おなべ さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
「もう寂しさなんて感じなくていいからね」
人間界に潜む"はぐれ神魔"と呼ばれる妖怪を、監視者である主人公"美夕"が相棒"ラヴァ"と共に闇の世界に封印する、という水戸黄門形式のようなわかりやすいお話。
前半は神魔を退治する1話完結型が続き、後半からは登場人物のドロドロっとした心情にスポットを当てられ最終決戦に向かって行きます。
この作品には何でしょう、とても上品で美しさに溢れておりまして。
川井憲次さんが手掛ける和風の音楽、おどろおどろしく怪奇的な雰囲気やストーリー、主人公美夕の形容し難い印象的で魅力溢れたキャラクター等、作品全体がとても洗練されていて気品ある作品だなあと。こういった雰囲気の作品には中々出会えないかもしれない…。一昔前の作品でありながらも、古臭さを漂わせることがありません。
1話完結のシンプルなストーリーでありながらも、テンポよく各エピソード中身がギュッと凝縮された一癖も二癖もある内容を見せてくれます。ただ単に勧善懲悪で終わらせるのではなく、出て来るゲストキャラクターには様々なドラマや生活があり、ほんの少しのことで道を誤ってしまう人間の弱さや悲劇をとくと描写しています。
本来は人の弱さや歪んだ心に取り付くはぐれ神魔の存在も、徹底して外道な奴もいれば、人と共存を願う者もいたり、監視者の目を逃れようとする者もいたりします。それでも”神魔”として生まれた以上、人間のような幸せを願っても運命や宿命には抗っても逆らえない無常観が映し出されていました。”悪”として一方的に描かない所が感傷深く、毎度考えさせられましたね。
各エピソード、大体が後味が悪い悲壮な終わり方をし、最後の美夕の〆となる台詞が非常に効いてきます。美夕の台詞をどう受け止めるかで、話の印象も大きく変わりそうです。
印象的なエピソード
17話「うつほ船」
{netabare}一人の人間に尽くそうとする神魔の物語。神魔が幸せを望んでも、残酷な運命には抗えない哀しさが伝わってきました。夕焼けをバックにした美夕と神魔の会話が互いにやるせなかったです。またいつもは冷酷で容赦ない冷羽が、感情的なところが印象深かったです。最後の「私たちには(西の幸せな国には)行けない所ですね…」台詞がまた寂寥感満載でした。{/netabare}
20話「鱗翅の蠢惑」
{netabare} 一番好きなエピソードです、ハイ。父と娘の禁断の愛…という、当時はよくこのような衝撃的なテーマで放送出来たなあと舌を巻きました。作中屈指の作画クオリティで、ゲストキャラの曽根璃莉が美少女。彼女に穏やかな表情で話しかけるいつになく優しい美夕が見られます。
蝶の妖精に捕われた父親を幻惑していたのは実は娘の璃莉だった…美夕の表情や声のトーンからして道徳的にかなりアレな事をしてしまったんだろう事案を想像出来ます。美夕の微妙な表情や声のかすれ具合から、彼女の複雑な心境が伝わってきます。父親が炎に向かって走って行き、灰になった時の美夕の瞳の揺れが印象的でした。{/netabare}
作中には美夕の名前からか、もしくは"夜と昼の狭間に蠢いている"神魔の設定からか、オレンジ色の美しい夕焼けがよくバックで映し出されます。夕焼けが掛かったキャラクターの色彩の美しさも見所です。
主人公美夕は監視者として動いており、根本的には神魔に取り付かれた人間がどうなろうが興味ありません。ただ”監視者”の運命を受け入れて仕事をこなす職人肌というか古来の日本的な強さというか、そういう達観した部分もあるのですが、時として己の運命に苦悩したり、情に流されやすい甘い部分があったりします。心優しく物哀しい姿にはとても共感しました。基本凛としている美夕が垣間見せる寂しそうな表情や、震えたような哀しい声の演技に注目すると心境が読み取れて面白いです。声優の長沢美樹さんの芯の通った囁くような声が美しい。台詞一言一言が、美夕の人生観を物語っているようでした。
重く辛い運命を背負い生き続けなければならない彼女を見ると、あんまりではないかぁと次ぐ次ぐ思います。それでも美夕の心の支えでもある相棒ラヴァの存在や絆があるからこそ、まだ救いがあるものかなと感じました。
{netabare} 1話「私にも選ぶ権利があると思わない?」の台詞。そういった運命に生まれて来たから”監視者”として生きなければならない美夕の内心を表しているのかと全話見て感じました。しっかしね、お母ちゃんにねそーゆー星に生まれて来たからはぐれ神魔倒すんやでと突然重い仕事を任せれた美夕はもうどうしよーもないというか、ただただ哀しい。冷羽が美夕を恨む事情は確かにわかるのだが、何も美夕にばかり怒りの矛先を向けなくても…。 {/netabare}
出て来るキャラクターは美少女祭りなんですが、萌え萌えキュンな要素は殆どないです。ひたすら作品の雰囲気は一貫していて上品。キャラクター同士の会話も優雅で、媚びている台詞とか全くないのに掛け合いにクスッと来たりします。アメリカンジョークならぬジャパニーズジョークと言ってはなんですけど、美夕の切り返す言葉が余裕ある的確さで痺れます。気品溢れた姿勢で、登場人物や台詞、展開にストレスを感じる事はなかったです。
難点を挙げると、ともかく救いがない展開があまりにも多い事でしょうか…。一話から壮絶な皮肉混じりの後味悪い〆を見せつけてくれ、全話そんな調子なので見ていると参ってしまいそうです。
更に最終話…前半の細かい伏線がえげつない展開に繋がります。あまりにシビアで酷なラストシーンで非常に鬱々しいです。
{netabare} 最後の神魔が千里って…エエー。手鞠歌のEDの後千里の生首もってこちらを振り返る美夕がもう…。折角友達が出来たのに、友情を利用されるなんて、美夕はどう思ったのだろう。{/netabare}
どれだけ酷い目にあっても逆恨みされても運命に翻弄されても、涙を決して流さない美夕の強さには感心させられるけど、「もう無理しないでおくれ…」とこちらが心配してしまう程やるせなくなってきます。
ホラーな雰囲気とよくマッチしているものの、作画がちと荒めな話があります。若干紙芝居のような動かないアニメーションが見られるのも1つ難点。神魔との戦闘シーンはワンパターンが多いので、アクションをメインに捉えると肩透かしを喰らうでしょう。神魔に捕らわれる人間の悲劇、人間ドラマを重視すると物語は楽しめます。
後味が悪いけれど、深い味わいや余韻に浸れる哀愁漂う話は日本映画にもイメージが通じる所がありそうです。アニメ好きももちろん、大人の鑑賞に耐えるアニメなので映画好きな方も是非見て欲しい作品です。
余談ですが…20話にて、監督平野俊貴、脚本小中千昭、作画監督西岡忍、主演岩男潤子のメンツが再集結した別の作品が「デビルマンレディー」です。吸血姫美夕の救いや余裕を徹底的に排除したのがデビルマンレディーになるのかなあと。どちらも雰囲気やおどろおどろしさが似てなるので、お二つ一緒に見ると楽しめるけど鬱々しくなります。