セレナーデ さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「巨人の目的は捕食ではなく、殺戮にあると考えられる」
座学の講師らしき人が言ったこのセリフ。
これにはかなり裏切られた気分になった。
というか、エレンの巨人化を受け入れれた人と、受け入れられなかった(冷めてしまった)人とは、
このセリフの受け入れ方から既にふるいに掛けられていたのではと勝手に想像してます。
1話を見た時点で、進撃の巨人という作品に何を期待したか、
もしくはその人の嗜好性の好き嫌いがどれだけはっきりしているかで、
上記のセリフの捉え方が随分変わってきたのではないかと思う。
{netabare}1話で巨人の世界を初めて体験したとき、勝手に思い込んだといわれたらそれまでなんだけど、
私にとって巨人の魅力とは「食物連鎖において人類の上位にあたる存在」であることだった。
知性の面において人間より遥かに劣っていながらも、生身のポテンシャルひとつ敵わないだけで
人類の「種」としての天敵になることの無情さ。しかしそれも決して不条理などではなく、
自然界における全うな摂理であること、その弱肉強食の摂理の中に人間と文明を放り込んだ世界観こそ、
進撃の巨人という作品に求めた(求めてしまった)ものだった。
だからそこに「殺戮欲求」という自然の摂理から外れた生理的欲求を設定付けた
「巨人の目的は捕食ではなく殺戮にある」というセリフには強烈な違和感を感じた。
食物連鎖のヒエラルキーの関係にある種と種との抗争という構図からフレームアウトして、
大げさに言えば、「人と人為的なものとの争い」の域にまで
牽引されてしまったようなこれじゃない感。
巨人をより脅威的に見せようとしてこんなこと言わせたんだろうなーと、
余計だよ、分かってないなーと落胆してしまったわけです。
しかし、実際半分その通りだったわけで。
「パニックもの」、と思わせといて実は「SF」、と思わせといて実は「人間が主役のミステリー」、
という壮大なミスリードにまんまとのせられてしまったわけですが、
パニックものからSF(エレンの巨人化など)へのギアチェンジに関しては
「そういう事だったのか、その祭りのった!」という気分にはなりにくい。
ミスリードと言えば聞こえはいいけど、そのジャンルをことごとく勘違いさせたり
混同させたりするような展開の運びは、当初はあまり良い印象ではなかった。
そのミスリード技術が悪い方向に転がった象徴こそウルトラエレン事件であり、
デュア!とメガネをかけて変身するが如く、ガブッ!と手を噛んで変身する。
おいおい一体どの年齢層に向けて製作しているんだよと、一度切ってしまった原因の決定打になった。{/netabare}
そうでなくともシリーズを通して見ても、
はっきり言ってストーリーの運び方自体はあまり洗練されているとはいえないし、
テンポがもどかしい時もあれば、ツッコミどころもあるし、
後付に近い展開で勝手に盛り上がることもある。
しかしシークエンスやエピソードごとに見た場合、特筆した魅力があるのが進撃の巨人という作品で、
「その時面白くなりゃそれでいいじゃん」と言わんばかりの力強い脚本や、
キャラクターの生き死の描写演出は当然の如く光るものがある訳です。
■単純にパニック物としての完成度の高さ
巨人が人を喰う(殺す)というフォーマット。
はっきり言って消費税の一部に巨人税みたいなを新設して原作者に収めてもいいくらい画期的。
この時点で既に商業的な椅子取りゲームに勝利したみたいなところがある。
あの巨人の造形やモーションの諸々、そして人の形でありながら人を喰う生態は、
まるで共食いの映像を観せられてるような、
生理的に訴えかけてくるものがある(だからこそ殺戮欲求の設定はかなり冷めてしまったんだけど)。
フォーマットだけではなく、単純にパニックものとして魅せる脚本の巧さがそもそも秀逸で、
そこもまぁほんと言葉に出来ないくらいよくできてるんですよこれが。
「パニックものからSF」の展開には乗れなかったが、
「SFからミステリー」の展開に関しては、その祭り、のった!と素直に喜べた。
