みかみ(みみかき) さんの感想・評価
3.6
物語 : 4.0
作画 : 3.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
感化されて、シルク・ド・ソレイユ観てきました
オープニングで、主人公が「さあ、みんな、カレイドスターがはじまるよー!」という呼びかけをしているあたりの、なにかが、はじまる、というわくわくとした期待感をうまく演出する、エンターテイメントの仕掛けとしては感動的だとすら思う。
■全体の感想:良いスポ根
全体をとおしての、おおざっぱな感想は、よくできた少女向けスポ根アニメだな、ということ。
おおむね面白く見られた。本編のシナリオは、深いどうこうというよりは、シナリオ技巧的に巧なものは感じるし、全体に安心感もある。特に感動したりするということはなかったが、子供にみせるアニメとしては不安感が少ない。
■シルク・ド・ソレイユ観てきました。感想は「ホンモノの すごい 実物」
それと、観終わったあと、実際のカレイドスターはどんなものかと思って、シルク・ド・ソレイユに一度いってみたいな、という気になり、昨日、ディズニーランドまで行って実際のシルク・ド・ソレイユを観てた。
これが、本当に感動的だった。
カレイドスターを観たあとだったから、余計にいろいろなことを感じることができたのだと思うのだけれども、まず、ブランコ、ジャグリング、トランポリンなどそれぞれの演技者たちのレベルがアニメ顔負けに高度。それに何よりも、ショーとして、とてもとてもよく考えられていて、そこに込められた努力や知性や創意工夫の束を感じて、あまりにもすごくて開始5分して、泣き出してしまった。
たとえば、カレイドスターの第二話でそらが「どうやって、ショーの合間にお客さんを、たった一人でうまく楽しませることができるだろうか?」という課題を抱えて、悩む。
現実のシルク・ド・ソレイユでは、この問題がとても見事な形で解決されていた。
それは「スポットライト」だ。暗い会場でスポットライトを用いることで、客の注目は一挙にピエロへと集まる。スポットライトがある、というだけで客席をうろつきまわるピエロの行動は、もうすでに舞台上に近い魅力を帯びていた。
ショーがはじまるまでの仕掛けもすごい。ショーがはじまる前には、会場全体に幻想的な布がかかっているのだが、開始と同時に会場全体を覆っている布が、予想外の形でとりはずされる。その演出たるや、サーカスでなければ決してできない方法だし、この見せ方はどんな映画でもかなわない。
それだけでなく、他にもショーをうまくゆかせるための、無数の超一流クラスの努力が豪勢になされていて、それが矢継ぎ早にくりひろげられ、開始数分、歌姫が出てきた頃には、わたしはすっかり泣いてしまっていた。
シルク・ド・ソレイユは、たった二時間であまりに濃厚な時間を与えてくれた。これを見るきっかけと、シルク・ド・ソレイユを味わうための準備をわたしにさせてくれたカレイドスター制作陣には本当に感謝の意を述べたいと思う。
■なぜ、スポ根になるのか?ー身体感覚の再構築
少女が主人公で、ターゲットも少女向け、という点では『ガラスの仮面』を思い出す。ただし、ガラスの仮面とちがい、こちらは主人公がきわめて快活。ガラスの仮面の変種ということでいえば『昴』も思い出すが、『カレイドスター』は、とにかく子供が楽しめるためのアニメとして非常によくつくってある。
ただ、実際にシルク・ド・ソレイユを見ると、カレイドスターがスポ根になる理由もわかる気がした。シルク・ド・ソレイユの演者たちは、実際ほとんどの人が身体感覚の作り変えをやっているとしか思えない。「わたしの身体」と「布」が一緒のものと感じられるように。「棒」と「わたしの身体」が一緒のものと感じられるように。まるで自分の手足のようにして、布や棒や紐を使っていく。
おそらく、実際に「あなたは、人間じゃない!あなたは布なのよ!」とか、そういうタイプの訓練をやっていてもおかしくないだろう、という気がした。ほんとうに、彼/彼女らはそういう動きをする。
■スポ根と挫折
また、OVAのほうでは、「がむしゃら」なスポ根メソッドの努力に対する自己批判のようなことををやっているあたりも、製作者のバランスの良さのようなものも感じさせる。
OVAに限らず、実は全体的にも、スポ根世界観をベースにすえつつも、スポ根世界観では解決しえない問題みたいなところに拘泥するプロセスを描く話でもある。しかしながら、悩んだ結果、スポ根的解決(がむしゃらにがんばる!)というところに落とし込まれて最終的には解決するわけだが、スポ根的解決にたどりつく前の悩むプロセスや、挫折の様子がどの程度、丁寧にかかれているか、がスポ根の面白さを決める重要な部分かもしれないな、と見ながらしみじみ思った。
スポ根で最終的には解決するんだけれども、けっこう何度も挫折するんだよね、この子。けっこう、この挫折の表現は好きよ。
そこらへんは、曽田正人作品(昴、シャカリキ!、Capeta)なんかとも方法論的には共通するのだけれども、「悩みや挫折」と「がむしゃら」のバランスをどのように描写しうるか、が近年のスポ根描写のむずかしさなんだろうか。梶原一騎(巨人の星)とか、改めて読み直してみようかな。