雷撃隊 さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
ガキが見るとMSがかっこいい、年食った後見返すと怖い富野版魔笛
この映画、ガキの頃見た時はとにかくガンダムF91自体のカッコよさにしびれた。主人公シーブックと恋人セシリーがガンダムとビギナ・ギナを駆りコンビネーション・プレイをやらかすその姿が単純に素敵に思えた。でも大人になって見返すとゾッとするような怖い話だ。骨肉殺しの連鎖がナントモおぞましい。
没落貴族であるロナ家のお家騒動がさながら古典劇の世界だ。もともと富野由悠季という監督はシェークスピアとかオスカー・ワイルドみたいな古典じみた作風や台詞回しが多い。シャアなんかそのままハムレットだしイデオンのバッフクラン側の物語とかは「ヘンリー8世」みたいだし初代ガンダムのザビ家の物語は「マクベス」みたいだ。このF91はさながらモーツアルトのオペラ「魔笛」を連想させられる。(脚本はシカネーダーという人)
貴族の別れた夫婦が娘の親権を奪い合っていたりヒロインは恋人とつるんで親殺しに走ったり共通点が多い。「家庭の問題だからな」「血縁は己の手で断ち切る」「大人のやることに口出しするのは悪い子だ」。意味が理解出来ると怖さが増す言葉の数々だ。華やかなロボットアクションとは裏腹に陰湿な家族、血縁者の殺し合いの世界だ。悪役でヒロイン・セシリーの父親のカロッゾ・ロナは婿養子で挙句妻に逃げられたコンプレックスの塊の様な男だ。トチ狂って人間だけを殺すマシーン「バグ」を開発する。そして妻を寝取った男シオまで殺害する。母親ナディアはセシリーを連れて駆け落ちした挙句勝手な理想ばかりを押し付ける。結局セシリーの行動は親たちの全てが嫌になり男に走った挙句親殺しだ。恐ろしい。でもだからこそガンダムが希望の象徴として輝くわけだ。ちなみに角川文庫の小説版ではシーブックとセシリーがガンダムに二人乗りでラフレシアと戦う。つまり自分の手で父親を殺すわけだ。
一方シーブックの家族はバラバラだったのが絆を取り戻してゆく。そして母親が作ったガンダムF91がセシリーを救うことに。この家庭の対比が好対照でいい。
登場MSは逆襲のシャアの時代から30年後なので18m~22mだったのが15m程度にサイズダウン。重厚感よりスピード感。F91のウェスバーって武器、今見てもカッコイイ。ビギナ・ギナ、ヘビーガン、F91の3機編隊はバランス良くて美しい。
ベルガ・ギロスやダギイルスも鋭角的でザク系とは明らかに違う。ユリの花を付けて出撃するビギナ・ギナのカッコイイこと美しいこと。ゲームのスーパーロボット大戦でよく流れるF91のテーマ曲も聞き慣れてる人も多いのでは。ちなみにゲームでは主題歌「ETERNAL WIND」じゃなくてプロモーションフィルムで使用されている「君をみつめて」という歌が流れる。ちなみにこの歌は井荻燐こと富野監督の作詞だ。主題歌、イメージソング共に名曲だ。
ガンダムとかパトレイバーとかに登場するロボットって結局陰湿で凄惨な物語を和らげる箸休めなんだろう。出てくるとほっとする。暗い連続殺人ものに登場する名探偵と同じ役割だ。「八つ墓村」で金田一耕助が出てくると安心するのと一緒だろう。やはり必要不可欠だ。
いつまでも希望であれ、ガンダム。