退会済のユーザー さんの感想・評価
4.0
物語 : 5.0
作画 : 3.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
タイトルなし
薄ら寒いギャグでヒーローという題材をメタ的に描いた作品かと思いきや、その実【自分の望まないモノにもきちんと向き合え】という至極真面目なメッセージを一切妥協せずガチで語ってるドストレートな作品。
マサヨシの、ヒーローであろうとする動機の根源にあるのは【自分以外の何者かになりたい】という願望だ。
だからマスクをつけ、スーツを着て、羽佐間正義ではなく「サムライフラメンコ」と名乗る。煙草のポイ捨て、ゴミの不法投棄、酔っぱらいの仲裁。そんなものはヒーローじゃなくても出来る。羽佐間正義として行えばいい話。
なのにそうしないのは、ヒーローへの憧れ以上に、自分に自信がないからだろう。だから彼は、ヒーローとしての日常を望んだのだ。
それは、怪人の出現、ビヨンドの侵攻、宇宙人との戦いと、かつてアニメや特撮で夢見たヒーローとしての活動が、全てマサヨシが望んだから起こったことだったという説明からも想像がつく。
そして事実、彼はヒーローとしての活動が少なくなると、胸のうちに現状への不満を抱えていた。雑誌モデルの羽佐間正義として現実で着実に成功しているにも関わらずだ。
7話からの超展開に僕ら視聴者がついていけないのは当然だ。なにせこれら一連のお話はマサヨシという個人の妄想の延長でしかないのだもの。他人の妄想を覗いて楽しいワケないじゃん。
その事実をつきつけられ、彼はなにもない、ヒーローの必要のない現実へと還る。
そこで待ち受けるのは、彼が望んだ、倒せばいいだけだった単純な悪でも怪人でもない、自分の望まない、自分で立ち向かわなければならない人間という名の現実。
ハイジという少年は殴って倒したって意味がなく、後藤に至っては敵ですらない。だけどどちらも、マサヨシが向き合わなければならない相手なのだ。とくに後藤なんかは、ヒーローへの強すぎる憧れという異常性を初めて受け入れてくれた相手なのだから。
このどちらにも、ヒーロー【サムライフラメンコ】はあまりに無力である。
この二人に対して、マサヨシが羽佐間正義としてとった行動こそ、本作が描きたかったものなのだろう。(この対峙の前に、フラメンコ星人戦で「結局は暴力でしか解決できないのかよ!」とブーメラン発言をマサヨシにさせているのがミソ。これ言わせてからのハイジや後藤への行動に繋がるのは熱い)
文字通り丸裸になって愛をもってぶつかる。しかもありったけの想いで口から出たのが「結婚しましょう!」だぜ? こんなセリフ、マサヨシにしか言えないよなぁ。
ここまでされて心動かされないヤツなんているもんか。
マサヨシが大人になった一方で、対照的だったのがマリ。
アニメっぽいキャラデザと残念な演出のせいでそうは思えないけど、この子の物語は、かなりハード。たかだか十代の少女が立ち向かうにはあまりも厳しい現実だ。
自分は特別なヒーローなんだ、という理想はバッキバキに壊されただけでなく、隠していた本当の自分がいかに矮小で醜いかを突きつけられ、挙句残された選択肢はそんな自分を受け入れることだけ。何故ならそんな一面を含めた自分を愛してくれる誰かがいるから。
だから彼女は、誰かから愛されるアイドルとしてのし上がっていく。そんな彼女が、後藤という存在を受け入れられるはずがない。
しかし、仕方がない。彼女はまだ子どもであり、大人ではないのだから。愛することの難しさをマリを通して描くと同時に、マサヨシの行動を際立たせているんだよなぁ。
そう、本作はキャッチコピーである【大人になりたくない大人たちへ】を実に丁寧に、真剣に描いた作品なんだ。
マサヨシと後藤の姿は、まさに大人になりたくない大人であり、そんな二人の物語がテーマであり、メッセージだ。
マサヨシ、後藤という大人、そしてマリ、ハイジという子どもの双方を描くことで、このキャッチコピーとその答えを見事に描き切った。
そんな彼ら彼女らのエピローグは、実に素敵なものだった。
かつて自身が語ったように「君達のことをどうでもいいと思わない大人」として、ハイジに付き合うマサヨシ。そんな彼に倣うように、面会に向かう両親の姿。
後藤はケータイを買い替え、相も変わらずメールを打つけど、マサヨシの指摘に「旅先から送ってきてるんだよ」なんて軽口を叩く余裕をみせて、そんな彼にボクを頼ってよと言わんばかりに「冷たい!」
そしてマサヨシもまた、変わらず正義を行う。ただしもう、マスクもスーツも着用せず、サムライフラメンコのイニシャルが入ったシャツ一枚で。
短い尺の中で、全てに決着というか結末がきちんと描かれている。何気に完成度高くないか?
地味に、序盤に描かれて以来、多くの視聴者が期待したであろう「目に見えない悪にどう立ち向かえばいいんだ?」というテーマに対する答えもちゃんと描かれてるんだもの。
終わってみれば、荒唐無稽な超展開の連続だったにも関わらず、描こうとしたもの、結果描けたものになんのブレもない。とてつもない力技で魅せつけてくれた。天晴れだよ、サムメンコ!
この作品が僕に刺さったのは、間違いなく僕が本作のターゲットである【大人になりたくない大人】だからなのだろう。
だから多分、この作品を好意的に捉える人はピンポイントだと思うし、お勧めもしない。
でも僕は自信をもってこの作品を「面白かった!」と言ってやる。
フィクションとリアルが同居した、絶妙なバランス感覚の作品だった。