aaa6841 さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
調和した世界観が途中で崩壊
日常アニメの代表格と言っても過言ではない本作だが、軽く流し見する程度だと、「こいつらずーっと締まりのねえ会話してんな」くらいにしか思わないかもしれない。
しかし、このアニメの狙いは、「媚びすぎず、出来るだけあざとさを抑えながら、視聴者を気持ちよくさせる」という点にあったと思われる。
何も、視聴者に自己投影させるための適当な男(主人公)を登場させて、ハーレムを組織し、繰り返し女の子(ヒロイン)の頬を紅潮させなくてもよいのである。
●しょうもない事をいたって真面目にやる空気感
このアニメのキャラクターたちは、部活の合宿中(と称して海で遊んでいる時)に、唐突に、無人島に漂流した子芝居が始まり、見つけた海草を拾って、「助かった・・・」としみじみしたり、海水を飲んで「水がしょっぱいぞ!」と言ったりするくらいには真面目なのである。
このような様子を繰り返し見せられ、見ている側に馴染んでしまうこの空気感。
そう、これは、幼稚園児が公園でおままごとに興じているところを、少し離れたベンチから眺めているような感覚である。
幼稚園児を見て、あざとく感じる人間は・・・まぁいないだろう。
●フワフワポワポワした世界観の中で、冗長にならないテンポの良さ
全体的にテンポが良く、シリアスな場面も長くなりすぎない。
第1話で、平沢唯が、軽音部は軽い音楽だと思い、軽い気持ちで入部したものの、楽器も何もできないので入部を取り消すと言い、3人(田井中律・秋山澪・琴吹紬)に無駄な期待をさせたことに責任を感じて泣きだすというシーンで、普通であればこの程度で泣かれると、鼻につくあざとさがどうしてもぬぐえず、見ていて「うわぁ・・・」となりそうなシーンなのだが、ここで3人がダラダラと唯を励ますのではなく、律の「演奏だけでも聞いていって」という言葉に、唯が一瞬で食い付き、いつの間にか泣きやんでいるという流れで、シリアスから一気に軽い空気に引き戻されるため、見る者によってはうっとうしいと感じる「あざとさ」が、綺麗に捌かれて、ギャグっぽくなっている。
キャラの泣き顔のような、「あざとさ」を好む視聴者の需要にも応える、上手いシーンだった。
このように、シリアスになった時には、誰かがその空気をうまくぶっ壊してくれるので、見ていて違和感があるような、「共感できない感動のシーン」にイライラさせられない。
●緩急のある秀逸な「間」
静動の切り替えで、見せるシーンが面白い。
第3話で、唯が、追試になって1人自宅で勉強に励むも、他の事に気をとられ、勉強ほったらかしでギターに興じ、気づくと午前1時を回っており、「もうこんな時間、お風呂入って寝なきゃ」と言うシーンで、このオチ自体もそれなりに面白いのだが、ほとんど動きも音もないその場面で、視点が切り替わる時や、唯が声を出す時の「間」が秀逸で、より面白いものに昇華されている。
大半がゆるい内容のアニメなので、このようなシーンが際立って見える。
●期待を裏切るズレた言動
各々のキャラが、突飛と言うほどではないが、そのキャラの人格からは少しズレているのではないかと感じるような言動をする。
・軽音部に入る以前の、唯と真鍋和の下校シーンで
唯「う~~(唸っている)」
和「唯?」
唯「せっかく高校に入ったんだもん、何かしたいよねぇ」
この会話の流れと、優等生らしく面倒見の良さそうな和がとりそうな言動を察するに、何か現実的な提案をしたり、軽い説教ぐらいは始めだしそうなのだが、その時の和の返事はこうである。
和「うん、すれば?」
和の一言目で、「唯がうなっているのを、わざわざ気にかけてあげる和ちゃん」という構図が出来上がっているように見えるのだが、唯がその理由を話した直後、すごい雑になる。
・律、澪、ムギ(琴吹紬)の3人で、唯を軽音部に勧誘するが、唯の掴みきれないキャラに苦戦しているシーンで
ムギ「好きなものとかある?」
唯「あっ、可愛いものが好き・・・かな」
澪「苦手なものは?」
唯「暑いのも寒いのも苦手なんだ。冬はコタツに篭りっきりだし、夏は床の上を転がってばかりいるの~」
律・澪「手ごわい、一体どうすれば」
この後、ムギが何か言うとすれば、穏やかでマイペースという感じのキャラクターから察するに、いかにも天然らしいお花畑感のある発言でもしそうな雰囲気なのだが、その時のムギの発言はこうである。
ムギ「わかりません(即答)」
突然すんげえハキハキする。
現実の世界では、この程度のズレは普通にあることだし、軽く鼻で笑うくらいでスルーするだろう。
しかし、大抵のアニメキャラクターは、「キャラがブレない」ように出来ており、そこからズレた言動をすれば、変な空気になったという演出が入ったり、誰かが突っ込んだりするものなのだが、そこを軽々とスルーしていくこのアニメには清清しさすら感じる。
ここで、あまりにも突飛な言動をスルーすると、ただのギャグになってしまうのだが、かなり微妙なレベルの物言いをスルーするので、どこか引っかかりを感じて、ついニヤリとしてしまう。
このような「期待の裏切り」が狙ったものなのか、単にキャラがブレているだけなのかはわからないが、見ていて自然と突っ込んでしまう結果、このアニメに引き込まれているという状況に陥る。
このアニメは、上記のような要素が融合して、心地よい世界感をつくりだしている。
ただし、この完成されたように見える世界感が続くのは、序盤までである。
第4話で少なからず違和感を覚え、それ以降は順調に残念なことになっていく。
その原因は、主要キャラの1人である「秋山澪」が、安っぽいキャラになって「媚び始める」ことにある。
「怖がっている女の子や、恥じらっている女の子を見て気持ちよくなってくださいね~」と言わんばかりに、「ヘタレキャラ」を、全面的に押し付けてくるのである。
それはそれは、えげつない媚び方だった。
まるで、他のアニメから引っぱってきたような感じで、4話以降、澪はマスコットキャラみたいな存在になる。
仮に、「美人で、スタイルが良くて、大人っぽい秋山澪」に、ヘタレ属性を付けることで、1つの「ギャップ」により魅力を高める狙いがあったのだとしても、もはや「良い部分」の面影が塗り潰されるほどに、「ヘタレ」を強調しすぎているので、これでは風情もなにもあったものではない。
そもそも、第2話で、唯のギター購入の資金集めのために、嫌々ながらも、これも仲間のためだと思い、どんなバイトでもやると言っていた頃の、いじらしい澪の姿はどこに消えたのだろうか。
この結果、あざとい、くどい、安っぽいの三重苦で、見ていて「安心できない」アニメになってしまった。
馬鹿(唯・律)と、常識人(澪)と、宇宙人(ムギ)でバランスを取り、洗練されつつあった世界感が、そこで瓦解した。
ただし、話数が進んでいくと、この澪による「萌えのごり押し」も減っていくので、まだ救いがある。
このアニメの最初の印象が、「キャラが女の子だらけの割にはあざとさが薄く、笑える要素もあり、調和のとれたアニメ」という感じだっただけに、何かもったいないという思いが残った。
ちなみに、このアニメは、幼い高校生を描く学園モノである割に、懐古してしまうような情緒的なシーンが無さすぎるのだが、音楽室で「翼をください」という教科書的な曲を、下手クソな演奏でやるところは、なかなか感慨深いシ-ンだった。