雷撃隊 さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
アニメが幼稚という偏見を持った人こそ見て欲しい映画
「ロボットアニメなんて幼稚だ、いつまでそんなガキ臭いもの見てるんだ」という偏見を持った自称一般人(凸守風に)こそ見て欲しい映画だ。「お前らにこの高尚なストーリーが理解出来るのか?」と言ってやりたい。25年も過去の作品とは思え
ないほど洗練されていて完成度も高い。WINDOWSなんて影も形も無くパソコンはマイコンとかDOS.Vとか呼ばれてた時代にコンピューターウイルスを使ったサイバーテロを描いているのだから押井監督の先見性、感服する。もともとパトレイバーというシリーズは公務員の日常の話で特定の悪役が出てこない。つまり縦軸のストーリーが存在しない独特の作品なのだが100分の映画に凝縮すると「ああなるほど、パトレイバーってこういうテーマの警察ドラマなんだ。」と納得する。
押井さんのテーマである都市論、組織論も重厚な社会派ドラマだ。台詞が無いなか朽ち果てた神田川や御茶ノ水の風景を映す場面は近代都市の描写と相まって東京の光と闇を見事に表現。サイバーテロを仕掛ける犯人は既に自殺。さながら亡霊のようなウイルスプログラムが一人歩き。死んだ男のメッセージが様々な顔をもつ首都東京に浮かび上がる。「我々は何者なのか、どこへ行くのか?」「俺が仕掛けたトラップを解けるものなら解いて見せろ」と。対してメッセージを受け取った後藤隊長と松井刑事は「ここ(東京)は奇妙な街だな、見慣れていた風景があっちで朽ち果てこっちで廃墟になり、時の流れに取り残されたような気分にまっちまう」「俺たちがいまこうしてる場所だってちょっと前まで海だったんだぜ、それすらもすぐに一文の値打ちも無い過去になっちまう、悪い冗談みたいなもんだな」とくる。犯人が哲学的なら警察の哲学的だ。
犯人の人物像を推理するのは後藤隊長。犯罪のシステムを暴くのは篠原遊馬、アクション担当は主役メカのイングラムを操る泉野明。彼らの役割分担も絶妙だ。後半のロボットバトルも迫力満点だ。台風の上陸までの時間との戦いとイングラムや零式の大活躍、今みても作画のレベルが高いし臨場感抜群。「発砲は避けろって言っただろが」「だから避けたよ、可能な限り」なんてやりとりはイノセンスでセルフパロディに使用されてた。後藤さんが官僚相手にトークバトルやらかすシーンは「踊る大捜査線」の原型だ。「台風の進路を変えるか、8000台のレイバーを解体するか、超高層ビルをなぎ倒すか、それとも四者択一、ご決断願います」名台詞だね後藤さん、中年のカッコよさ全開だ。「今更言う事は何も無い。思う存分暴れて来い」「俺はね、しのぶさん、奴が高層ビルを見上げながらどんな犯罪を企てていたかよく解るよ」「奴が飛び降りた時、本当の勝負はついていたのかもな、どっちに転んでも分の無い負け戦さ」なんか、気がつくと覚えてる台詞のほとんどが後藤さんの台詞だ。彼は作品のテーマを語る影の主役で押井監督の分身だ。次回作では後藤さんが主人公に。後に「踊る」の本広克行監督は「サイコパス」を製作する。
この製作チームの作品、「パト」「攻殻」「サイコパス」とどれも面白すぎて困る。普通の刑事ドラマやサスペンスがつまらなくなってしまう弊害があって困る。
キャストは古川登志夫や千葉繁ら「うる星やつら」から引き続き登板している人達が多い。主人公の野明、初見のとき、変身してない森沢優が20台になったみたいだな、と思った。南雲しのぶは綾瀬めぐみみたいだったし後藤隊長は木所課長に似てるなーと思いながら見ていたが、「クリーミーマミ」と「うる星やつら」の製作陣が合流して「パト」を作ったと後に知り世の中狭いと驚いた。
川井憲二と押井アニメとの相性、この時から既に健在だ。映画1,2とも最強タッグだ。「約束の土地へ」という主題歌があるが本編未使用なのが残念。歌詞の内容がぴったりなんだけど・・・。
20年以上経っても古臭さをまるで感じない名作なので自信を持って布教活動させていただきます。