蓬(Yomogi) さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
タイトルなし
ライトノベル青春ストーリーの王道。
自分はどうしようもなく「ブギーポップは笑わない」を思い出してしまって切なくなってしまった。
こういった物語が十代に支持されているのは、正直ホッとした。
絵はブレインズベースの安定した良作画。
原作のサッパリ系のイラストは自分の好みであるし、キャラデザの岸田隆宏、作画監督の山田起生、高田晃のトリオはいつも通り素晴らしい仕事を披露してくれた。
背景は池袋を忠実に再現していて、だいたいの場所が分かるので面白い。
夜の街の描写が多く、夜景や街灯の光が美しい。
ロケハンをしっかり行った成果だろう。
2クールかけて入り組んだストーリーを巧妙に展開して行ったことに感心した。
最初は話の核が見えなくて、面白みがなかなか見つけられなかったが、だんだんとキャラクタの個性、また人間関係に引き込まれた。
物語はお互いがお互いを思う気持ち、「恋心」がベースにある。
それに卑しさが少しも混じっていない所が青春小説らしさの所以である。
まっすぐで繊細で純粋な少年少女が駆け引きをする様が、この年になると切なさなしには見れない。
確かに高校生のころはこれくらい周りの人間に対して純粋な気持ちを抱けたなあ、としみじみ思い出してしまった。
青春の痛々しさをファンタジーに包んだ物語として、非常に電撃文庫らしい物語だったと思う。
自分はもう年なので、正臣の行動など、いろいろ言いたいことはあるが、まあファンタジーということで。
設定がファンタジーであるので突っ込みは野暮だとは思うが、やはり池袋という舞台を選んだわりにはあまり効果的な使い方ではなかった。
街の魅力を描くためにはその街にある施設(神社仏閣、山や川、歴史的建築物)を出すのが一番だ。
しかし池袋はほとんどが商業施設なので実名では出せないし、高校生がメインの話なのでお金を払わないと使用できない施設をバンバン出す訳にも行かなかったのだろう。
小説で池袋の街がどのように描写されているのかは知らないが、池袋である必要性は全くなかったと思う。
池袋というと、とりあえずジュンク堂、東急ハンズ、サンシャイン、新文芸座。
その次に立教大学、イルムス、ミルキーウェイ、服部珈琲舎。
最後にビックスタッフの本社と良品計画の本社が自分は連想されるのである。
要は自分が思う池袋が、この作品にはほとんど出てこなかったのだ。
他の人は池袋で何を連想するのか興味がある所だ。
また東急ハンズの前で刃物を振り回す描写は、色々考えたがあまりよろしくないと思う。
なぜよろしくないのか分からない人には関係ないことだが、分かる人にはやはり気持ちのいいものではない。
シャレにならん、と感じてしまった。
しかし、この一つの事件を複数の視点から語る作法、少し不思議なファンタジー要素、アンダーグラウンドの香り漂うエキセントリックな登場人物という構成は、明らかにブギーポップだと思う。
こういうのが未だに流行るのかあ。安心安心。
蛇足。カラーギャングって懐かしすぎて笑った。
自分ととこは赤ギャンの勢力圏でした。
<追記>
なんでこの物語が痛々しいのか、切ないのか、しばらく考えていてわかった。
これに出てくる恋心の正体が、自己愛を確認するための鏡の役目を相手に押し付けているからだろう。
正臣と沙樹も、誠二と美香も、杏里も帝人も波江も臨也も。
恋しい相手を通して、自分を愛そうとしている。
そういうのって、若さだよなあ……。
よく考えると切ないわあ。