蓬(Yomogi) さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
タイトルなし
さて、近年稀に見るほどに評判がいいのと、氷川竜介さんのブログでDVDにならないかもしれないとのことだったので「マイマイ新子と千年の魔法」を渋谷に見に行ってきた。
途中までは「評判になるほどの引き込みは無いなあ」と思っていた。
これが片淵須直監督=ジブリ出身との触れ込みを期待していたら多分がっかりして劇場を出ることになる。
この映画は宮崎駿映画の爽快感とは無縁。
普通なら都会から来た転校生が田舎になじんでハッピーエンドでおわる。
でもこの映画はトトロじゃない。
現実の不条理を子供の奇跡で飛び越えるのが宮崎監督の映画だとしたら、片淵監督は子供の希望を大人の事情が押し流して、それでもなお悲観しない子供たちの無限の可能性を示す映画作りだと感じる。
ひねた大人にこそこの映画は見て欲しい。
現実は絵空事ではないけれど、現実に打ちひしがれているヒマがあるなら顔を上げて前を見て歩き出す方がずっと素晴らしいことだと思う。
これは子供が大人の世界の事情というのをどう受け止め、現実を捉えているかが描かれた優れた児童映画だ。
そして最も凄いのは「子供時代は無垢でよかった」と思わせない所である。
この子供時代があるからこそ、大人になったときの現実もきちんと乗り越えられていけるのだ、思わせる肯定的な視点で描かれているのだ。
こういったテーマを現実線上に乗せた上で作品として昇華させるのは高畑勲監督しか今の所思い浮かばない。
現在ではとても珍しいタイプのアニメ作家だ。
片淵監督の劇場処女作「アリーテ姫」も児童映画の皮をかぶった女性のアイデンティティクライシスを描いた作品だったと思う。
リアリティというのを「本物っぽい出来事」ではなく「現実に感じうる感情」という意味で解釈した作風は現在では全く流行らない。
だからこそ、その感覚を持った作家性を多くの人に知ってもらいたいとも思う。
全編を通しての音楽、エンディングの曲も大変素晴らしかった。
子供の世界は誰もが一度は経験している世界。
あのころ、自分たちが何をどう感じ日々を過ごしていたのか。
そんなことをふいに思い出させられる、そんな映画。
明日が見えなくなった時、昔の自分を思い出せなくなった時、何度でもみたい映画かもしれない。