takekaiju さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
ラピュタのような爽快な冒険と世界観
気象管理装置の故障により温暖化が進むアナトレーと寒冷化が進むデュシスの戦争は、世界の管理者である超大国ギルドの役割放棄により激化していた。小型飛空艇ヴァンシップを操り運び屋の仕事を営むクラウスとラヴィは、ある少女と出会うことで戦火に巻き込まれてしまう。戦争は移民船エグザイルをめぐり、世界を我が物にしようとするギルドの独裁者デルフィーネとの抗争に発展していく。
環境変化に伴う領土戦争、父親たちの意思を継いで空を目指す少年たちの夢、空を駆ける飛空艇の運用など独特の世界観、設定のあるファンタジーアニメ。序盤では運び屋としてヴァンシップに乗るクラウスとラヴィを描いており、暴風が吹き荒れるグランドストリームを夢に持つところなどの類似点から『天空の城ラピュタ』や『アリソンとリリア』に近い印象を受けた。艦隊戦の真っただ中に手紙を運ぶ姿など冒険心溢れる始まりだ。
謎の少女アルとの出会い、そしてシルヴァーナへの乗船からのエグザイルを目指す旅は少年少女の葛藤を描く展開へと一転する。アルを守るためにシルヴァーナに残りたいクラウス、ヴァンシップを戦闘の道具にしたくないラヴィ、交差することのない二人の思いは旅の中の出来事を通して和解していく。独自兵装を持つ特殊艦という位置づけや目的のため単独航行する点、無口な艦長とその艦長に恋する副長といった諸々には『ふしぎの海のナディア』の雰囲気がある。
この物語で欠かせないのは飛空艇ヴァンシップの存在だろう。速さを競うレース機として、荷物や書簡を運ぶ輸送機として、周囲の空を窺う斥候機として、敵艦を撃墜するための戦闘機として、さまざまな形で運用され人々にとって“空”が重要な存在であることがわかる。だからこそ世界を支配しようとするデルフィーネへは危機感を抱き、自由な空を取り戻すために両国が同盟を交わし、一市民である運び屋まで戦闘に加わるという状況が成り立つ。閉鎖されたコックピットや音速を超える速度を実現する現代的な戦闘機ではなく、ロータリーエンジンを搭載した古き良き飛行機のようなロートル感溢れる存在が、人々にとって空が身近なことを感じさせてくれる。
アイリッシュやケルト系の民族音楽を思わせる劇中BGMは、空を象徴するヴァンシップと相まって物語の雰囲気を一層よく醸し出している。空飛ぶ戦艦という近現代を思わせる兵器がありつつも、どことなく幻想的な印象を受けるのは雰囲気づくりがうまいからだろう。
独特の世界観や登場人物の描き方など全体的に満足する作品だが、違和感を感じる物語の急な展開には唯一不満が残る。各話のつながりが見えないまま次の話に進むことがままあって、特に25話前後のナビリレーのあたりはエグザイルを追っていたシルヴァーナのクルーがどうして中継地点にいるのか、どうやって用意したのか、理解できなかった。