ミステリー色へのギアチェンジの仕方もさることながら、パニックものとしての
インパクトとのシナジーも抜群に取れた展開は、意識が釘付けにされるには充分すぎるほどだったので。
■絶望感、緊張感の演出の巧さ
そもそも1話で「人を摂理の中に組み込んだ世界観」を期待してしまったのは、
この技術の高さが一因でもある。典型を外してるようで、実は典型的なようで。
例えば1話で藤原啓治のおっちゃんが、エレン母を助けるため巨人と対峙する場面、
「飲んだくれのおっさんが改心したのに闘ってやむなく散る」のではなく、
「巨人を間近にした途端、エレン母を切り捨て逃げることを迷うことなく決意」させた。
この時立ち向かって無残に死なせても、それはそれで絶望感のある運びにはなったかもしれないけど、
この逆に生かす、というより一瞬で生(逃げ)を選択させたことにより、
死なす展開とは同じなように見えて、似て非なる絶望感を生成することができてると感じた。
こういうキャラの立ち回らせ方をはじめとしたテクニックで雰囲気を演出する巧さみたいなのが、
シリーズ通しても随所に散りばめられてる。
■「食物連鎖」を彷彿としてしまったもうひとつの理由
実際は「殺戮が目的」とされちゃったわけなんで虚構に終わる話なんですけど。
1話はプロローグとしては最高の掴みだと思うし、
一気にハードルが上がったのも頷ける出来なわけですが、
そこで地味に印象的だったのが、エレン母を喰った巨人が「喰う前にトドメを刺した」ことです。
正確にはトドメの刺し方でしょうか。
犬より知性が乏しそうな巨人が、力任せに人間を殺すのではなく、
両手で持って脊髄を引っ張る、というなんとも理にかなったトドメの刺し方を披露しましてね。
肉食動物が獲物の喉元に喰らい付いて息の根を止めようとしたり、
鳥が虫をこれでもかというくらい地面に叩きつけて弱らせようとしたりするように
「獲物の殺し方、トドメの刺し方」というのを本能で分かっているような節が
その巨人の行動から感じられて、まさに「人類の天敵」であり、
食物連鎖において人類の上位な存在なのだな、と理解してしまったわけです。
しかし、そんな行動はこれっきりで、これ以降は皆生きたまま喰われてしまってましたが。
■何気に魅力的なセリフ回し
これも地味に好評価の支えになってるファクターだと思う。
「俺に勇気がなかったからだ!」「黙って俺に全部投資しろ!」
大声で叫ばせるに値させんとする語彙や言い回しの工夫が感じられる。
人間ドラマの部分を評価するなら地味ながら絶対外せないポイント。
■物語にさらなる命を吹き込んだ「アニメ化」
アニメ化の成果としてはおお振りの系統に入るかと。
漫画の絵は後で見たんだけど、まぁはっきり言って画力には難がある。
物語は魅力的だが画に難があるタイプの漫画。
だからこそ、よくぞアニメーションでキャラクターやアクションに命を吹き込んでくれたな、と。
それだけで価値がある。遠目に人を描くとたまに手抜きになってたりと、
シリーズ通しても最高レベルの作画、とはいかなかったが、ここぞという時はよく動かしてくれた。
■BGM
これに関しては愚痴。
音響演出のレベル自体は高い。
しかしBGMにいかにも商業的な挿入歌を使うのはやめてくれ。ほんと萎える。
■巨人はクチャラーでいて欲しかった、という不満
愚痴ついでにもうひとつ。
「巨人が人を喰う」。
既述の通りこの掴みだけで既に判定勝ちみたいなとこがあるわけなんだけど、
何気に小さく不満なのが巨人の人の喰い方である。
記憶の限りでは、丸呑みするか、前歯で人体を噛み切るくらいのことしかせず、
クチャクチャと音を立てたりモグモグと咀嚼したりしていない。
なんというか、人間を「喰ってる」というより「胃袋に入れてる」という感覚に近い。
我ながら恐ろしい人間だと思うけど、
巨人にはもっと、口の中のものが見えるくらいクチャクチャ咀嚼したり、
口からものをボロボロこぼす様な、それくらいマナーのなってない喰い方をして欲しかった。
今思えばこの時点から、巨人の生態に違和感を感じていたかもしれない。
この喰い方には、講師のセリフの通り「食事」というより「殺し」のテイストが感じられる。