無毒蠍 さんの感想・評価
3.9
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
『過去』を経て『現在』を歩み『未来』へ至る。この作品は幹也と式を通して織が見ている夢の通い路なのかもしれない…
未来福音を観るのに本編も観なおそうと思い、
せっかくなのでDVDだったのをBD-BOXに買いなおしました。
うん、やっぱり綺麗な画質で観たいですしね。
空の境界本編で描かれなかった話や後日談を描いた補完作品。
時間軸的に第一章 俯瞰風景より少し前のお話かな?
未来が見える未来視という能力を持つ爆弾魔の顔を見たことにより、
命を狙われることになった式と、
同じく未来視を持つ少女に出会った幹也のお話が結構な割合を占めます。
幹也が出会った少女の名前は瀬尾静音。
望まぬ未来視を持ち苦悩する女の子です。
彼女は未来が見えるぶん他の人よりも一回多く苦しまなければいけないそうだ。
一度は悲しい未来が見えたとき…そして二度目はその未来が訪れたときです。
未来視にも種類があるらしく彼女はよく言えば「回避可能な未来」
悪く言えば「あやふやな未来」を見ることのできる未来予測タイプ。
悪く言えばと言いましたが未来とはそもそもあやふやなものだし、
そう考えると彼女の未来視は幹也の言う通り、
そんな特別なものではないのかもしれません。
未来予測とは起きうる未来の可能性を見るのです。
起きうる未来の可能性なんてものは、
ちょっと勘のいい人なら予測できてしまったりするしね。
例えば仲のいい人同士ならその人がどういう行動に出るのか、
なんとなくわかってしまうこともあるでしょう。
それも立派な未来予測だと思うんです。
それが勘だろうが未来視だろうが可能性の段階ならば、
悪い方向へいってしまわないように導いてあげればいいんですよね。
そういう意味では彼女は人より少しだけ勘のいい子というだけのことです。
未来視に苦悩する彼女は幹也と出会い、
あやふやな未来なら変えられる、というような助言をされ、
幹也の言葉を胸に刻み学院へ戻るのでした。
このとき静音は幹也に対し恋愛感情にも似たような想いを抱くが、
式の存在を知り失恋します…
その話を友人に話したらそれは恋じゃないと一蹴されてました(笑)
後に彼女は幹也の妹である鮮花と出会いルームメイトになる。
そしてこの物語のもう一人の未来視所持者。
彼の名前は倉密メルカ…本名は瓶倉光溜。
依頼を受けては未来視と爆弾を駆使して荒稼ぎしてた犯罪者ですが
式に顔を見られたことにより式を狙いはじめます。
未来が見えるがゆえにその未来へ至る過程を淡々となぞるだけの人生を過ごしている。
行動するときそこに倉密メルカの意思はなく、
言うなれば「未来に媚びた」という感じ。
彼の未来視は「決定された未来」を見る未来測定タイプだそうだ。
未来測定は可能性ある未来の選択肢を潰して未来を限定させてしまう消去法のようなものらしい。
静音の未来予測タイプの上位互換のようなもの。
静音は予測にすぎないがメルカは決定された未来なので回避不可能。
ただその未来を実現するには未来が実現する風景を直接見なければいけないらしく、
何もしないで未来のほうからやってきてくれるわけじゃないみたいです。
未来視で見た結末通りにシナリオを進めるが未来視で見た未来ごと
式に右目を斬られる、むちゃくちゃだ(笑)
式が言うにはメルカは見えすぎたらしい、
未来はあやふやだから無敵なんですと。
例えばメルカが静音と同じ「未来予測」だったら
式を殺せたのかもしれません。
しかし確定した未来、形ある未来ならば式は斬ってしまうのです。
もしくはもっと単純な話で式がメルカに殺されるなんて可能性の未来は
どこにも存在しなかったのかも…存在しない未来に至る道などありはしません。
このとき式はメルカの顔を確認しますが驚いた表情を見せます。
なんと倉密メルカは14歳の少年だったのです。
式が驚いたということは実は顔なんて見てなかったのかな?
