plm さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
誰かに救われる物語
あまりにも駄作駄作言われてたので覚悟して観たら、案外面白くて驚いた。
これが何故それほど叩かれているのか、どういうことなんだろう?と思って調べてみると、
原作とのテーマ性の相違が大きな批難ポイントであるらしい。
端的に言えば、原作では離別と自立に至る、人間の精神性を段階的に描いているのに対し、
本映画では、問題は"悪"という存在に単純化され、問題が暴力によって解決されているのだという。
また宮崎駿が描いたジブリ作品は「子供が大人になるときには苦痛が伴う、その試練を乗り越える」
ということが一貫したテーマになっているらしいのだが、この宮崎吾朗版ゲド戦記では、
主人公が「自分と向き合い克服する」ということが描かれておらず、
周囲の力によってなんとなく成長した気になっている、と言われているようだ。
まぁそういう批判ならわかる。
「ゲド戦記」の名を冠している以上、原作のテーマからずれてしまっているのは問題であろうし、
宮崎駿作品に一貫していた"成長の力強さ"を感じない、というのもたしかにそうかもしれない。
しかし、はたしてそこまで内容を汲み取った上で批難している人達がどれだけいるのだろうか。
あれだけ評判がよくないのは、内容自体が本当につまらないものなのだと考えていたのだが、
別の作品と考えれば、それほど悪くないのではないかと個人的には思ったのだ。
テーマ性で批判されるのはわかるが、単純につまらないという意見には疑問を覚える。
例えば個人的に気に入ったところ、アレンが死など恐れないと言ってチンピラに食い掛かるシーン、
恐怖とも昂揚とも言える狂気に満ちた表情と真剣の差し合いは緊張感があった。
このシーンを経てテルーの「命を大切にしないやつなんて大っ嫌いだ」という台詞がでてくる。
それから死を恐れたり、死にたがったりするアレンの不安定さは
生きることから目を背けようとしているんだ、という核心に迫っていった。
この流れは論理として自然に思えたし、たしかにテルーが唐突に説教臭くなったような気はするものの、
これでアレンの心理が変わっていくという展開は理解できる筋道だった。
ようは「不条理な世の中で、誰かの優しさで手を差し伸べられて、救われる物語」なんだと思う。
人間の力強い成長といったものがない、軟弱なテーマともいえるけれど、
ハイタカはアレンを救い、アレンはテルーを助け、テナーは温かく包みこんで育み、
またテルーが今度はアレンを変え、そのアレンがハイタカを救うことになった。
誰もが誰かを支えている、優しいストーリーの作品だなぁ、と純粋に思ったのだ。