蓬(Yomogi) さんの感想・評価
3.6
物語 : 4.5
作画 : 3.5
声優 : 3.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
タイトルなし
実はGONZO作品で最後まで見たのはこれが初めて。
噂に違わない面白さだった。
まずこの作品の最大の見所であるグラフィックについて。
一番最初に「巌窟王」の版権絵を見たのは雑誌の裏表紙だったと思うが、あのデコラティブな衣装は版権用の装飾だと思っていた。
しかし実際の映像でもあの衣装で動いているのを見たとき「凄いものがでてきた」と思った。
今ではよく見かけるようになったが、作画部分にテクスチャを貼付けたのはこの作品が初めて。
貴族の登場人物たちの衣装を煌びやかに彩る、数々のテキスタイルは斬新そのもの。
最初は眼がチカチカすると思われたが、慣れれば物語に必要な装飾だと感じるようになった。
服はおろか髪の毛にもテクスチャ貼りがしてあるので、時々人物の顔面が浮き上がっているように感じたのが玉に瑕。
また張り込みを前提としているキャラクターデザインなので、物語の重厚さに比べて表情が淡白すぎたように感じる。
背景についてはゴンゾさんらいしいCGのきっちりした創り込み。
屋外の設定はもう少し味が欲しいところだが、今回の主な舞台であった室内については絢爛豪華な雰囲気が素晴らしかった。
特に伯爵の黄金屋敷の美術は一見の価値あり。
CGならではの彩度バリバリ、輝度ギラギラの設定は人物が画面に沈み込むほど。
ゴンゾと言えばCGがお家芸だけれど、確かにその独創的な使い方は面白い。
ただ最近のトレンドからすると2Dと3Dの融合が上手くいっている方ではないと思う。
他のゴンゾ作品でも感じた事だが、3Dのなじませや動きの自然さでは他のCG専門スタジオの方が今は上手い。
前田監督というと自分はジブリ、ガイナックスの原画マンとうイメージが強いので、作画にも期待したのだけれど、これは期待はずれ。
上手い回はは異常に上手くて下手な回は普通に下手だった。
この波をなんとかして欲しい。テクスチャで目立たないけど。
演出・脚本については実は結構王道だった。
画がケレン味に溢れているので惑わされそうになるが、エンターテインメントとして筋を通してきた感じ。
画を見せるとことは見せる、筋に引き込む所は引き込む、と作り手が自覚しているのだと思う。
原作が古典小説なので主題は普遍性がある人間ドラマで、その人間の描写は昨今まれに見る掘り下げ方。
主人公アルベール15歳を中心に親世代からの因縁に巻き込まれる群像劇。
彼の視点を通す事で視聴者も次々と展開するドラマに翻弄される様が味わえる。
複数の人間の思惑が絡み合う筋立ては、アニメの脚本というより演劇に近い感じ。
特に後半から終局に向けての怒濤の転がり方は毎回緊張させられた。
真の主人公である伯爵の復讐劇と言えば簡単なプロットなのだが、人がダークサイドに落ちる説得力、またその顛末として素晴らしい物語だった。
さてさて、そんなゴンゾさん。
2期連続の赤字を受けて大幅な縮小を余儀なくされる模様。
製作本数年間8本を4本にして「確実に投資回収が見込める作品に厳選」とのこと。
……それが分かりゃあ誰も苦労しないっつーの。
<追記>
2008年の感想です。
その後、上場廃止にまで追い込まれてしまいました。