めいろ* さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
先入観で作品を評価することは出来ない。
舞台はネオ・ヴェネツィアと呼ばれる水の都。そこで水先案内人、ウンディーネの水無灯里が、プリマを夢見て仲間や先輩、町の人々との触れ合いを通じてウンディーネとして成長していく日々を綴った作品です。
初めはなんとなく、触れにくいと言いますか。
こう、元気な掛け合いのある女子高生の日常ではありませんし、
馬鹿な話が面白おかしい日常でもなく、
ただこの”ネオ・ヴェネツィア”という舞台で起こる日常は、果たして退屈だという先入観を当初は抱かざるを得なかったからです。
現代の長いタイトルの作品に慣れてしまったのか、この”ARIA”というタイトルにも若干の疎外感が自分の中にあった事は否定しません。
なんとなく取っつきにくい、心が詰まるような、当初は辛辣で億劫な印象さえ感じた本作品を一話見た時、先入観と言うのは全くもって選別にあたっては必要のないものだと強く感じました。
あくまで悪い印象を抱いていた訳では無く、しかし良いとも言わないどっちつかずに感じていた本作品を、僕は今でこそ最高傑作だと評することができます。
本作品は特に争いも無く、ただこの舞台にある日常が描かれた本当にただの日常作品です。
横道に咲いている花が綺麗だね。
あそこのお店は美味しそうだね。
雪だるまが作りたいね。
ちょっとお散歩しようよ。
誰でも言えるような事をただ言って、
誰にでもできそうな事をやってみる。
そんなただの日常が三期まで続きます。
本作品は、もちろんそんなただの日常が楽しい作品ではありません。
人物像や情景描写が際立って美しく、採用される音楽の全てが作品にマッチングしている点も、むしろ本作品にとっては小さな事ではないでしょうか。
とても思い入れのあるペンダントがある日なくなって、
諦めた頃に野良猫が咥えて持ってきたら。
僕なら、戻ってきて良かったと安堵します。
ラッキー、とも思うかもしれません。
少なくとも、そこには”思い入れのあるペンダント”が主体としてあって、それに対しての感覚が主になるのかなあと少なくとも僕は思うわけですが、
まるで私の想いが言葉を超えて、この猫に通じたみたい。
なんて言うのは、彼女が言いそうな言葉です。
僕が本作品の最も感銘を受けた点は彼女、主人公の灯里の感性そのものです。
灯里の作中の台詞に、こんな言葉があります。
「長い時間一緒にいると、みんなの会話が途切れることがあります。
それはとても自然に訪れる、素敵な静寂。
私はこの空気が、たまらなく好きだったりします。」
僕には、この空気感をはっきりと捉える事が出来ません。
それでも、何と無く伝わりませんか。
不意に訪れた静寂が、とても温かいものであるように感じませんか。
彼女を表すこんな台詞もあります。
「初めましてを言うときってキュンって鳴りますよね。
人と人が出会うのは素敵な奇跡だから、
その瞬間を宝物にして取っておきたくなっちゃうんですね。」
僕には、この感覚ははっきりどころか、全く捉える事が出来ません。
初めてというのは例え人が相手でなくても、緊張と不安が入り混じるもので、少なくとも真っ向からポジティブに考えるような事ではありません。
少なからず、僕はそう思っていました。
作品に人生観を変えられた。と言うのはよく聞く話で、僕も実際、色々な作品から影響を受けて、人生とは大仰かもしれませんが、しかし生きる上での変化みたいなものを感じてきたつもりです。
だとすれば、本作品は唯一、僕の人生観を大きく変えた作品です。
町に住む人達がみんなとても温かくて、
灯里が度々感じる素敵も繊細で優しく、
感じる事全てが美しい。
最後になりますが、ここでタイトルに回帰します。
当初の僕と同様に、先入観で視聴を躊躇っている方がもしいるなら、
この作品を見ることで、きっと何かが変わるようなことはありません。
ただの一作品を消化した。
そう淡泊に感じる人も少なからずいるでしょう。
一例ですが、僕がこの作品を見ていなかったとしたら、
そう考えると、今の僕には想像が出来ません。
何が変わったかと言われると、いまいちぴんとこないのも事実です。
しかし、少なくとも、どの作品よりも僕が受けた影響が大きかった作品であることは間違いがありません。
結局のところ、自分勝手な思いではありますが、
僕はこの作品を少しでも多くの人に見てもらって、そして感じて欲しいのです。
彼女の見ている景色を、現代の僕達が感じるべきなんだと、そう思うのです。