rurube さんの感想・評価
4.9
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:----
ジブリ最高。
今までジブリ作品で一番好きなのは『千と千尋の神隠し』だったがこの作品は間違いなく越えた。
正直映画館で何回泣きそうになり嗚咽を我慢したか分からない。
自分は映画も好きなのだがいわゆる普通の日常をテーマにした作品に何かしらのメッセージを入れるのは非常に難しい。なのでハリウッド映画を観れば分かるがいわゆるエログロの作品が多い。それはメッセージ性の作品を作る時にエンターテイメント部分を補うのが楽だからである。
例えば『明日に向かって撃て』は無法者を主人公にする事でメッセージである時代に取り残されていく人々(しかしそれは彼らに能力がないのではなく時代の変化についていけない人は一定量必ず出てしまう)を残しつつエンターテイメントとしても成り立たせている。別に職業を鍛冶屋にしても良いのだろうがそれだと映像として面白くない。実際に鍛冶屋だったら人気出なかっただろう。
この作品が素晴らしいのは対した話では無いのにも関らずエンターテイメントとしての体裁を整えなおかつメッセージを残している点である。
さらに最初のシーン(屋根を登るシーン)でジブリ特有の背景が動く作画にすることによりジブリ映画だという主張をしている。これを後半に持って来ない所一つが監督の苦悩を表していると思う。内容がジブリらしくない中でジブリ作品だというのを印象付けるそのために最初にこの作画手法を持ってくるのが本当に素晴らしい。
またキャラクターの良さも光る。この主人公は間違いなく少しおかしい。
肺炎の奥さんを上司の家に住まわせるのだから。不死の病で周りの人に移る病気なのだからわけがあるにせよ普通は言えない。それを言える人間像になっているのが無理のないストーリー展開なのだと思う。
この主人公は将棋の棋士の様だ。少し変わっているし気が付かない点もあるが職人はだから職人になれる。人生の短い時間で何かをしようとすればそれ以外の能力の欠如はしょうがない。
それと奥さんが好きになったのも分かる。奥さんの実家はかなり豊かみたいだし昔の話だから恋愛結婚なんて無かった。軽井沢で娘を下さいシーンがあるのだがいつ死ぬか分からない・いつ移るか分からない病気を抱えている娘に対して明らかに全てを理解出来ていない(要するに好きだから一緒になるのだとしか考えていない、いわゆる世間体とかの社会的弊害に全く気が付いていない)主人公の人となりに人間性を見つけている。
これって当たり前の様で当たり前ではない。例えば人って個人もあるが社会の中での立ち位置もあるし本来二つを合わせて個人と言える。今回の場合は病気が奥さんの社会での立ち位置になってしまっている。彼女は彼女だが社会的に考えれば病気の女でもある。そしてそういう観点から見るのは間違った見方ではなく現実である。
奥さんとの最初の出会いは地震の中であった。そのときに主人公は彼女がどういう人だか(実家が裕福)知らなかったが知った後も態度を変える事は無かった。そういう主人公の人となりに気が付いていたからこそあの綺麗で裕福な人は主人公に恋をしたのだろう。
たまに何でこんな奴に好きになるのだろうかってキャラがいるがこの作品にはそれが少なくても自分には無かった。
最後に声優の話をしたいが自分は基本的に声優があまり好きでは無い。特別下手でなければ気にならない、むしろアニメ声の方が違和感がある。特に日常をテーマした作品でアニメ声を出すのが不可思議だ。日常をテーマにしているのにアニメ声という非日常を入れるのは作品としてどうなのか?
監督が完璧性を求めていない結果としか思えない。
今回、主人公を庵野秀明にしたのは彼が職人だからだろう。むしろ完璧ではないのが完璧なのだ。実際の職人に声を出させているのだから文句は言えない。それと実際に少し違和感があるのが主人公の性格を現していて良い。