蓬(Yomogi) さんの感想・評価
3.9
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 3.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
タイトルなし
リアルタイム視聴数自体が多くないが、今期視聴作品ではナンバーワン。
等身大ラブストーリーの秀作。
もともとギャルゲー原案なので期待薄、しかしオリジナルシナリオらしいのでとりあえずチェック。
3話くらいまでは見所薄くだるい展開だったけど、回が進むにつれてシナリオ、演出ともに加速度的に面白さを増していった。
作画も崩れるようなところがなく安定、特にキャラクタのアップなどは丁寧で説得力のある絵が描けていた。
キャラクタデザインがちょっと尖った感じで、このキャラクタに感情的な演技をさせるのは難しそうだと思っていたが、なんの、昨今まれに見る演技派アニメだったと思う。
舞台が富山ということで富山の街の景色が丁寧に描かれていてリアリティも十分、また季節が冬なので雪の山や冬の海といった自然も美しかった。
お祭りとか酒蔵とかも良い。
しかし一番すごいなあと思ったのは演出。
少年少女たちの微妙に揺れ動く感情を表現するための工夫が素晴らしい。
止め絵やアップが頻出するがそれがとても効果的。
瞳のみのアップ、口元のみのアップ、真正面からのアップ。
アップを自由自在に使いこなし、またハーモニー処理(キャラクタを含む背景の一枚絵)も頻発。
ハーモニーは使いすぎると古くさくなるが、全くそんなことはなく、むしろ画面をキュッと引き締め、物語を盛り上げるのにこれ以上の物はないと思わせる。
特に12話祭りの踊りのシーンでの連続ハーモニー処理は鳥肌が立った。
またカット毎の人物の配置に付いてもそのキャラクタの関係性や心情を暗示するようなものが多く、深読みのしがいがある。
ストーリーについてはまさにメロドラマ。
一部疑問符がついた部分もあるけど、それを補うだけの説得力がある。
ヒロイン比呂美の「女の打算的な部分」をきちんと描写しているのは好感度をもった。
またもう一人のヒロイン乃絵は空気読めない電波系だったのが物語を通して変化していく。
最初「不思議ちゃんヒロインはギャルゲーでは人気あるからなあ」程度にしか考えいていなかったが、予想を大きく裏切ってくれた。
また主人公慎一郎がヒロインを振るシーンが大変良かった。
男性向けアニメでは仕方ないが、サブヒロインを無難に穏やかに振っていく主人公ははっきりいって最低の男だと思う。(十代では特に!)
相手を傷つける覚悟がない奴は恋愛なんかするな。
ぐしゃぐしゃに泣きながら乃絵を見送る慎一郎は格好良かった。
一部アニメがキャラクタ属性とイベントの発生、消化にのみ固執しているように感じられる中で、キャラクタの成長を地味に丁寧に追ったこの作品は、見てよかったと思った。
この作品を見て一つ気がついたことがある。
それは自分が嘘つきの人間を「リアル」であると感じているということ。
乃絵以外はずっと嘘をつきっぱなしのこの作品。
本当のことを隠す、嘘をつく、自分の想いを不器用にしか表現しない若者たちのドラマがリアリティある面白さだと感じた。
<追記>
今考えると岡田さんの快進撃はここからでしたね。