まぁメルカに電話で言ったように
本当に倉密メルカという存在に興味がなかったのかもしれない。
成功する未来が見えるがゆえにその未来しか選べないでいた哀れな少年の物語。
これらの出来事も式や幹也が歩んできた日常の一コマにすぎません。
でも未来というのはそういった過去や現在の積み重ねなんだと思います。
空の境界本編から始まり1998年、1999年と色々なことを経験し舞台は2010年…
そこに一人の青年がいます…彼の名前は瓶倉光溜。
かつて爆弾魔として世間を騒がせてた人物です。
式に右目を斬られ視力と未来視の能力を失いましたが
いまの彼には未来視では見えなかったものが見えてるように感じました。
(かつて私の世界は二つあった。左の視界は現在を。右の視界は結末を。
私は私の目的を望むことで一切の希望を見失う。私が見る未来は決して覆ることはない。
未来を築くようで…その実、未来に奉仕するだけの低俗な神の劣化品だったのだ。
それらはすべて妄想の類であれば…私も少しはマシな人間になれただろうに…)
これは未来福音の一番最初のセリフです、この語りを切欠に物語は始まるのですが
セリフ的に未来視を失った後のメルカの想いが語られてるようですね。
今のメルカは左の目で現在をしっかり見据えて生きてるからいい男に成長したのかも!
絵本作家と興信所の二足の草鞋で頑張ってるメルカさん。
そんな彼の絵本が好きでメルカを慕う少女。
彼女の名前は『両儀未那』
未那の存在こそがこの作品が「未来福音」である所以といっても過言じゃないですよね。
語る必要もないですが式と幹也のお嬢さんです。
ただ後日談で登場するのは式と未那のみで幹也は登場しません。
未那は年相応の可愛らしさと年不相応な大人びた発言をしたりします、
末恐ろしいというかメルカくんは完全に手綱をにぎられてる印象(笑)
式を倒して幹也を奪うことが目的らしく式は母であると同時に恋敵みたい。
この作品で表面的に語られる未来視所持者は静音とメルカの二人ですが
実はもう一人登場します、観布子の母と呼ばれてる老婆で占い師。
静音やメルカよりも優れた未来視所持者?らしく的中率100%。
織が自分が消えれば式は幸せになれる…そう想いを馳せてた1996年1月の出来事。
死ぬのは怖くない…怖いのはもっと別の何か…昼休みの青空とか…放課後の夕焼けとか…
それらは即ち幹也と過ごした時間をあらわしてるんですよね。
この時の織の心情を考えると本当に切ない…
そんな織が観布子の母と出会い未来を見てもらうのですが
彼女から織の未来は回避できないと言われます、
何をやってもどうやっても織は死ぬ…織には未来そのものがないと。
「あなたはもうじき消える。道行は真っ暗で未来はどうしようもない。
残るものはないし、救われることもない…
なのに不思議ね、それでも…あなたの夢は生き続けるわ」
「それでも私の夢は生き続けるのか…そうか、それなら…いい」
「しっかし、お先真っ暗ってのも、オレらしい話だよなぁ」
このシーンは物語ラストのやりとりですが非常に印象に残ってるシーンで
個人的に「未来福音」で一番好きなシーンです。
観布子の母の言葉があったからこそ、
織は安心して消えることができたんじゃないかな。
こういった誰にも語られることのない物語の背景みたいなのは泣けますね。
織が老婆と出会う前とは別人のような清々しい表情をしてるのも印象的で
心弾ませ鼻歌うたいながらスキップのような歩みで
帰っていく織が可愛くもあり切ないです。
そしてお先真っ暗と言いつつも最後エピローグで朝日が昇り、
その朝日を見た後に笑みを浮かべ、
朝日とは逆の方向に歩んでいく終わり方も良かったです。
織の語られることのない想いのようなものが伝わってきて
本編の補完という意味では一番補完してほしい部分を描いてくれたんじゃないでしょうか。
残るものなど何もないのにそれでも織の夢だけは生き続ける…
『空の境界』とは織が見る夢の通い路なのかもしれません。
そして同時上映された『未来福音-extra chorus-』が
もう一枚のディスクに収録されてます。
約30分ほどで三つの短編を楽しむことが出来ます。
幹也が式に黒猫の世話をお願いするお話。
一章で登場した巫条霧絵。
彼女に墜落死させられた少女と友人だった
宮月理々栖と三章で能力を使い連続殺人を起こした浅上藤乃のお話。
式と幹也が初詣に行くお話。
上記の三つが収録されてました。
浅上藤乃の話が少しシリアスなだけで基本的に
何気ない日常を描写しており激動の日々続きだった
本編、未来福音を考えると貴重な映像だと思います。
浅上藤乃は視力を失ったけど能力は健在だったのね…
ちょっとぶるっちまったぜ。
異常な日々があるからこそ何気ない日常が映えるし、
とても安らかな気持ちになれるんだと思います。
『祈りは未来への福音であふれている』
人の祈りが積み重なり未来をつくっていくのだとしたら、
式と幹也の未来は織の祈りによってあたえられたものなのかもしれないね。
【A82点】