蓬(Yomogi) さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
タイトルなし
さて、この物語の主人公は誰だったのか?
ジョゼのモノローグに始まりジョゼのラストシーンで終わる。
つまり基本的にジョゼ目線の物語だった。
少女の可憐さ、悲壮感を描くにはそれを観察する視点からが効果的だからだ。
しかし13話使って描かれた物語は「こんな境遇のこんな女の子達がいます」という単なる紹介だったのではないか?
最初と最後が同じシーンというループ構造がその証拠だろう。
つまり心理的、精神的な変化は無い。
雰囲気だけは満点、カタルシスが起きそうで最後の最後まで起きなかった。
少女のプロモーション映像としてなら最高レベル。
しかし物語としては伏線も謎もちりばめ、ジョゼ自身の問題も放置したままループ最終回は残念。
原作未完ものの宿命だが、全体のクオリティが高かっただけに惜しい。
できるならラストはヘンリエッタの死、そして新たな少女を連れて歩くジョゼ、とするだけで13話の価値が浮き彫りになるのだろうが。
しかし原作未完でそれは無理か…。
女の子はみんな可愛らしい。
キャストも素晴らしい。
絵も丁寧だし、特に音楽が良い。
エンディングは珠玉。本編に匹敵していると思った。
強いて難をあげるなら、全員ヨーロッパ人なのにほとんどのキャラクターが直毛なのはどうかと思う。
せっかくイタリアに徹底しているのだから、巻き毛!巻き毛!
<追記>
「ガンスリンガーガール」の提示したテーマが面白いと思ったので少し語る。
「少女に与えられたのは大きな銃と小さな幸せ」というのがこの作品のコピー。
少女達は洗脳で改造以前の記憶を消され、また軍事教官かつ直属の上司である担 当官を無条件で慕う正真正銘のヤンデレ。
ヨーロッパらしい穏やかで上品な雰囲気の中で、毎回極めて鬱なストーリー展開 だっった。
少女を愛らしく無垢に描くほど、殺人マシンに改造されそれ以外生きる道のない 少女の悲惨さが浮かび上がる仕掛けになっている。
洗脳されているので良心の呵責もなく担当官に褒めてもらうため健気に頑張るのだ。
最初は殺人の凄惨さと少女の無垢さのコントラストが売りなのかと思った。
しかし最終回までみて考え方を変えた。
この作品から感じたのは「現実に起こっている子供に対する暴力」だ。
それはヒロインの境遇である一家惨殺やスナッフムービー、親からの虐待などにとどまらない。
それは「大人が子供に殺人をそそのかしている」ということも含めてだ。
物語を見ていて物凄く悲しい気持ちになった。
「どうして周りの大人はこの女の子たちを無条件で愛してやらないのだろう。まだ小さい子供ではないか。どうして任務のご褒美としてしか愛してやらないのだろう」
大人のエゴや思想で愛情をエサに子供に手を汚させる。
子供は愛情が欲しくてたまらない。
それは洗脳のせい、という非現実の設定がなくとも同じことで、日々世界中で愛情欲しさに大人のエゴの手先に自らなってしまう子供がいるのである。
この物語で描かれたヒロインたちの幸福は「瀕死からの救済と生きる目的としての任務」。
そして不幸は「任務と引き換えの愛情が人生最高の幸福と思い込まされたこと」である。
彼女たちは洗脳の副作用で寿命が短い。
自分たちを救ってくれたのが聖人などではなくただの人間で、自分たちが戦っている敵も同じくただの人間なのだ、と気づく前に死んでしまう。
組織に飼い殺されて殺人の意味も実感できない、後悔も出来ない、死者を弔うこともできない。
この先の人生、というものが彼女たちには用意されていない。
子供を使い捨てる、その前提で成り立っている組織の話なのである。
この設定が自分にとって「リアル」と思えたのでどうしようもなく悲しい物語だとしか思えない。
「生まれてきてくれて嬉しい。生きていてくれるだけで嬉しい」
本来ならそういって子供を抱きしめてやればいい。
何かと引き換えに子供を愛そうとしてはだめなのだ。
愛情と引き換えに子供に何かを強要してはだめなのだ。
この作品はそんな言葉が虚しくなるような現実を思い出させる。