おなべ さんの感想・評価
3.0
物語 : 2.5
作画 : 3.5
声優 : 3.0
音楽 : 3.5
キャラ : 2.5
状態:観終わった
ジブリだとゲド戦記立ち位置のダークディズニー
ディズニーたる大手会社にもやはり興行的にそぐわない作品はあるようでして、今作の「コルドロン」は何でもディズニー暗黒期の象徴たる長編アニメ映画なんだそうです。
物語のあらすじは、手にしたものが無限大の力をもたらす謎の秘宝「ブラック・コルドロン」を巡って繰り広げられる壮大なダークファンタジーです。
「コルドロン」はディズニーアニメの中でも異色の作品です。
従来のディズニーは歌って踊るミュージカルありのカラフルな色彩で夢のあるキラキラな世界覧を誰しも想像する作品ですが、今作はミュージカル皆無でコミカル要素ナシ、物語も画面も暗い上、登場する悪役が総じて怖い。「ディズニーだわーい」なんてちびっ子が知らずに見てしまうと、あまりの怖さに震えて夜眠れなくなってしまうでしょう。ダークファンタジーと名義してある通り「暗さ」が終始漂います。
即ちダークディズニー…たまにはこんなディズニーもいいじゃないか!
「シザーハンズ」で有名な映画監督ティム・バートンが手掛けた美術も不気味で味があります。空飛ぶ暗黒のドラゴンが襲って来る場面はこっちに食い付いてきそうですし、アニメーションの質や世界覧は十二分に完成されています。話の筋も「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)」に似ているのでそちらが好きな方はオススメ出来ます。
作品としてどうかというと…これが微妙でした。
まずどうにも頂けなかったのはキャラクター。主人公のターランは王子様でもなく勇敢な青年でもなく豚飼いの少年です。
ターラン少年、思春期なのか自分が騎士になる妄想によく耽り、実力は到底ないのにプライドだけは一丁前です。別段始めはそんなんでも「きっとこれから成長するだろうし…」なんて保護者目線で温かく見届ければいいのですが、終盤の山場までこちらの期待に応えてくれる熱い男気を見せてくれません。主人公の難ありな感情移入し辛いキャラが、受けにくかった要因の一つだったと思います。
自信の無力さに苦悩するシーンも一応あるんですが…
{netabare}めちゃんこ強い素晴らしき剣を手にしてからまたもお調子に乗るので、印象は変わらず。最終的に剣に頼らない展開は良し。しかしあの剣は結局何だったんだろうなあ…。 {/netabare}
平凡な頼りない少年に焦点を当てたのは良かったです。でも少年が困難に立ち向かい成長して青年になっていく様を映画の中でも見たかったですね。
流石にこのような主人公だけではなく、個性豊かなおもしろサブキャラが出てきます。これはとてもいいキャラ!しかし、登場が唐突な上、人物背景も謎のままで何か活躍したかと言うと何かあったっけ、といった具合。魔王も見た目は怖いのですが、本当に見た目だけなんです…。癖のある悪役というよりただの悪役だったので、名前を今後とも覚えているかわかりません。
{netabare} 濃いキャラ沢山いるはずなのに総じて見せ場がないんですね。
千里眼持ちの可愛い豚は妖精の住処に預けられて以来、ラストシーンまでマジで出番がなかったのが驚きでした。
豚は危ない目にあったし苦労したし百歩譲ってまだいいです。だがドルベン、てめーは駄目だ。
ターランの師匠なのに「任せた☆」と言ったら本当にターランに任せっきりで一度も助けに来ません。こいつ本当に師匠なのでしょうか。 {/netabare}
更に宜しくないのが、ストーリーが大体キャラクターのぶっつけ本番の行動で展開してしまうため、かなり無茶があります。キャラクターが気にしなかった事は何事もなかったかのように物語が進んでしまいます。伏線はそれなりに回収してほしかったです。
題材もキャラも良かったのに惜しい部分が多かった…ジブリの「ゲド戦記」に印象が似ています。ちなみにタイトルの「コルドロン」は「大釜」という意味らしいです。何しろ日本人に馴染みの薄い単語です。邦題にはもう一工夫欲しかったですね。
テーマは恐らく「自己犠牲」かなと。終盤、あるキャラが取る行動は今作で一番描きたかった所だったのでしょう。全体的に展開にメリハリがあれば、多くの方に共感し得る感動的で隠れた名作とも呼べる作品だったと思います。