしまっているので今更登場させるのも難しいのだろう。ましてや今回はたまこともち蔵の恋物語を軸に高校3年生として人生の岐路に立ったたまこ達のストーリーといった極めて現実的な要素に明らかに非現実的なデラちゃんがしたり顔で出演していたら台無しなのではないだろうか。
さて結果としてデラちゃんが存在しない事でテレビ版のちょっと不思議な生物が登場する日常作品のイメージは何処へやらであり、今時の女子高生の可愛らしい挙動や男子高生特有のノリを徹底的に研究し、今作はメイン級の扱いであるもち蔵が映画研究会という設定を活かしてアングルに凝ったカメラワークを存分に使い、テレビ版のたまこまーけっととは何だったのか?と思ってしまうくらい視覚的な演出に挑んだ作品に仕上がっており、また違った魅力をファンに提供する事に成功していると感じる。
たまこラブストーリーと銘打っているが、実際はたまこともち蔵の恋物語というよりも将来を真剣に見据えた少年少女達の成長物語となっているのが最大の特徴であり、尚且つ本作のウリと言っても過言ではない。
テレビ版ではいまいち報われない・存在感がさほど感じられなかったもち蔵が葛藤しつつもたまこに全力でぶつかり告白する男気は彼が一人前の男として歩き出す瞬間を感じさせる感動を与えてくれるし、内面的にいまいち未熟な所があったみどりがたまこの決断を後押しする気遣いを見せる終盤のシーンも彼女の成長を窺い知るには充分すぎる描写となっている。
上で紹介したどちらのシーンもさほどキャラの台詞は多くないが、その瞬間のキャラクターの表情・仕草とシーンに至るまでに積み重ねてきた丁寧な心理描写が結実している。テレビとは違い、時間的に余裕のある映画だからこそ出来る表現であると思う。
難点としてはあまりにも丁寧すぎるので、見ている内に中だるみ的な印象を受けやすいことだ。とはいえ彼ら・彼女らにとって自身がこれまで決着を先送りにしてきた悩みに物怖じせずにぶつかっていく事を決断するのは一朝一夕で出来る類のものではないという事を理解しておかなければならない。
個人的見解としてだが、見ている視聴者自身が悩み決断するまでに相当数の時間を割かなければいけない事は経験済みであると思うので、その時の自分の気持ちと重ね合わせて見るとより感情移入しやすくなるのではないかと感じる。
恋愛はあくまでエッセンス。たまこともち蔵の恋愛はお互い大人としての自覚を持ち始めた故の結果論に過ぎない。これは大人としての第一歩を歩き出す少年少女達の成長ぶりを暖かく見守るアニメであるように感じた。