蓬(Yomogi) さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
タイトルなし
本当はもうあと1話欲しい。
だが今期ベストの一つで素晴らしく面白かった。
正直にいうと、画の凄さというのは見てすぐに分かったのだが、物語はいまいち良くわからなかった。
極端に説明不足だし、自分は新造人間の方も見ていない。
なので最初の方は雰囲気アニメかもしれないと疑っていた。
しかし自分は7話を見て認識を改めた。
この回のゲストキャラが抜群に魅力的だったのだ。
以降のキャラクタの造形やストーリー展開も徐々に加速度を帯びてきて、後半に入るころにはどっぷり作品世界に浸かっていた。
まず作画が今期で一番デザイン性が高く色気があった。
OPによく現れているのだが、単に止まっている立ちの絵でも見蕩れるほど上手い。
キャラデザ自体が線そのものの色っぽさを生かす単純さで、直線と曲線のメリハリが美しく映えている。
また多くのシーンでにじみを効かせているので厚みを感じる線に仕上がっており、一層雰囲気が醸し出されている。
瞳や鼻などのパーツからポージングまで流行ではなく、独自の美意識で描かれているので新鮮かつ面白い。(そしてもちろん美しい!)
またアクションシーンもキャラの輪郭が映えるような設計で、スピード感と決め絵の組み合わせが絶妙だった。
説明的な台詞や芝居が全くないので、この作品のかなりの部分を画面の力に頼っていたと思う。
美術についてもキャラに負けず劣らず素晴らしかった。
重量感があるのに幻想的な質感と、妖しいシーンでのサイケな色使い。
独特の世界観がしっかり構築されていた。
特に滲んで滴る翠、蒼、紅の艶かしい彩色は作品世界にベストマッチしたインパクトがある。
これが美術監督の李凡善さんの個性なのだろうか。
色の話で言えば、シーンごとに色彩ががらりと変わるのも面白い。
まるで二色のスポットライトで照らされたステージのように、影色が全く別の色相で描かれる事もあり、常に画に緊張感が漂っている。
色彩でシーンに意味をつける事も多かった。
やはり、一枚一枚の画まで神経が行き届いた作品という印象が非常に強い。
演出的な事を言えば、どの回でも切れ味が良い。
音楽が重厚な分、比較的静かなシーンの連続で押さえに押さえた演出が目立った。
特に山内監督の回は間をたっぷりとりつつ緊張感を途切れさせないものが多く、ここぞというシーンは無音楽無台詞ということも。
人によっては眠くなるくらい退屈と取られそうだけれど、この作品の人間関係や世界観を飲み込むとその演出意図の密度の濃さが際立ってくる。
またアップが非常に多いのもこの作品の特徴。
しかも左右の目の半分が上のフーレームにかかるくらいで切り上げた少しあおり気味のカットが頻出する。
それ以外でもフレームからキャラの一部がはみ出るようなレイアウトが多く、そのアンバランスさが絶妙なデザイン。
これは相当画に自信がないと出来ない芸当だなあ、と感心してしまった。
しかしそれをやりきった本作、その鬼気迫る表現にゾワゾワさせられた。
最後に物語について。
説明はほとんどない。あるのは断片的な台詞だけ。
この作品を語るのに予定な台詞は必要ない。
観念的な台詞が装飾ではなく、きちんと機能していた希有な作品だろう。
滅びからの救いを求めるロボット、不死のキャシャーン。
生きる実感を戦いに求めたディオ、新しい生命を渇望したレダ、滅びを嫌悪したルナ、滅びを受け入れたリューズ。
そして生きる事と死ぬ事を授けられたリンゴ。
登場人物全員が己なりに「生きること」を必死で模索していく。
その姿勢が哀れだったり、無様だったり、壊れていたり、悟っていたり、様々な感情が交錯しているけれども、どれも強い意思のもとで生命の輝きを放っていたと思う。
ロボットという設定の上に成り立つ生死観の結末は、ひどく静かで穏やかで当たり前の事実をリンゴに語らせた。
生きる事と死ぬ事は共にあるもの。
限りある命だからこそ目一杯生きていくのだと。
最終回でなぜ主人公がキャシャーンとされているかが良くわかった。
贖罪の旅路の果ては、死に行くもの、生き続けるもの、その両方を見守る永遠の命の役目。
やがてロボット全てが生命をもった暁には、彼は神話になるのだろう。
そんな解釈でいいのではないだろうか。
この重いテーマを語るために本気の絵が必要だったのかと今更ながら思う。
とにかく2クールかけた甲斐がある、腰の据わった良作だった。
感謝!!