蓬(Yomogi) さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
タイトルなし
結論から言うと、面白かった。
まず絵の話から。
リアル系が得意なイメージがあるIGだが、今回は羽海野チカのキャラに合わせてデフォルメの効いた愛らしい絵だった。
目が洞窟になったり、糸くずモザイクをかけたり遊び心がある。
動きもテキパキとしていたので大変気持ちよかった。
背景についてはリアル系ではあるものの、今までにはなかったモザイク調のペインティング。
しっかりとロケハンをしているのでリアル感が満点で、作品と視聴者の距離を縮めている。
これは現在の東京を描いた作品なので、リアリティを支える美術は本当に気を使っていたと思う。
CGについて。
IGの群衆(モブ)シーンはちょっと前からCG(トゥーンレンダリング)が使用されているのだが、今回は裸の人間を大量に動かしていたのが印象に残った。
「戦国BASARA」では馬、「獣の奏者エリン」ではトカゲとか、動かしまくりで有機物でも違和感なく動かせるのは凄い技術。
ただし動かしすぎると「ノートルダムの鐘」みたいで気持ち悪くなるので加減が必要なのだろう。
演出について。
奇抜なものがなくて安心してみられたというのが正直なところ。
女の子が主人公だからか、比較的綺麗な場面が多かったように感じる。
夜や夕方のシーンでの光の扱い方も画面がケバケバしくならず、むしろノスタルジックに感じるくらい。
キャラクタの魅力が十分だったので、人を中心に置き、しっかりと見せる正統派な印象を持った。
さて、一番感想が難しいのが脚本。
正直、最終回まで見終わった直後の感想は
「え~~~~~~~~~~~」
という感じ。
視聴者の大多数が納得のいく最終回ではなかったと思う。
まず第1、2話は日記に書いた通り、ミステリィの雰囲気漂う謎が謎を呼ぶ展開で非常に興味を引きつける。
オリジナルアニメの強みで先の読めない展開で考察欲を刺激する。
しかしストーリーはミステリィの要素をちりばめつつ、進むごとに社会批判の要素が濃くなっていくのだ。
最終回ではミサイルを若者の力で迎撃して大団円っぽい終幕。
最初と最後がつながっていない展開にテレビの前で置いてけぼり。
神山監督の作品でポカーンとしたのは初めてだ。
作品が早い段階で既得権益を享受する大人世代への強い批判が含まれている事は感じていた。
それは神山監督の出世作、攻殻機動隊SACが厚生省のスキャンダルを主軸に「笑い男」なる代弁者に社会批判をさせたのと同じ構造を持っている。
TVアニメというエンターテインメントを媒体に、リアルタイムで存在している社会や組織、ひいては国の体制に対して物申すのは凄い。
個人の創作物ではなく、スポンサーと放送局を背負って大量の資金と人材を投入して作られる商業アニメには、そんなところにまで踏み込む必要性なんて全然ないし、誰も望んでいないからだ。
誰がどんな魔法を使ったのかは知らないが、この作品は作り手の意思が画面から強烈に溢れ出て、
『俺らはこういう事が言いたいんだよ!!!』
というのがはっきりと感じられる、そういう近年まれに見る怪作だと思った。
……というのも氷川竜介さんのブログで「東のエデン」が既得権益を描いている、との指摘をうけて「ああ、その通りだな」とおもったから。
神山監督のインタビューなど読んでいても大人社会への批判というか、思春期の少年のような反抗的な態度、とうのは失礼なんだけど、まあ、年配者より若者に優しい、そんな感じを受ける。
そういう斜めの視線というのはクリエイタには絶対必要なもので、かくいう自分も「大人はみんな嘘つきや!」なんて言いたい少年Hみたいなもんです。
神山監督はアニメの社会性というものを常に念頭においているそうなので、この作品のリアリティがリアル(現実)に少しでも影響を与えたい、と思っているだろう。
「ニート(社会的弱者である若者)よ!皆で立ち上がれ!」といった単純な捉え方でもいいし、そうでなくてもいい。
社会性を持たせる事で、現アニメ全体に立ちこめる”箱庭”的な空気も同時に吹き飛ばそうとしたのか。
そうだったら、自分は非常に嬉しいのだが。
さて、その社会批判の善し悪しは劇場版を見るまで保留にするしかない。
個人的には20歳前後のかなり若者向けのメッセージだと思うし、独自の理論を展開していたので興味深い。
この作品がありきたりの結末ではなかった事には安心したが、劇場版までは何とも言えないのも事実。
楽しみが増えたと思って神妙に待ちましょう。
(蛇足だが、既得権益やら大人の社会を強烈に批判した世代、というのは既に60年代に存在したもので、その急先鋒だった”彼ら”こそ、現日本の既得権益構造にどっぷりと根を下ろしているのは皮肉だ)
さてさて、個人的には正統派ミステリィの構造を望んでいてだけに、口惜しい最終回だった。
なんで!どうして!あんなに面白そうな謎がちりばめられていたのに……!
滝沢くんはなんで全裸だったの?
なんでワシントンの時計がずれていたの?
ジュイスってタチコマの原型なの?
ジョニークリーチャーって結局何?
と、数えれば切りがないほどの謎の山が完全放置。
これじゃあ、お客が怒っても無理はない。
コンテナで人間なんか輸出したら赤道付近で全員死んじゃうし、豊洲の中庭に2万人も人入らないし、ていうかドバイにいたときもずっと全裸だったの?
うーん、真面目に考えちゃいけないのだろうか。
あれほど出てきた映画と9.11に関する話もストーリーには無関係だったし。
劇場版でリベンジして欲しいなあ……。