「スカイクロラ - The Sky Crawlers(アニメ映画)」

総合得点
64.3
感想・評価
427
棚に入れた
1998
ランキング
3881
★★★★☆ 3.6 (427)
物語
3.6
作画
4.0
声優
3.3
音楽
3.6
キャラ
3.4

U-NEXTとは?(31日間無料トライアル)

ネタバレ

蓬(Yomogi) さんの感想・評価

★★★★★ 4.3
物語 : 5.0 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

タイトルなし

一言で言うと「綺麗な映画」だった。それ以外にない。

絵が綺麗、音楽が綺麗というレベルではなく、抽象的な意味で綺麗。
描こうとしていた人間の感情が綺麗だと感じた。
それは原作を読んだときに感じた印象そのままだった。
ここまで原作とシンクロした作品は珍しい。

まず声の話。
賛否両論の声優だが自分は本当に良かったと思っている。
特に主役の菊池凛子は「やられた!」といった感じ。
棒読みとか、へたくそなどと言われているけれども、アレこそが草薙水素の声なのだ。
原作を読んだとき水素の声のイメージが湧かなかった。
高いような低いような。
クールな司令官だけれども少女と書かれてもピンとこない。

しかし菊池の声を聞いて「ああ、この声か」と納得。
例えるなら「『ボクは天の邪鬼だから』とかいいたがるオタクの女子高生」。
本人は斜に構えているつもりでも端から見るとジェンガのように不安定。
これで水素の行動が良くわかるようになった。
特にティーチャーと関係を持った理由はまさにこの手の女子の思考回路!!

土岐野、函南の声は全く違和感なし。
三ツ矢の声(栗山千明)もここまでマッチするとは思わなかった。
ただし、三ツ矢が顔を覆ってしゃべるシーン。
口が隠れたとたん、もう栗山千明の声にしか聞こえない。
口が見えるともう三ツ矢の声にしか聞こえない。
リップシンクロでここまで感覚が支配されていたとは、あっぱれ。

次に絵について。
動いていた印象がない。
しかし細かく見ると動いていた。動いていたけれど、監督の意図した印象を観客に与えているか微妙なラインだ。
もともと西尾さんの絵がスッキリしているので多少動いても密度が低く感じられる。

またCGの絵がリッチに作ってあるので多分初見ではCGに食われた印象の方が強い。
もちろん自分的には大大大満足で、目力の強いキャラたちに吸い込まれそう。
水素も函南も瞳がピュア、まさに子供の目なのだ。
主役二人が常に無表情なので細かい仕草の演技の意味が大きい。(能か?)
そのへんも踏まえて末節ではなく、全体で見ると雰囲気は十分にじみ出ていた。

すべてCGで作られた空戦シーンについては、贅沢に作ってあった。
空のコンテは竹内敦志史が担当で非常にキレのあるシーンに仕上がっている。
CGが綺麗なのはさておいて、カメラワークがめまぐるしいのにゴチャゴチャした感じがしない。
きちんと戦況を理解できるし、飛行機の動きも追える。
緊迫感や迫力は今までみた映画(実写も含める)のなかでも一番だった。

パイロットが戦闘中に敵機を必死で目で追っている描写や、太陽光が操縦席を横切るのは今までにないリアリティ。
実際見てみるとすぐに納得する。ドキュメントの映像は実際にそうだから。

特に前半ダムを駆け上るシーンでは無重力の時のお腹が浮き上がるような浮遊感を感じるくらい臨場感に溢れている。
飛行機のシーンではあのダムのシーンが一番好きだ。
まさに原作を読んだ時のイメージそのまま。

音楽について。
メインテーマを軸に威力のあるオケ曲、情緒のあるボーカル曲を配している。
テーマ曲はハープがメイン。バリエーションでオルゴールも。
美しく切ない感じが今までの押井作品とは異なる。
女性向きになっているとも言う。
OPとEDの曲はバリエーション違いの同じ曲で良かったのではないか?
絢香の曲は良い曲だと思うが、あのラストシーンの後だとちょっと解釈が難しい。

キャラクタについてひとこと。
笹倉が女性になっているのは大したことではない。
むしろフーコの扱いに驚いた。
あれほど捻くれたキャラクタをアニメで見たことは一度もなかったので楽しみだった。

しかし蓋をあけてみてびっくり、大人のお姉様になっているではなか。
かなりショックだったが、中盤のサングラスをかける仕草で映画版フーコの役割が何となくわかった。
たぶんこの映画ではフーコの物語は語る暇がなかったのかもしれない。
フーコ好きとしてはちょっと残念だが、その分水素と函南に集中できて良かった。

語ることが多過ぎで書ききれないが。
とにかく、原作を読んだ時の印象そのまま。
自分にとって小説スカイクロラと映画スカイクロラはセットの作品として語っても良い。

作品内で主人公たちは「子供」と強調される。
酒も煙草もセックスもするのに子供というのは変だ、という意見があるだろう。
しかし、現実の子供をみてどうだ?同じじゃないか?
むしろ現実の大人は?大人と呼べるのはなんだ?
今の大人は子供のままではないのか?
自分だって大人になったとは思っていない。

主人公たちはまるで子供だ。
自分を自分のために使っているという点でまるで子供。
多分、大人になるということは何かのために自分を殺すことなのだ。
かつての大人がそれを欺瞞と分かっていても、国のために、会社のために、家族のために自分を犠牲にしてきたように。

それが良いと言っているのではなく、自分を自分以外のために使うというのは子供のままでは絶対に出来ない。
それが「大人になる」ということなのだ。

ティーンエイジャーには分かりにくいかもしれない。
思春期の子供は自分が世の中のことは一通り分かっていると思っている。
だから水素の思春期の理屈は大人の理屈のように感じて、彼女たちが「子供」と強調されることに反発を感じるだろう。

抑圧を受ける立場からの解放が大人になるような錯覚を持つが、実際には抑圧する側になった瞬間が大人になるといえる。

映画の中では水素の為に函南がティーチャーと対決する。
彼女のために自分を殺す決意をする。
彼は大人になったのか、彼女は子供のままなのか。
映画の中にすべてがある。


それにしても、ほんと、一般受け悪いよなぁ。相変わらず。ねえ?

投稿 : 2014/04/15
閲覧 : 302
サンキュー:

2

スカイクロラ - The Sky Crawlersのレビュー・感想/評価は、ユーザーの主観的なご意見・ご感想です。 あくまでも一つの参考としてご活用ください。 詳しくはこちら
スカイクロラ - The Sky Crawlersのレビュー・感想/評価に関する疑問点、ご質問などがございましたら こちらのフォーム よりお問い合わせください。

蓬(Yomogi)が他の作品に書いているレビューも読んでみよう

ページの先頭へ