蜂須賀 さんの感想・評価
3.6
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 2.5
音楽 : 4.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
評価の難しい「良作」
※当レビューは全て個人的な感想であることをご理解下さい。
なんとレビューして良いものか、非常に評価に困る作品である。
まずなんといっても「宮崎駿」というだけで、大なり小なり、プラスなりマイナスなり何かしらの先入観を完全に排除することは不可能だろう。
私もその例にもれず、未だに「となりのトトロ」や「魔女の宅急便」「もののけ姫」といったような過去、もしくは現在ドハマりした作品の幻影を追っているのだとわかった。
物語自体は良い。尺の問題か、私の理解力の問題か、時折場面転換に戸惑うこともあったが、ラストシーンからエンディングにかけての演出には涙腺が緩んでしまった。
キャラクターも良い、と思う。特に主役の二人にはそれぞれの心情を想像する余地も残され、また非常に魅力的な「人間」として描かれている。
声優の評価は非常に迷ったが、個人的な判断はともかく、まぁ上手くないことはまず確実だと感じるため評価を下げた。しかしながら、それが良い味を出していることも事実であり、キャスティングや各声優に対する批判等に繋げるべきではないだろう。
作画と音楽は言わずもがな。特に述べる点はなく、流石としかいいようがない。
ここまで、それぞれの評点に対して一言ずつ理由を述べたが、全体的な感想としては良作、良い映画だった、という印象だ。傑作というほどではなく、かといって観たことを後悔はしていない、という感じ。これは偏に、好みによるものではないかと思う。
ファンタジーではないため例えば「もののけ姫」などにみられる、物語全体を利用した壮大なメッセージ性は感じられず、世界観で魅せるような作品ではない。また主役の二人が他作品に比べ精神的に成熟しているため、作品を通しての精神的な成長や、冒険、発見などといったワクワクする要素もない。
故に、宮崎監督の他の作品と単純に比較することは難しいし、私など上述した要素が大好物なため、作品自体に魅力を感じることが出来なかったのではないか。
しかしながら、これらの先入観、嗜好を排除すれば、純粋に素晴らしい作品であると考える。
特に後半、随所で見られる死の気配。コレが、観る者の心を掻き立てる。
そんな中で、
仕事の為菜穂子と離れ離れになることを容認した次郎。
菜穂子が会いに来た際、病院に帰すのではなく、近くで暮らす決断をした次郎。
療養のため、次郎と離れ、故郷を離れることを選んだ菜穂子。
療養所を飛び出し次郎のもとに行った菜穂子。
に代表される様々な事象の結果訪れる結末。
何が正しく、何が間違っているのか、なぜあのような行動を取ったのか、自分であったならどうするだろうか。
ほぼ全てのシーンでこのような考えにさせられ、やってくるラストには鳥肌が立った。
苦悩することは若者だけの特権ではない。
むしろ大人の方が、日々苦しみ、悩み、嘆き、正解のわからない選択を続けている。
戦争の時代を描きながらそれに関わる描写がほとんどないことも、現代の私たちが自分を重ねることのできる理由だろう。
この二人は、「等身大の人間」である。
それも、社会的責任を負った大人だ。次郎は有能であるが故に、それも殊更大きいだろう。
時代を超えた共感と、涙腺を緩ませる物語。
たとえアニメに求めるものが違ったとしても、たまには、こんな物語も良いものだと感じるばかりである。